【国連IDN=タリフ・ディーン】
3月2日、ロシアの通信社はセルゲイ・ラブロフ外相が発した「第三次世界大戦が起こるとすれば、壊滅的な核戦争になるだろう」という緊急警告を引用して報じた。また、ジュネーブ国連軍縮会議にオンラインで参加したラブロフ外相は、ウクライナがロシアの侵攻に対抗するために核兵器の取得を画策してきたと示唆した。―ただしこれは現時点で未確認の噂に過ぎない。
一方、ウクライナのオレクシー・ホンチャルク首相も、ロシアによるウクライナ侵攻は第三次世界大戦の始まりになりかねないとの不安を繰り返し述べている。
こうした核戦争の警告や第三次世界大戦勃発の恐れは、はたして政治的な現実だろうか、それとも口先だけの脅しに過ぎないのだろうか。
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)前共同代表で今年出版された報告書「核兵器は禁止された:これは英国にとって何を意味するか」の著者であるレベッカ・ジョンソン博士は、IDNの取材に対して、「ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナに軍事侵攻してから戦略的核抑止部隊を『特別警戒態勢』に移行させた。」と語った。
プーチンが発動した苛烈な軍事侵略は、核抑止論に付随する人類の存亡に関わる危険を示すものだ。つまり、「抑止論とは敵側とのコミュニケーションの手段であり、それがうまくいかなければ、核武装した国の指導者は、核兵器で威嚇或いは核兵器を使用して壊滅的な人道被害を引き起こす可能性が高い、と我々は長年にわたって警告してきた。」とジョンソン博士は語った。
ジョンソン博士はまた、「核兵器の使用や威嚇は、1950年代初頭に、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の防衛政策に組み込まれており、以来、両陣営は核の脅威と不安を世界に広げてきた。ウクライナに対する戦争は、核を保有する指導者と核抑止という幻想に間違いがあれば、いかなる想定外の事態が起こりうるかを思い起こさせる恐ろしい出来事だ。プーチンは、トランプや金正恩等他の核兵器国の指導者と同じく、核兵器を喧伝してきた。」と語った。
「しかしプーチンの場合、他の指導者と異なるのは、ウクライナに侵攻し、同国の都市や民間人に対して燃料帰化爆弾を使用するという戦争犯罪を犯し、次第に追い詰められている点だ。」とジョンソン博士は付け加えた。
一方で、世界で9ヵ国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が核兵器を実戦配備している現実は、世界が今日直面している恐ろしい災いを思い起こさせるものだ。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、9カ国は2021年初頭の段階で保有していた核兵器の総数は推定13,080発であった。これは2020年初頭の推定値である13,400発より減少していた。
しかし、実戦配備されている核弾頭は3,720発から3,825発に増加しており、その内約2000発は米ロ両国が高度警戒態勢に置いている。その内訳は以下の表のとおりである。
婦人国際平和自由連盟(WILPF)のレイ・アチェソン代表はIDNの取材に対して、「プーチンが、核兵器の使用を示唆し軍の核抑止部隊に特別警戒を命じたことは、核兵器の存在が本質的に持っている危険性を裏付けるものだ。」と語った。
「この戦争で核兵器が使用されるかどうかについては、プーチンが核の使用を示唆しながら対ウクライナ戦争と軍事侵攻に踏み切ったという意味で、既に使用されている。しかしこれは、ロシアが核兵器を保有しているという問題にとどまらない。」とアチェソン代表は語った。
NATO加盟の3ヵ国(フランス、英国、米国)も核兵器を保有しており、他の5ヵ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)が米国の核兵器を領内に保管している。
「こうした核兵器の一つ一つが平和と安全保障に対する脅威である。核戦争は、地上のあらゆる生命を脅かす大惨事となるだろう。核兵器が存在する限り、核爆発がおこるリスクや他国を威嚇する手段に使われるリスクがある。また、本来ならば気候変動への対応や社会をよくするために切実に必要とされている資金から、核兵器の維持や近代化、配置のために数十億ドルもの莫大な費用が浪費されている。」とアチェソン代表は警告した。
