ニュースパキスタン、核分裂性物質生産禁止条約に強硬に反対

パキスタン、核分裂性物質生産禁止条約に強硬に反対

【トロントIDN=J.C.スレッシュ】

兵器用核分裂性物質の生産を禁止する世界的な条約(カットオフ条約:FMCT)を支持すべきとの国際的な圧力が高まる中、パキスタンがまるで高波の中の岩のように強硬に抵抗している。パキスタンは、米国が後押しするこの条約交渉について、唯一の多国間軍縮交渉機関で、行き詰まりを見せているジュネーブ軍縮会議(CD)以外のところですすめられるいかなるプロセスにも参加を拒否すると警告し続け、かたくなな反対姿勢を貫いている。

敵対国であるインドと原子力協力協定と締結しながら、パキスタンと同種の協定に入ることを拒否した米国の決定に衝撃を受けたパキスタンは、欧米核保有国の政策を「差別的である」と批判しており、ジュネーブ軍縮会議の長年にわたる行き詰まりを打開しようとしている国連の潘基文事務総長の意見にも耳を貸そうとする気配はない。

 潘事務総長は、ニューヨークでの国連総会において、行き詰まりを見せているジュネーブ軍縮会議を打開するための方策として、有識者パネルや総会アドホック委員会の創設、国連会議の開催を提案した。

日本の長野県松本市で「第23回国連軍縮会議in 松本」が開催されていた7月27日、潘事務総長は国連総会で演説し、「私たちは、信頼の危機が高まる中こうして集まりました」と語った。

この国連総会は、2010年9月に国連本部で開催された国連事務総長主催軍縮会議(CD)ハイレベル会合のフォローアップとして開催されたものである。「長きにわたって、国連の多国間軍縮機関、とりわけジュネーブ軍縮会議は失敗に終わってきた。」と潘事務総長は語った。

1979年に国際社会にとっての、唯一の多国間軍縮交渉機構として設置されたジュネーブ軍縮会議は、主に核軍拡競争の終結と核軍縮の促進、核戦争の防止、宇宙における軍備競争防止に取り組んできた。

「もし(ジュネーブ軍縮会議において)意見の相違が埋まらないならば、すでに述べてきたように、有識者パネルの任命を検討することになるかもしれません。あるいは、国連総会のアドホック委員会、または国連の会議において国家間の交渉を行ってもよいかもしれません。」と潘事務総長は語った。

潘事務総長は、国際社会は多国間主義を決して放棄してはならないと主張し、軍縮問題に取り組むためには、少数国の利益を図ることではなく、全体の利益を促進することが目標に置かれるべきだと語った。

「もしジュネーブ軍縮会議の行き詰まりが今後も打開できないならば、国連総会にはこれに介入する義務があります。ジュネーブ軍縮会議をいつまでも1・2カ国による人質状態においておくことはできません。懸念があれば交渉を通じて解消すべきです。世界は(FMCTの制定と採択に向けた交渉が)前進することを望んでいます。もう先送りはやめ、この長い停滞のサイクルにピリオドを打とうではありませんか。」と、潘事務総長は語った。

米国は国連事務総長を支持
 
米国はこの国連事務総長の方針を支持している。ローズ・ゴットモーラー米国務長官補佐官は、7月27日の国務省での報道発表において、「今日、軍備管理と軍縮の他の領域で大きな前進が見られているだけに、たった1カ国の反対によって、ジュネーブ軍縮会議が再び機能不全に陥り、長く待ち望まれた目標(核分裂性物質生産禁止条約:FMCTの制定と採択)に向かって交渉を開始することさえできないでいるのは、一層遺憾なことです。」と語った。
またゴットモーラー補佐官は、「米国政府は、できればFMCTをジュネーブ軍縮会議の場において交渉することを望んでいます。我々は、今年のジュネーブ軍縮会議に合わせる形で、FMCTに関する技術的議論を進めていこうとする日豪両政府の動きを歓迎しています。この活動は、生産的、実質的かつ教育的でありました。しかし、このことをもって、ジュネーブ軍縮会議が行き詰まっており、2年前より全く進展がないという事実が曖昧にされることがあってはなりません。」と付け加えた。

またゴットモーラー補佐官は、「国連安保理常任理事5か国とその他の関連パートナー国が、国連総会が9月に招集される前にさらなる協議を行う計画です。」と指摘した。

さらにゴットモーラー補佐官は、「有識者パネルやジュネーブ軍縮会議それ自体、あるいはその他の交渉舞台において、ジュネーブ軍縮会議改革の可能性を評価し、国連軍縮委員会の改編について示唆するところがあるかもしれません。」と語った。

