ニュース国連、開発支援のために超富裕層課税を求める

国連、開発支援のために超富裕層課税を求める

【国連IPS=ハイダー・リツヴィ】

もし、世界中の大富豪が資産の1%を国際的な開発支援のために税金として差し出せといわれたらどうなるだろうか。

この問題を提起しているのは、国連経済社会局が5日に発表した調査報告書『2012年版世界経済社会調査―新しい開発資金を求めて』である。この報告書は、多くの援助国が、国民総生産の0.7%を政府開発援助(ODA)に充てるとした公約を相変わらず履行しようとしていないとして批判するとともに、開発援助資金が大きく不足している現状を嘆いている。

報告書の主執筆者ロブ・ヴォス氏は、「開発ニーズを満たす資金を集め、気候変動問題のような益々深刻化している地球規模の諸課題に対処するために、私たちは別種の資金源を求める時期にきています。」と語った。

 ヴォス氏と執筆チームは、この報告書の中で、10億ドル相当の財産に1%の課税をかけることができれば、国際的に合意された開発イニシアチブへの資金調達の面で、より良い成果が期待できる、と分析している。

経済誌「Forbs」によると、現時点で10億万ドル長者は、世界58ヶ国に1225人おり、その内米国だけでも400人超にのぼっている。

報告書は、多くの援助国が開発援助に関する公約の履行に失敗してきており、さらに長引く経済不況がこの状況に追い打ちをかけていることから、開発ニーズを満たす新たな援助資金源を見出すことが急務である、としている。

国連によると、ODAには年間1670億ドルもの資金不足が生じており、開発目標の達成に向けて貧困・致死的な病気・気候変動問題に取り組んでいる様々な開発援助機関の活動に支障が出てきている。

そこで報告書では、大富豪への1%課税案のほかにも、持続可能な開発に向けた国際社会の取り組みを強化するための新たな財源確保の手段として、炭素税や国際航空を対象とした二酸化炭素排出税、金融取引税・通貨取引税等の導入を提案している。

国連は、開発問題や気候変動などの地球規模の問題に取り組んでいくために年間4000億ドル(約32兆円)以上の開発資金を集めたいとしている。しかし、この規模の開発資金を各国政府から集めることは次第に難しくなってきている。

国連の研究によると、多くの開発途上国において、主に財源不足と援助国からの開発資金の不足から、ミレニアム開発目標(MDGs)への進捗に大きな遅れがみられる事態となっている。

また研究者によると、途上国の数百万の人々に予防接種、エイズ・結核治療を提供することを目的としたグローバル・ヘルスプログラムの分野については、ある程度の成功が見られたが、こうしたイニシアチブでさえ、従来の開発援助の枠を超えた新たな資金が集まることはほとんどなかった、としている。

「援助供与国の実績は公約の額を大きく下回っており、昨年の実績も予算削減の影響で減少し、不足分がさらに拡大する結果となっています。こうした国々は、公約を遵守しなければなりません。」とヴォス氏は語った。

調査にあたった専門家によると、先進国に炭素税を導入することで、年間4000億ドル超の資金を集められる可能性があるとしている。具体的には、各国政府を通じて二酸化炭素排出1トン当たりに25ドルを課税するだけでも、年間あたり2500億ドルの国際開発資金を集められる計算になる。

また報告書は、通貨取引に極めて低率の課税を付加する取引税を提唱している。具体的には、主要4通貨(米ドル、ユーロ、円、英ポンド)の取引に対してわずか0.005%の税金をかけるだけで、年間400億ドルの税収を国際協力のための資金に振り向けられると推計している。

ヴォス氏は、このような課税は一方でグリーン成長を促進し、金融市場の不安定さを緩和する効果が期待できるため、「経済的にも意味がある試みなのです」と語った。

またヴォス氏は、こうした新課税メカニズムを導入することは、先進国にとっても「これまで国際社会に対して空虚な約束を繰り返してきた」過去の記録を克服する助けとなるものになるだろう、と見ている。

報告書は、革新的な資金調達が、最終的に開発ニーズを満たし、(MDGsに続く)2015年以降の開発アジェンダに資金調達面で貢献できるようになるには、適切なガバナンスと分配メカニズムをデザインすることが重要と、指摘している。

近年、主に保健衛生分野において、「革新的開発資金調達」の名称で多くのメカニズムが生み出されている。報告書は、こうした資金調達メカニズムが、援助の有効性を高め、世界エイズ・結核・マラリア対策基金への資金調達に貢献したと認めている。

しかし研究者によると、こうしたプログラムを通過した資金は、新たに集められたものというよりも、主に既存の援助予算に由来するものである。2006年以来、概して、58億ドルが、こうした革新的資金調達メカニズムを経由して執行されたが、そのうち従来の援助枠を超えて新たに集められた資金は僅か数億ドルであった。

新たな財源確保が緊急の課題となっており、大富豪に対する課税案は、そうした必要性の中から浮上してきた諸方策の中の一つ、と報告書の執筆者たちは指摘している。

しかし、「大富豪への課税」に実現可能性があるかどうかは不明である。ヴォス氏は「そういう提案をしたものの、(実際に実施に移せられるかどうかは)技術的には非常に難しい」と、IPSの取材に対して語っている。(原文へ

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