ニュース視点・論点ノーベル平和賞は戦争賞になったのか?(ヨハン・ガルトゥング)

ノーベル平和賞は戦争賞になったのか?(ヨハン・ガルトゥング)

【IPSコラム=ヨハン・ガルトゥング】

ジョージ・オーウェルの小説『1984』では、ビック・ブラザーが「戦争は平和、自由は隷従、無知は強さ」という有名な標語を口にする。これが、私たちが現在到達した地点なのだろうか?

オバマ大統領が12月10日にノーベル平和賞の授賞式で行ったスピーチは、米国のような軍事主義的な国の兵学校での卒業式にむしろふさわしいものだった。

オバマ大統領は、マハトマ・ガンジーマーチン・ルーサー・キングJr の非暴力主義は、アドルフ・ヒトラーやアルカイダには通用しないだろうと論じた。しかし、冷戦の終結は、その非暴力行動によってもたらされたのである。東ドイツ警察は、デモ隊に対する発砲許可をすでに得ていたが、すぐに発砲しなかった。石や火炎瓶が投げられるなど、何かの「口実」が現れるのを待っていたのである。しかし、デモ参加者らはつとめて非暴力に徹し、こうした口実を警察に与えなかった。ベルリンの壁が崩壊したのはその直後のことである。ポーランドやチェコスロバキア、ブルガリアにおいても、全体主義体制の崩壊に非暴力行動が一役買っていた。

 あのヒトラーですら、非ユダヤ人の妻たちが1943年2月から3月にかけてベルリンで行った非暴力抗議行動のために、ユダヤ人の夫たちをゲシュタポから解放しなくてはならなかったくらいだ。

オバマスピーチの欠陥のひとつは、9・11やアフガニスタン、イラクを理解しようとの意思に欠けていたことだ。オバマ大統領はただ、銃を置くのを拒否している人々について語っただけである。それに対して、スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相は賢かった。2004年3月11日にマドリッドでテロが起こったあと、イラクから兵を引き、モロッコとの関係改善に乗り出すなど、事態を根本的に解決しようとの姿勢を見せたからだ。

オバマ大統領は、9・11テロを起こした航空機になぜ多くのサウジアラビア人が乗っていたのか考えてみもしないのだろうか?それは、イスラムの聖地において石油確保と米軍駐留と引き換えに抑圧的な体制を米国が擁護しているためではないのか?もしサウジアラビア軍がバチカンにいたら、キリスト教徒はどう思うだろうか?アフガニスタン人は、150年にわたる欧州の侵略をどう捉えているだろうか?彼らには不満があり、非暴力的手段を用いることもできる。しかし、米国は、その逆のやり方を身をもって示してしまっているのだ。

オバマ大統領が提示したのは、戦争を通じた安全という古い考え方に過ぎない。世界が必要としているのは、紛争を解決し、その根本にある暴力の根本原因をなくす新しいアプローチなのだ。(原文へ
 
翻訳/サマリー=IPS Japan

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