【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ、浅霧勝浩】
アルベルト・アインシュタインがまだ5才で、ベッドに寝かしつけられていた時、父親から遊び用の磁気コンパスを渡された、という話がある。アインシュタインはコンパスを傾けたりひっくり返してみたりして、針がなぜいつも北を向くのかを不思議がっていたという。
稲村健夫氏と福井信英氏も同様に、世界の指導者らが2015年9月の歴史的な国連サミットで採択した「持続可能な開発のためのアジェンダ」の17項目の持続可能な開発目標(SDGs)が、いかにして世界を変えうるのかについて深い関心を持っている。
あらゆる形態の貧困を根絶し、不平等と闘い、気候変動に対処しながら、誰も置き去りにしないようにするというSDGsの壮大なビジョンを実現する「魔法の杖」など存在しないことを、一般の人びとに実感してもらうには、どのような方策があるだろうか。
両氏は、17の目標の背後にある論理を説明し、個人や地域社会の行動を促すようなシンプルなゲームが、物事を前に動かす重要な動機づけになるのではないかと強く確信した。稲村氏はIDNの取材に対して、「互いに知恵を絞って『イマココラボ』という日本のNGOの下でカードゲーム『2030SDGs』を開発しました。」と語った。
「イマココラボ」は「イマ」「ココ」「ラボ」の3つの言葉から成り立っている。ココは「ここ」を意味し、コラボは、「(ラボ的な試みを)コラボレーションで」を意味する。したがって、このNGOのモットーは、「わたしたちは皆行動する必要がある。いつかではなく『イマ』から。どこかでではなく『ココ』から。インパクトを与えるには、だれかと『コラボ』して行動しなくてはならない。」というものだ。
稲村氏と村中剛志氏はNPO法人「イマココラボ」の共同創設者である。稲村氏は福井氏とともにこのカードゲームを共同開発した。福井氏はビジネスゲーム開発のプロである。
ルールはいたってシンプルで、各プレイヤーが、与えられたお金と時間を使って、「黄(=社会)」「青(=経済)」「緑(=環境)」のプロジェクト活動を行うことで、最終的にゴールを達成するというものだ。それぞれのプロジェクトは、現実の世界と同じように、さまざまに異なる関心や価値観をもった人達を対象としている。
例えば、「大いなる富」というお金が一番大事という価値観を持った人は、ゲーム終了時までに1200ユニットのお金を集めている必要がある。なぜなら、「大いなる富」を求める人は、「十分に豊かな世界」があってはじめて「獲得した富」を使えるからだ。
「悠々自適」という時間がゆったりたっぷりあるのが幸せだという人は、獲得した時間を楽しむ余裕を持つために、ゲーム終了時にまでに15の時間ユニットを保持していなくてはならない。また、環境を守りたいという「環境保護の闘士」は、納得のいく世界を実現して生きていくために、ゲーム終了時までに「緑の意思」を10ユニット以上必要とする。
「カードゲーム『2030SDGs』は、世界がいかにしてこの17の強力な目標を現在から2030年までの間に達成しうるかを発見する実験的な旅にあなたを誘ってくれます。」と村中氏は説明した。
ゲームプレイとゲーム後の解説と振り返りを通じて、プレイヤーは「持続可能な開発」が何であるかを知るだけではなく、個人や地域社会の経験を通じて社会変革に必要な重要な要素について理解することになる。
このゲームのアプローチには3つの目標がある。そのひとつは、持続可能な世界をともに作り上げることに参加する直接的な経験を人々に与えるということだ(「私にもできる。」「自分の行動で変化を生み出せる。」という感覚。)
ゲームは、(SDGsという)極度に複雑な事象を単純化しわかりやすくして、プレイヤーである一般の人々の理解・浸透に資すると同時に、もっと知りたいという自然の欲求を高めることをめざしている。
さらに、ゲームはプレイヤーのやる気を刺激して、各々にとってやりがいのある目標を設定させると同時に、自信を持たせ、楽しく遊べるよう工夫されている。また、実際の世界において行動を取ることをプレイヤーたちに促し動機づける役割も果たしている。
「2030SDGs」は複数のプレイヤーで遊べる体験型のカードゲームであり、「現実の世界」を2030年に導く様子をシミュレーションするものである。参加人数は最小5人から50人程度だが、世界を複数同時に走らせパラレルワールドを作ることで最大で200人程度まで同時プレイできるように設計されている。
ゲームのプレイ時間はおおよそ1時間程度だが、その後に解説と振り返りの時間がある。最短で90分から、通常全体で2時間半程度を想定している。
日本では、200人以上の公認ファシリテーターがゲームを取り仕切り、企業や政府、学校、地域など日本各地で多くのイベントが開かれている。参加者一人ひとりの意識を変革し行動へとつなげていくことを意図している。
「『2030SDGs体験』は日本で大きな社会的現象になりつつあります。メディアでも頻繁に取り上げられ、2017年には1万2000人以上がゲームに参加しました。」と村中氏はIDNの取材に対して語った。
村中氏はまた、「このゲームを日本以外の世界各地でプレイしたいという要望に応えて、ゲームの英語版を作成し、海外で広めようとしています。」と語った。
稲村氏は、「『2030SDGs』ゲームを開発した当初、10~15人の友人とプレイしようと思い、フェイスブックでイベント情報を流したところ、驚くべきことに800以上の『いいね!』が付き、その多くが友達の友達だったのです。」と感慨深げに振り返った。
「初めて開催したゲームの評判がよく、20人の参加者の中から数人の方々が、各々の知り合いを呼んでプレイしたらどうかと提案してくれました。それからゲームをするたびに、2、3人の参加者がそれぞれの知り合いに紹介してくれたのです。結果的に、ゲームの存在は瞬く間に広がっていきました。」
稲村氏はさらに、「『ゲームを購入したい』という要望がたくさん寄せられました。私たちは、ゲームのセットを単純に販売するか、あるいは、クラウドファンディングで資金を調達してカードは基本的に無料配布するか、検討を加えました。」と語った。
一般にカードゲームやボードゲームとして販売されているものの多くは、ルールが明確で、誰がどのようにナビゲートしても最低レベルの運営は保たれるものが多い。それに対して、「2030SDGs」は、本質的にはプレイヤーの判断、行動、関わりによって無限に変化するシミュレーションゲームだ。そのためファシリテーションに適切なスキルがなければ、ゲームはもともとの目的から大きく外れて、うまくいかなくなる可能性もある。
「私たちは、ファシリテーターの訓練コースを設けて、皆がゲームを自らファシリテートできるようにと考えました。これまでに、200人以上のファシリテーターを日本で公認し、国内各地でゲームが楽しまれています。」
ファシリテーターがゲームの世界と現実の世界を上手く紐づけることができれば、ゲームはより魅力的なものになり、プレイヤーは、自らの経験を他人と共有しようという気になります。」と村中氏は語った。
10才から80才までの幅広い人々がゲームに参加できる。学校だけではなく、老人ホームでもプレイされている。しかし、このゲームの最適なのは、中学生から成人までの年齢層だ。
「英語圏でのこのゲームに対する反響は、日本の初期の頃と同じくらいの手ごたえがありました。私たちは10月に米国、11月に欧州に渡る予定です。」と村中氏は語った。(原文へ)PDF
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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