SDGsGoal1(貧困をなくそう)貧困は減っても、格差は拡大

貧困は減っても、格差は拡大

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ミレニアム開発目標(MDGsについては、193か国の指導者らが集まった国連総会ハイレベル会合などで評価がなされているが、国連は「極度の貧困は半減された」と主張している。

国連が9月25日に発表した最新の統計によると、1日あたり1.25ドル(=世界貧困線)以下で暮らす人々の割合は、1990年の47%から2010年には22%にまで減少した。MDGsが期限を迎える2015年よりも5年も前倒しで目標を達成したことになる。

しかし、貧困削減(全世界で約7億人)の多くは、インドや中国、ブラジルといった人口の多い国で起こっており、アフリカやアジア、ラテンアメリカ、カリブ海地域のより貧しい国々を中心に、世界には依然として12億人が極度の貧困の中で暮らしている。

一方、貧困の削減は新たな中産階級の台頭をもたらした。

そのネガティブな側面は、ブラジル、中国、インド、トルコ、エジプト、チュニジアで近年発生した大規模な民衆の抗議行動に現れている。これは貧困削減がもたらした予期せぬ側面のひとつといえよう。

しかしおそらくもっと重要なのは、こうした国々においてさえ、現在世界経済を覆っている金融危機(通貨危機や輸出量の縮小等)の影響を受けて、貧困緩和の勢いがまもなく行き詰まる兆候を見せている点だ。

ジュネーブに拠点を置く「サウス・センター」のマーティン・コー常務理事は、IPSの取材に対して、「2008年金融危機以後に先進国が推進したリフレ政策によって、途上国経済も好調を保ってきたが、先進諸国が近年の経済不調から緊縮財政に舵を切り、米国も金融緩和政策を縮小せざるを得ない見通しであることから、途上国も影響を受けるだろう。現在途上国は、輸出量の減少、商品価格と歳入の減少、資金流出といった問題に対して脆弱な状況にある。」と警告した。

またコー常務理事は、「数年後には、いくつかの国々で経済の減速や景気後退がおこる可能性があり、商品価格の下落は、そうした国々の国民の就労や所得に影響を及ぼすことになるだろう。そうなれば、貧困層に再び転落する人々の数が増えるだろう。」と語った。

また、「オックスファム・インターナショナル」のウィニー・ビヤニマ事務局長は、「MDGsはこれまで13年間に亘って開発課題を前進させる原動力として重要な役割を果たしてきた」と評価したうえで、「かくも短期間のうちに、これほどまで多くの人々を極端な貧困状態から脱け出させた(MDGsの)功績は称賛に値します。」と語った。

しかし世界には依然として10億人以上の人々が一日当たり1.25ドル以下の生活を余儀なくされている。

ビヤニマ事務局長は、「紛争が長引いている地域や経済成長しても富の再配分が極端に不平等な地域では、貧困削減のペースは遅々として進まないか、全く進展を見ない状態が続いています。地球全体でみれば確かに貧困層の規模は縮小していますが、国ごとに実態を観察すると、むしろ貧富の格差は拡大傾向にあります。つまり、数十億もの人々が経済成長から取り残されているのです。」と指摘した。

近年、深刻な不平等(格差)が社会に存在している状態は、倫理的に好ましくないというだけではなく、社会の安定や経済の成長にも悪影響を及ぼすという見方が、専門家の間で共有のものとなりつつある。

ビヤニマ事務局長は、「国際社会は、この格差の問題に正面から取り組まなければなりません。MDGsには貧富の格差是正に対する焦点が欠落していました。この視点がなければ、次の開発目標が設定されても、ほぼ確実に失敗するでしょう。」と警告したうえで、「不平等の縮小そのものを今後の世界の開発問題の枠組みにおいて課題として取り上げるべきです。」と主張した。

アクションエイド」のサメール・ドッサーニ氏は、「国連はなによりもまず、(貧富の格差の動向を考慮せず)1日あたり1.25ドル以下という貧困の定義のみで貧困削減の成果を判断するこれまでの慣行を卒業する必要があります。」と語った。

さらにドッサーニ氏は、「今日に至る世界的な危機の原因は、想像を絶する規模の富が一部に集中したことと、その巨額なカネが、より貧しい人々へと流れていかなかったことにあります。」と指摘したうえで、「世界的な不平等を緩和する一つの手段は、国際的な徴税システムを改革することです。」と語った。

「私たちは、法人税優遇措置や徴税逃れのために、開発のために利用できるはずの3000億ドルが現在失われていると見積もっています。」とドッサーニ氏は語った。

「対処法としては、まず国レベルでは、各国政府が、国際通貨基金(IMFその他の金融機関が融資の条件として要請してきた自由化政策から離れることです。またグローバルレベルでは、各国の指導者が協力して、ドルへの依存度を減らし国際金融システムの安定を確保するような国際通貨制度の改革を断行することです。」とドッサーニ氏は訴えた。

しかしこれまでの各国間の議論は、こうした根本的な問題を回避してきた。「国際社会が真の開発の枠組みを構築するのならば、徴税システムと国際通貨制度の改革が最優先議題に上るはずです。そしてこうした問題は、いつまでも隠し続けることはできないのです。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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