SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)世界の破壊者:世界戦争と気候危機の時代におけるオッペンハイマー伝の妥当性

世界の破壊者:世界戦争と気候危機の時代におけるオッペンハイマー伝の妥当性

【カトマンズNepali Times=ソニア・アワレ

2005年にカイ・バード氏とマーティン・J・シャーウィン氏によって初めて出版された「アメリカン・プロメテウス:J・ロバート・オッペンハイマーの勝利と悲劇」以来、多くの出来事があった。この本はピューリッツァー賞を受賞して波紋を広げたが、クリストファー・ノーラン監督がこの作品を脚色した2023年の超大作映画『オッペンハイマー』がアカデミー賞を席巻したことから大きな関心を呼び起こしている。

「アメリカン・プロメテウス」は、科学者の「その輝かしさに匹敵する内部葛藤」を描いた精緻な作品であり、主人公であるオッペンハイマー博士の人生と時代を語り直すことで、大量破壊兵器とテロの恐怖に対抗するための「核時代における合理性」を呼びかけている。

この本は25年にわたる研究と執筆を経て完成し、冷戦終結以来、世界終末時計が今日ほど真夜中に近づいたことはないという厳しい現実を想起させるものである。この時計は、1943年に、世界最高水準の米国科学者たちがドイツに先行して原子爆弾を製造するためにニューメキシコ州のロスアラモスに集結して以来、時を刻み続けている。

ドイツは1945年5月に降伏したが、それでも米軍のタカ派は、同年8月に広島・長崎に対して原爆を使用し20万人の一般市民を殺害した。アメリカ人は、日本本土への攻撃を長期化させれば多くの命を奪うと主張して原爆投下を正当化した。オッペンハイマー自身は、その破壊力があまりに凄まじいものであれば将来的な使用を抑止するだろうと感じていた。しかし本書は、彼が長崎への2発目の原爆使用や水爆の開発に反対したことを思い出させてくれる。

その後80年にわたって核兵器が戦争で使用されていない事実は、彼の主張にある程度の妥当性があることを示している。しかし、核拡散は止まらず、現在ではパキスタン、インド、北朝鮮などの国々も原子爆弾を保有している。

ネパール文学フェスティバルにおいてネパール・タイムズとのインタビューに応じたカイ・バード氏は、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナに対する戦術核兵器使用の脅威や、イスラエルによる戦略的曖昧性、イランによる差し迫った核兵器保有などを例に挙げ、「核の物語は終わっておらず、非常に悪い結末を迎える可能性があります。」と、強調した。

近隣では、ネパールは互いに友好的でない核武装国に囲まれている。インドはパキスタンや中国との間で頻繁に国境紛争を抱え、ネパール人兵士はインド軍に従事している。

アミタフ・ゴーシュ氏はインドによる核実験後に出版した著書『カウントダウン』(1999年)の中で、戦術的な核兵器の使用でも、風によって運ばれる放射性降下物がヒマラヤ地域の氷河に到達し、アジアの河川と帯水層を放射能汚染する可能性があると記している。

中東の緊張が核対立にエスカレートすれば、そこで働く200万人のネパール人が危険にさらされ、ほとんどが安全のために帰国を余儀なくされるだろう。イスラエルではネパール人学生がハマスに殺され、ロシアが軍事侵攻しているウクライナでは戦闘で命を落とし続けてる。

Oppenheimer poster/The Nepali Times
Oppenheimer poster/The Nepali Times

核兵器を最も厳しく批判していたのは、最初の原子爆弾の設計者自身だった。この本には、日本が降伏した後、オッペンハイマー博士がトルーマン大統領と面会した際、「大統領、自分の手は血で汚れているように感じる。」と、大統領に語ったことが記されている。トルーマン大統領は後に側近に、あの「泣き虫の科学者野郎」には二度と会いたくないと語ったという。