核兵器禁止(核禁)条約は、核兵器の使用、開発、保有のみならず使用を威嚇することも禁止している。
アチェソン代表はまた、「あらゆる国々が核禁条約に加盟し核爆弾の世界的な禁止を支持すべき。核兵器保有国と核兵器をホストしている国々は、手遅れになる前に、いわゆる安全保障政策としての大量破壊を放棄し、保有する核兵器を廃絶しなければならない。」「今こそ世界中の人々が核兵器の脅威に目を覚ます時だ。これは歴史の問題ではない。私たちは日々、核戦争が勃発する可能性と隣り合わせで生きており、この脅威をきっぱりと排除する行動をおこさなければならない。」と語った。
プーチンが核使用を命ずるかという質問に対して、ジョンソン博士は、「残念ながら、誤算や慢心、或いはウクライナの抵抗に軍事侵攻が失敗するのではないかとの恐れ等の理由からプーチンが核兵器を使用する可能性は否めない。プーチンの言う『戦術核』という軍事用語に騙されてはならない。もしロシアの側近らがプーチンを止められなければ、そうした命令で、ウクライナの諸都市が核の劫火で焼き尽くされることとなり、人類存亡に関わる極めて深刻な戦争犯罪と人道に対する罪が犯されることとなる。」と語った。
「世界のほとんどの国々が核禁条約を支持したのは、核戦争を防止するには核兵器の使用と配備のみならず保有も禁止する必要があるという私たちの議論と証拠を理解していたからだ。プーチンの軍事侵攻は、過去30年におけるNATOの東方拡大や失敗に終わったイラクとアフガン戦争と相まって、今日のウクライナの苦難と悪化の一途をたどる危機につながっている。」とジョンソン博士は語った。
ジョンソン博士は、「ウクライナは、合計で12000発を保有するロシアとNATOの板挟みになっている。」と語った。
ICAN関連の諸研究は核兵器を保有する人物がその威力を振りかざせば、どのようなリスクがあるかを示している。
プーチン大統領のような略奪的で自己陶酔的な人々は、心理的に危険を冒し、誤算が生まれると、ますます攻撃的で向う見ずな行動に出て威嚇と失敗を犯す傾向にある。
「もしこのような人々が軍事力と核兵器を入手すれば、もはや抑止力は破綻し、『使わなければ敗北する』というパニックに陥って核戦争へと繋がっていく。現状に満足した軍部はこうした恐るべき大量破壊兵器を廃絶できたにもかかわらず、核戦争の勃発を防止することを拒否してきたのだ。」とジョンソン博士は語った。
プーチン大統領が、軍の核抑止部隊に特別警戒を命じたことを受けて、英国のボリス・ジョンソン首相は、英国も同様の措置をとると発表した。ジョン・アインスリー氏とグローバル責任のための科学者(SGR)等が発表した研究報告書によると、もし英国のトライデント核ミサイルが、モスクワとロシア国内5か所を標的に発射された場合、数百万人の民間人が殺害され、放射能を帯びた灰塵を含むきのこ雲が空高く舞い上がり、世界的な「核の冬」と大規模な飢饉を伴う大惨事を引き起こすと結論付けている。
「これはプーチンとNATOが繰り広げている理論上の駆け引きではなく、現実の世界で起きうることだ。」とジョンソン博士は語った。SIPRIによると、米ロ両国は2020年の間、退役した核弾頭を解体することで引き続き全体的な核弾頭数の削減に取り組む一方で、実戦配備された核弾頭については2020から21年初頭までの間に推定50発増加させていた。また、ロシアについては、主に多弾頭を装着した地上発射型大陸間弾道弾(ICBMs)及び海上発射型弾道弾(SLBMs)を配備したことで、備蓄核戦力を180発増加させている。
米ロ両国による配備済戦略核弾頭の数は、2010年に締結した新STARTの制限内にとどまっているが、同条約は未配備状態の保有核弾頭数については上限を設けていない。
「懸念すべき兆候は、冷戦後長らく世界で備蓄されている核弾頭数は減少傾向が続いていたにも関わらず、今日再び増加に転じつつある点だ。」と SIPRI核軍縮・軍備管理・核非拡散プログラムのハンス・クリステンセン氏は語った。
クリステンセン氏はまた、「米ロ間で、新STARTが今年2月に延長されたことは一安心だったが、核超大国である両国の間で、さらなる核軍備管理が合意される兆候はほとんどない。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
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