この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=チャンイン・ムーン】
わずか4カ月の間に、ウクライナ戦争は消耗的な世界規模の紛争となり、すでに西側の疲労感は高まるばかりとなっている。
「欧州の兄弟愛を頼りにしてください」
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、近頃ウクライナを訪問した際に述べた言葉である。これは、ウクライナへの全面的支援を我先に約束する他の西側諸国の指導者の言葉と同調するものだ。
ロシアによるウクライナ侵攻に対して国際社会がどれほど反感を抱いているか、悲劇に直面するウクライナへの支援がどれほど広がっているかが、ここに明確に表れている。(原文へ 日・英)
同時に、西側諸国によるこの積極的支援に対する冷笑的な見方も広がっている。
6月13日、筆者はプラハで2日間にわたって行われたEUとインド太平洋諸国のハイレベル対話に出席した。中国の台頭や世界経済システムの不安定性といった課題に対応する、EUとインド太平洋地域の協力を模索する場として意図されたものだが、話題の中心は明らかにウクライナにおける戦争だった。
特に有意義な質問をしたのは、今年40歳になったリトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相である。
第1に、西側はウクライナにおける戦争を終わらせ、欧州の平和のためにロシアを完全に孤立させる手段と意志があるのかと彼は尋ねた。第2に、西側は、ウクライナが求める勝利のために支援を提供し続けられるのか。第3に、現在の通常戦争が核紛争にエスカレートするのを防ぐ有効な手段は存在するのか。第4に、戦争が長引くにつれて西側民主主義国の間に「戦争疲れ」が広まるのを防ぐことは可能か。
これらの問いは、ウクライナ情勢に内在するジレンマを要約している。また、ここには、西側の対応に対する冷笑的な態度も現れている。
戦争勃発以来、西側主要国はロシアを完全に孤立させることを目指して厳しい制裁を集中的に浴びせ、「民主主義」と「独裁主義」という二項対立によって状況を定義してきた。その一方で、彼らは現実的に深刻な制約に直面してきた。
まず、ドイツやフランスといった一部の欧州主要国は、ロシアを完全に孤立させることに懐疑的である。ハンガリー、セルビア、トルコ、イスラエルなど、長期にわたってロシアと密接な関係を続けてきた国々も、このアプローチには同意していない。
一方、インド、メキシコ、ブラジル、南アフリカなど、地理的に遠い民主主義国は、多かれ少なかれ中立性を保っている。このことは、広範な反ロシア戦線の確立が困難となっている理由を説明している。
もう一つの障害は、相互依存の兵器化による皮肉な効果に関係する。制裁は、エネルギー価格や穀物価格の急騰に起因するインフレ圧力や、不活性ガスの輸出制限によるサプライチェーンへの制約という、意図せざる結果ももたらしている。
その一方で、戦争初期の予想に反して、ロシアの通貨価値と株式指数は回復の兆しを見せている。厳しい制裁によるこのブーメラン効果は、ロシアを完全に孤立させることがいかに難しいかを示している。
戦争の最終的な帰結に対する共通認識を見いだすことは、さらに難しい注文である。目標は単なる平和協定ではなく「勝利」であるべきだという意見に対する国民の支持の高まりを受けて、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ドンバス地方だけでなく、2014年にロシアが強制的に併合したクリミア半島も奪還するという意図を宣言した。
しかし、現実の状況は厳しい。米国や他の西側主要国は、事態の長期化を防ぐために適切な条件で戦争の早期終結を受け入れる準備があることをちらつかせ始めてさえいる。
このことは、近頃のジョー・バイデン米大統領の発言にも表れている。彼は、ウクライナがロシアとの和平交渉で優位に立てるようになるまで、米国は支援を提供すると述べたが、それ以上に攻撃的な措置については否定的な口調であった。これは、戦争がキーウの望む通りになる見込みが低いことを示唆している。
米国や欧州諸国の直接軍事介入を妨げている主な要因として、特に核エスカレーションの懸念がある。西側の戦略目標は、ウクライナの存続を確保し、領土を保全し、ロシアに侵略への罰を与え、同時に、核エスカレーションを防ぎ、戦争を早期終結させることと特徴付けられる。
これらの目標の中で最も重要なのは、核エスカレーションを防ぐことである。言い換えれば、キーウのためにニューヨーク、パリ、ロンドン、ベルリンを犠牲にするという選択肢はない。これは、西側の軍事行動に対する決定的な足かせとなっている。
同じように、戦争の長期化を許すことも受け入れられる選択肢ではない。わずか4カ月の間に、ウクライナ戦争は消耗的な世界規模の紛争となり、すでに西側の疲労感は高まるばかりとなっている。
さまざまな国で、インフレをはじめとする経済的悪影響の中、国民の関心は急速に低下しつつある。欧州の世論調査では、戦争の「平和的終結」への支持が、ロシアを罰するために戦争を継続することへの支持を大きく上回っている。
冷笑的・懐疑的感情の広がりは、ウクライナにおける戦争について国際社会が公言してきたような連帯の限界を示唆するものである。それはまた、各国がそれぞれの費用・便益計算に基づいて行動を決定する可能性が高くなっているということでもある。
最終的には、関係する全ての国が現実主義に戻り、平和的解決を優先する必要があるだろう。戦争を本当に終わらせるためには外交的妥協によらざるをえないということを、歴史はわれわれに教えている。
チャンイン・ムーン(文正仁)は、世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。
INPS Japan
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