【ニューデリーIDN=マニッシュ・アプレティ、ジャイネンドラ・カーン】
英国の差し迫った必然的な崩壊についてツィートしたピアーズ・モーガンの最近の投稿は、2022年2月に行われた 「英国の瀬戸際外交の結果、2023~24年にアルゼンチンがフォークランド(マルビナス)諸島を取り戻すことになるのだろうか?」 というタイトルのツイッター投稿を思い出させるものであった。
ツイッターの「フォークランド紛争:フォークランド諸島の歴史」とのやり取りは、とても充実したものだった。以前、メルコスール議会のアルゼンチン代表(当時)のマテオ・アベル・ブルネッティ氏が、アルゼンチンは2003年以来、フォークランド(マルビナス)問題について国連で英国と対話するのを待っていると述べていたことが思い出された。
2月末からロシアのウクライナ侵攻が世界のメディアを賑わせているが、フォークランド(マルビナス)問題は国際社会の中で徐々に注目を集めつつあるようだ。
2022年4月にインドを公式訪問したアルゼンチンのサンティアゴ・カフィエロ外相は、両国関係を称賛し、防衛や原子力などの二国間問題を議論する一方で、フォークランド(マルビナス)問題を提起した。カフィエロ外相は、4月2日付の『ガーディアン』紙に掲載された記事の中で、英国との紛争は1982年の「敵対行為の停止」で解決されたわけではないと主張し、二国間対話の再開を強く求めていたのである。
アルゼンチン・英国間の武力衝突の結果だけでは、フォークランド(マルビナス)諸島のような領土問題を解決することはできないという彼の主張にも一理ある。
英国が世界を支配していた20世紀初頭、アルゼンチンは地球上で最も裕福な国の一つであった。1913年には、アルゼンチンはフランスやドイツよりも豊かで、スペインの2倍近く裕福であった。
しかし、20世紀に米国が台頭してくると、英国と同様、アルゼンチンも次第にその地位を失っていった。アルゼンチンは、その豊富な資源にもかかわらず、経済成長を支える制度を生み出すことができず、また、一連の外的ショックにより、かつて成功を収めた成長モデルが不利な状況に追い込まれていった。
かつて英国の植民地であった米国の台頭は、他の多くの国々に米国の独立闘争からインスピレーションを与えることになった。マハトマ・ガンジーは、英国の支配に抵抗するようインド人に呼びかける際、しばしばアメリカ独立戦争に言及し、そこからインスピレーションを得ていた。
実際、ガンジーの英国に対する非暴力・不服従活動は、結果的に米国によるインド独立運動への関心を高めることになった。米政権は、インドに対する英国の植民地支配を永久に支持する用意はなく、米議会、メディア、国民は、インドの大義を支持する姿勢を堅持していた。
1930年 7 月17 日、ウィスコンシン州選出のジョン・ブレイン上院議員は、国務省に対し、インド情勢の公正かつ平和的な解決を確保するよう指示する決議を行った。彼は、英国のインド政策は「最も残虐な弾圧と非人間的な行為」に責任があると非難した。
米国世論の圧力、ソ連の反帝国主義的立場、インドの自由という大義に対する中国(蒋介石総統時代の中華民国)の支持により、英国は第二次世界大戦の終戦時にインドへの権力移譲が「必須条件」であることを原則とすることに同意せざるを得なくなった。
2022年4月14日、ロシアはアルゼンチンと英国に対し、フォークランド(マルビナス)諸島の主権を巡る紛争を国連決議に従って解決するため、主権協議を再開するよう促した。また、中国はアルゼンチンの同諸島の領有権主張への支持を表明している。これに対して、英国は中国の支持表明に異議を唱え、リズ・トラス外相は同諸島の主権を巡るいかなる質問も真っ向から否定した。
2020年12月現在、英国の政府総債務残高は2兆2065億ポンドでGDPの104.5%である。今年中に英国のインフレ率が7%に達すると、50万人の子供たちが貧困に陥るリスクがある。生活費の危機は、英国で100万人以上を窮乏状態に追い込む可能性がある。英国では貧困層が確実に増えており、『UK Poverty Report 2022』だけでなく、『Institute of Development Studies』でも、そのことに言及している。新型コロナのパンデミック以前から英国人口の22%が貧困状態にあり、コロナ禍は困窮世帯をさらに貧困に追い込んでいる。
英国のEU離脱(ブレグジット)を導いた独立党のダイアナ・バトラー議員の最近のエピソードは、重要な国際戦略問題を巡って国と国民の間に大きな不協和があることを示している。英国はロシアに対する経済制裁を推し進める主要国の一つだが、ウクライナ紛争が3ヶ月目に突入する中、ロシア・ルーブルは米ドルに対して世界一の通貨高となり、ロシアはEUへの化石燃料の販売による収益を毎月ほぼ2倍にしている。バトラー議員は、ロシアのウクライナ攻撃はウクライナ政府の行動によって引き起こされたかもしれないと主張していたが、英国民はブレグジットによってウクライナ危機への英国の対応が弱まったというより強化されたと考えているようだ。