オッペンハイマー博士は、著名な科学者としての新たな名声を利用して、核軍拡競争を遅らせようとした。「アメリカン・プロメテウス」の著者たちは、「彼は、自らが世に解き放つ手助けをした核兵器の脅威を封じ込めることで、私たちを爆弾文化から遠ざけようと果敢に努力した。」と記している。

しかし、1950年代のジョセフ・マッカーシー上院議員による共産主義者を摘発・排除する運動「赤狩り」が全米を席巻する中、オッペンハイマー博士の平和活動は問題視され、彼を沈黙させ屈辱を与えることを目的とした公聴会に引き出された。

「オッペンハイマーはマッカーシズムの魔女狩りの主要な有名人の犠牲者となりました。そして今日、世界中で移民、少数民族、宗教的少数派、技術やグローバリゼーションによって混乱した労働者に対する同様の排外主義が起きているように思えます。」とバード氏は、ネパーリタイムズのインタビューに対して語った。

700ページに及ぶこの伝記は、オッペンハイマー博士の早熟な子供時代から始まる政治スリラーのようだ。彼は岩石や鉱物に魅了され、ニューヨーク鉱物学クラブが彼が12歳の少年であるとは知らずに講演を依頼するほどだった。

ハーバード大学やケンブリッジ大学に在籍中は惨めな日々を送り、精神状態は試され、統合失調症と診断される。しかし、ドイツのゲッティンゲンで量子物理学を学び、米国に帰還後はバークレー校で原子物理学の基礎研究の中心となる。彼は左翼運動を支持するが、共産党には入党しなかった。

今日、全面核戦争と気候崩壊のどちらが悪いかという理論的な議論があります。前者は後者よりも即時的かつ不可逆的な影響を持つが、事実としてどちらも人間が引き起こした脅威であり、私たちにはそれらを取り除く力がある。

原子力の利用は常に諸刃の剣であった。原爆以外にも、多くのエネルギー専門家が気候変動に優しい原子炉開発を推進している。しかし、原子炉には放射性廃棄物処理の問題があり、チェルノブイリや福島で発生したようなメルトダウンの危険性もある。

エネルギーの未来は、オッペンハイマー博士が断固として反対した熱核爆弾を駆動するのと同じ物理学を利用した核融合炉にあるかもしれない。核融合はよりクリーンなエネルギーであり、副産物は水だけである。

ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのヌリエル・ルービニ氏は、「再生可能エネルギー(成長速度が遅すぎて大きな変化をもたらさない)や、炭素回収・隔離やグリーン水素のような高価な技術では、問題が解決できない可能性が高まっています。その代わりに、商業用炉が今後15年以内に建設されれば、核融合エネルギー革命が起こるかもしれません」と語った。

オッペンハイマー博士は、核テロに対する唯一の防衛策は核兵器の廃絶であり、核軍拡競争の時代にあっては、人類の道徳的な生存も心配していたという。彼の友人で理論物理学者仲間のイシドール・アイザック・ラビ博士は、『爆弾を落とせば、正義の者も不正義の者も同じように被害を受ける』と言った。

日本では、原爆投下を生きのびた被爆者とその子孫が遺伝的欠陥に苦しみ続けている。また、南太平洋、カザフスタン、その他の核実験が行われた地域では、放射性降下物による壊滅的な健康被害に多くの人々が今も苦しんでいる。米国のロスアラモスの核実験場でも、実験前に警告を受けていなかった風下に住む15,000人のナバホ族が今なお世代を超えた健康被害に苦しんでいる。

I Want To Live On: The Untold Stories of the Polygon. Documentary film. Credit:CISP

「アメリカン・プロメテウス」は、動揺する世界における核軍縮の緊急性を思い起こさせます。バードとシャーウィンは、恐ろしい武器を発明した科学者の道徳的ジレンマと迫害を語り、将来の世代が核兵器の使用を防ぐ方法に取り組む必要があることを伝えている。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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