ゴットモーラー補佐官は、考えうる検討内容として「ジュネーブ軍縮会議において合意された作業内容に年を越えてどう継続性を持たせるか、たとえば、合意された作業計画を自動的に次年も継続審議にすること」、「全会一致ルールの乱用を防ぎつつどうやって国家安全保障を守るか」、「ジュネーブ軍縮会議の拡大がジュネーブ軍縮会議の効率性を増すことになるのかどうか、普遍的な軍縮目標の実効性を守り、国家の安全保障上の懸念を尊重し守る一方で、どうやってその目標を審議し交渉を進める機構の中に乗せていくのか」といったことを挙げた。

「警告書」

国連事務総長と米国のこうした動きに反応して、パキスタンのラザ・バシール・タラール国連次席代表は、65カ国からなるジュネーブ軍縮会議の外部においてFMCT交渉に入ることへの「警告書」を発表し、「パキスタンは、そのようなプロセスに加わることもないし、そうしたプロセスの結果として出てきた条約への加盟を検討することもない。」と語った。

タラール次席代表は、パキスタンのこれまで2年間の方針を踏襲する声明の中で、「これらの政策は、権力と利益によって国際的な不拡散という目標を犠牲にすることで、我々の地域(南アジア)における核分裂性物質備蓄の非対称性をさらに強めるものです。」と主張した。

またタラール次席代表は、「残念なことに、こうした政策は、原子力供給国グループ(NSG)の反対にあうこともなく継続されてきています。NSG加盟国の中には、核不拡散条約(NPT)を最も熱心に支持している国々や、『ジュネーブ軍縮会議において進展がないこと』を最も厳しく批判している国々が含まれるにも関わらずです。」と語った。

さらにタラール次席代表は、「列強は、ジュネーブ軍縮会議の改革、さらには機能不全に陥ったこの機構を廃止するというオプションまで検討し、すべての国家に事実上の拒否権を与えて前進を妨げる全会一致方式の意思決定ルールを非難していますが、ジュネーブ軍縮会議が機能不全に陥っている真の理由は、核兵器保有国の中に公正かつバランスの取れた形での交渉に入る政治的意思を持たない国が存在する点にあるのです。」と語った。

「ジュネーブ軍縮会議が直面している問題は、組織上、あるいは手続き上のものではありません。むしろ、最も強力な国の利益に奉仕する形でのみ交渉が進むという明確なパターンがあるのです。」とタラール氏は語った。

この点について、タラール氏は、「ジュネーブ軍縮会議では、すでに機は熟していると思われることについても交渉に入ることができないのです。すなわち、列強の安全保障上の利益を脅かしたり損なったりしないような合意内容についてしか交渉できないという明確なパターンが存在するのです。」と指摘し、具体的な例として、生物・化学兵器禁止条約、包括的核実験禁止条約(CTBT)を挙げた。

タラール氏はさらに続けて、「同じことがFMCTについても言えます。大量の核兵器、それに(すぐに核兵器に転用可能な)核分裂性物質を備蓄した列強にとって、これ以上核分裂性物質は必要ないわけですから、将来の核分裂性物質生産のみを禁止する条約を締結する準備が整っているということです。つまり、このアプローチは列強にとって『ノーコスト』であり、自国の安全保障を脅かしたり損なったりしないパターンを踏襲しているのです。」と語った。

これらの理由により、パキスタンは、核問題で選択的かつ差別的な取り扱いを受けることに「強固に反対」しているのである。「他の関連諸国にとってノーコストな取り決めのために、自国の基本的な安全保障上の利益を損なう用意のある国はありません。」とタラール次席代表は指摘したうえで、軍縮機構を活性化するための「誠実かつ客観的なアプローチ」を作り出すために採られるべきステップについて言及した。

例えば、核軍縮を最重要課題として、公正かつバランスの取れた形でジュネーブ軍縮会議において主要議題を検討すること、また、非核兵器保有国に対する消極的安全保障(=核兵器の使用禁止措置)に関する法的拘束力ある取り決めを作り上げること等を挙げた。

FMCTはもし採択されれば、兵器級の核分裂性物質に課せられた既存の制約に、法的拘束力ある国際取り決めを加えることで、核不拡散規範を強化することになるだろう。この条約は、核兵器あるいは他の核爆発装置用核分裂性物質の生産を禁止する一方、非爆発目的のプルトニウムや高濃縮ウランには適用されない。また、トリチウムのような非核分裂性物質にも適用されない。さらに、既存の核分裂性物質の備蓄分も禁止の対象とならない見込みである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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