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|ボリビア|先住民をつなぐコミュニティーラジオ

【エル・アルト(ボリビア)IPS=フランス・チャベス】

ボリビアの首都ラパス(憲法上の首都はスクレ:IPSJ)郊外に広がる労働者居住地区に暮らす先住民の人々は、毎朝6時から8時の間、アイマラ語で語りかける元教育相のドナート・アイマさんのラジオ番組に耳を傾ける。

ボリビアで最も著名な先住民系ラジオ司会者の一人であるアイマさんは、毎回地元アティピリラジオ局で番組を始めるにあたり「Mä amuyuki, mä ch’amaki(心を一つに、力を合わせて)と呼びかけることにしている。

アイマさんはIPSの取材に対して、人口の大半が高地の農村部に暮らす先住民が占めるボリビアにおいて、ラジオが果たす重要さについて語った。

 ボリビアの国土は、山々の峯が高く聳える山岳地帯からアルティプラノ高地(標高4000m前後の乾燥した高原地帯)、渓谷、低地、アマゾンジャングルと地形が多岐に及んでいるため、アイマさんは、「人々に最も行き渡り、かつ扱いやすいメディアは、依然としてラジオなのです。」と語った。

アイマさんは、荒涼としたアンデス高地に広がる急斜面の畑を、牛に引かせた鋤で耕している農民、そして傍らには携帯ラジオから歌が流れている情景を巧みな言葉で表現する。

アイマさんは高地に暮らす人々の生活について説明する中で、「若い女性たちは、どちらかというと自分の母語(先住民語)で語られる番組を聞きたがります。彼女たちは2つの言語(先住民言語とスペイン語)を理解できますが、同じ先住民同士なにか共通する思考や経験を反映させた音楽をリクエストする傾向があります。」と語った。

僻地の村々では電気が届いていないこともしばしばあり、新聞が届くところも希である。「そういった地域に住む読み書きができない人々でも、お互いに耳を傾けて学び合うことができるのです。ラジオはそうした人々の耳にも届くことができるメディアなのです。」と言うアイマさんも、寒さが厳しいアルティプラノ高地にあるトレド村落(オルロ県西部)の出身である。彼はこの地で1969年にラジオ司会者の仕事に就き、まもなく彼自身が「ボリビアのための新たなコミュニケーションモデル(NUMOCOM)」と呼ぶ手法の開発に着手した。

「私は熱狂的なラジオ好きなのです」というアイマさんは、今回の取材の中で、カルロス・メサ政権(2003年~05年)の閣僚をつとめた7ヶ月間の経験や、サン・ガブリエルラジオ局での15年の経験、そして先住民の間でラジオ放送を担う人材を発掘するために開局した現在のアティピリラジオ局における経験などについて語った。

アティピリラジオ局は2006年以来、アイマさんが創設した先住民及びコミュニティーのための教育・コミュニケーションセンターの理念を実践している。同ラジオ局は、サン・ガブリエルラジオ局と同じく、ラパスに隣接するエル・アルト市(人口100万人)から放送している。

エル・アルトは、ボリビア全土から首都ラパスに出稼ぎにきた先住民の多くが住んでいる街で、ここでは先住民の文化や価値観を存続させていこうとする取り組みと、それとは対照的に農村出身の先住民を都会の生活に順応させる手助けをする各種の取り組みが盛んに行われている。

アイマさんは、2001年の国勢調査でボリビアの62%の人々が自身を先住民と見なしている点を指摘した。この時の国勢調査では、ボリビア国民に対して史上初めて、自らを先住民のカテゴリーに分類するかどうかという質問が加えられたほか、国民の約半数が先住民の言語を母語と認識していることが明らかになった。

国家統計局は、こうした調査結果に基づいて、ボリビア国民の66%が先住民族の言語をルーツに持っていると推定している。政府は2009年の憲法改正で、国の名称を従来の「ボリビア共和国」から36の民族言語からなる「ボリビア多民族国」に変更した。

アイマさんが実践している新たなコミュニケーションモデル(NUMOCOM)とは、「コミュニティーラジオをコミュニケーションと開発の手段」と位置づけ、「人々の心に深く根ざしたルーツ」に訴えかけるような番組を提供するというコンセプトに基づいたものである。

ボリビア初の商業ラジオ放送局は、1929年に放送を開始したボリビア国営ラジオだが、アイマラ語(ボリビアでケチュア語に次いで広く話されている言語)の放送が始まったのは1960年代になってからで、しかも放送時間は朝の5時から7時までの2時間に過ぎなかった。

NUMOCOMモデルでは、経験豊かな大学教育を受けたジャーナリストが、母語で司会を務め、コミュニティーのニーズに対応した番組作りを進めている。

アイマさんは、「私たちのコミュニティーラジオ局で司会者が取り上げているボリビア社会が直面している様々な現実は、主流の新聞メディアや放送メディアから無視されているのです。」と指摘したうえで、「ラテンアメリカの新聞紙面を見れば、欧州の王族の結婚式や妊娠といった話題で溢れています。しかし一方で、ボリビア国内の(チリと国境を接する)チャラニャや(雪を山頂に戴く)アナラチ山の丘陵地帯、ラマを飼育している地域、アマゾンジャングルからのニュースは見かけません。」と語った。

「今この瞬間、牛飼いは長かった一日の仕事を終えて、喉の乾きを覚えながら家路につこうとしています。そして彼はラジオのこの番組に耳を傾けているのです。そして彼はこう不平を言うでしょう。つまり、メディアは多国籍メディア企業が作る均質な人気娯楽番組で溢れており、彼の日常生活などどこにも反映されていない、と。」

アイマさんは、エル・アルトの商業ラジオ局はパンフルートチャランゴ、ギター、ドラムで奏でる伝統的なボリビアのアンデス音楽を無視し、テクノやラップと組み合わせたクンビアしか流していないと批判した。

アイマさんは、1960年代から70年代に主流だったルイス・ラミロ・ベルタン氏(ジャーナリストで1983年マクルーハン・テレグローブ・カナダ賞を受賞)の「開発のためのコミュニケーション理論」をベースに、環境保護、母なる大地の保全、人間の消費や灌漑への水の適切な使用といった価値観を新たに組み込んでNUMOCOM理論を作り上げた。例えばラジオ番組の中で、ゴミ捨て場や水場に放置され、家畜に被害をもたらしている合成化合製品を使用しないよう人々に呼びかけている。

最後にアイマさんは、ラジオ司会者の役割として、コミュニティーを組織化しエンパワーしていくうえで、「横のコミュニケーション(horizontal communication)」を実践していくことを提唱している。

この点についてアイマさんは、「例えば、縦のコミュニケーションにおいては、ラジオ司会者は『通りを掃除しなさい』という命令を伝達する形式になります。一方、私達が実践している横のコミュニケーションでは、ラジオ司会者も当事者として活動に参画し『通りを一緒に掃除しましょう』と呼びかける伝達方式になるのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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