英国には過去における植民地化、奴隷制度、空前の規模の強奪、略奪、搾取の歴史があり、国連の安保理メンバーになっても無責任な行動を続けてきた汚点がある。例えば、最近のアフガニスタンでの大失態だけでなく、1971年のバングラデシュの大虐殺でパキスタンを支援し、バングラデシュを誕生させるなど、世界各地で英国の問題行動は少なくない。英国がイラク侵略を米国のせいにしたり、トニー・ブレア元首相が無辜の人々を死と破壊に追いやった罪を洗い流すためにカトリック教徒に改宗したりするのは非常に容易なことだが、果たしてこれらは責任ある国家、とりわけP5メンバーである国の証と言えるだろうか。
国連は1965年にフォークランド(マルビナス)諸島の領有権問題を明確に認め、決議2065号を定め、アルゼンチンと英国の間で緊急に交渉することを奨励した。フォークランド(マルビナス)諸島の主権について話し合うというアルゼンチンの要求を認めるよう、ラテンアメリカ・カリブ海議会など地域から新たな要求が出されているが、英国は何度も交渉を拒否しており、アルゼンチンは(英国が)「国際法の遵守」 に欠けると非難している。
また、これほど悪いタイミングもないだろう。予算責任局は、2022年には英国の実質世帯収入が2.2%減少し、英国人の生活水準は1956年の記録開始以来最大の落ち込みを経験すると予測している。インフレの高騰により、資金繰りに窮した英国人の中には、愛する人を段ボールで埋葬する前に(葬儀用に)棺桶をレンタルしなければならなくなった人々もいる。
平和は進歩と繁栄への唯一の道である。そして、平和と非暴力の使徒として、マハトマ・ガンジーに勝る人はいない。ガンジーの誕生日に、国連は毎年10月2日を「国際非暴力デー」と定めている。
英国でさえ、ガンジーの貢献を認め、2015年にウェストミンスターの国会広場で、ガンジーとインド人嫌いでよく知られるウィンストン・チャーチルの像の隣に、彼の像を除幕した。
ガンジーが示したような平和の道を歩む英国が、英国議会が正式に可決した1947年のインド独立法を通じて、英領インドがイスラム教徒のためにパキスタンを創設し、与えることに同意したように、フォークランド(マルビナス)諸島をアルゼンチンに与えることに同意するかもしれないとは誰が知りうるだろうか。あらゆる可能性が考えられる。
隣国アイルランドとの統一を掲げるシン・フェイン党が5月5日の英領北アイルランドの議会選挙で100年ぶりに最大の政治勢力となり、アイルランド再統一の問題がすでに浮上している。ピアーズ・モーガンのような英国人は、公然と英国の「必然的な崩壊」を予測している。
しかし、ウクライナ紛争の余波で、世界が再び一触即発の状態になることは許されない。1982年のように英国とアルゼンチンの間で78日間にわたるフォークランド(マルビナス)紛争が再び起こることは想像を絶するし、21世紀における大惨事となるであろう。
そして、英国のように急速に衰退し、かつての影響力がない国にとっては、国際紛争の解決は早ければ早いほどよい。時間が経てば経つほど、交渉力、駆け引き力は弱まり、先延ばしは成果を減らすだけだからである。
先日、アルゼンチンのカフィエロ外相がインドを訪問した際、アルゼンチン政府によって「フォークランド(マルビナス)諸島問題に関する対話のための委員会」が発足した。
委員会は、アルゼンチンと英国の間の交渉再開を求める、フォークランド(マルビナス)諸島問題に関する国連の決議や他の国際フォーラムの宣言の遵守を促進することを目指すものである。
国際紛争の解決と平和および安全の維持は、国際社会にとって必要不可欠である。国連憲章は紛争の平和的解決を求めており、国連は常に紛争の平和的解決のために外交を推奨し、対話を提唱してきた。
平和の追求はかつてないほど重要であり、フォークランド(マルビナス)紛争を早期に解決することは、英国とアルゼンチンの両国、両国民、そして世界にとってより良いことである。(原文へ)
*マニッシュ・アプレティは、元外交官でALCAPアジア・アフリカ担当特別顧問、ジャイネンドラ・カーンはインド人民党(BJP)上級幹部。記載されている見解や意見は、あくまで執筆者のものであり、必ずしもIDN-InDepth Newsの見解を示すものではない。
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