【国連IPS=タリフ・ディーン】
国連安全保障理事会の全15か国は、最近合意されたばかりのイランとの核合意を全会一致で承認して団結力を見せることで、米国の右派・保守派政治家の陰謀的な計画に抵抗する意志を示した。これらの政治家は、米議会自身がこの合意に関する決定を下すまでは採決を延長することを国連安保理に望んでいた。
国連安保理は7月20日、国連の基準でいえば比較的早い午前9時に、数か月の長きにわたった交渉の末に7月14日にウィーンでまとまった五大国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)にドイツを加えた「いわゆるP5+1」による国際合意を是認した。
サンフランシスコ大学で政治学・中東研究学教授を務めるスティーブン・ズーヌス氏は、IPSの取材に対して、「米国は、協定当事者である7か国(P5+1+イラン)のうちで、協定に対する強い反対論がある唯一の国です。世界の戦略分析家の中では、この協定はもっとも現実的に実現可能なものだとの評価がかなり広くなされています。」と指摘したうえで、「いつでもどこでも米国が自分の意思を押し付けることがもはやできないような多元的で複雑な世界になってきているという事実を受け入れられない人々がいるようです。」と語った。
安保理における政治についての著作も多いズーヌス氏は、協議が成功するには、どちらかが一方的に勝利するのではなく、双方の妥協が必要だと語る。
協定の主要な交渉人の一人であるジョン・ケリー米国務長官は、二国間ではなく国際的な協定に関してさえ、米国の意向が政治的・外交的に国連よりも優先されるべきだという一部の米議員からの要求に対して、テレビのインタビューを通じて反応した。
「(米)議会が望むようなことをフランスやロシア、中国、ドイツ、英国に要求すべきだというのは、傲慢です。」とケリー長官はあるテレビ番組のインタビューの中で語った。
「これらの国々には投票に参加する権利があります。しかし、我々は、米議会のことを考慮に入れ、これらの国々を説得して投票の実施を遅らせたのです。従って、いまさらこれらの国々の意志を妨害するつもりはありません。」とケリー長官は付け加えた。
『ニューヨーク・タイムズ』によると、上院外交委員会のボブ・コーカー委員長(テネシー州選出、共和党)と同委員会のベンジャミン・カーディン筆頭理事(メリーランド州選出、民主党)が先週、バラク・オバマ大統領に共同書簡を送り、米議会が決定を下すまでは安保理の投票を延期するよう要請した。
「公共情報精度向上研究所」(本部:ワシントンDC)のノーマン・ソロモン所長はIPSの取材に対して、「米議会の多くの議員に理解させるにはしばしば困難な概念だが、米国政府が世界を仕切ることができるわけではないし、時には米国政府でも国連安保理を仕切ることさえできないこともあるのです。」と語った。
「『覇権』という言葉を使うわけではないが、米国は全ての国々を導き照らす存在であり、その能力を国際法という怪しいものの陰に隠すべきではないと信じる議会の共和党や数多くの民主党議員にとって、これは衝撃であり、少なくとも侮辱的なものでしょう。」とソロモン氏は指摘した。
「この場合、イランとの核合意を壊そうとする米議会の危険な横暴に対して、一笑に付せばいいのか抗議すればいいのかは、難しいところです。」と、60万人にのぼる活発な支援者を擁するオンライン行動グループ「RootsAction.org」の創始者でコーディネーターでもあるソロモン氏は語った。
ソロモン氏はまた、「歴史的にみれば、米国政府の政策によって核拡散の大部分が引き起こされてきました。」と指摘したうえで、「米政府はイスラエルが核兵器を保有していることを今後も公的には認めないだろうし、米国の指導者らは、中東の非核兵器地帯化を目指すいかなる提案、あらゆる提案に対して、背を向けてきました。」と語った。
20日には、加盟28か国の欧州連合(EU)もイランとの核合意を承認し、欧州による対イラン経済制裁解除への道を開いた。
「イランの核兵器取得を不可能にするバランスのとれた合意であり、重要な政治合意です。」とフランスのローラン・ファビウス外相は語った。
英国のマシュー・ライクロフト国連大使も20日、「イランがもはや核兵器を製造できないということで、世界はより安全な場所になりました。」と述べ、ファビウス外相と同様の認識を示した。
ソロモン氏はIPSの取材に対して、「米国は数多くの国々に原子力の商業利用を拡散させてきた主要な国ですが、発電のための核エネルギーが核兵器開発のための主要な入口になるという現実を一貫して否定してきました。」と指摘したうえで、「米政府高官のレベルで、こうした事実を認めたことはないし、ましてや、そうした危険な原子力の大盤振る舞いから世界を遠ざけようと努力をしたこともありません。」と語った。
ソロモン氏はまた、「現在交渉中のイランとの核合意は、オバマ政権が自身の成果であると主張できる数少ない大きな外交的成果の一つと言えます。しかし、米国の多くの愛国主義的な勢力が、この合意を壊そうと躍起になっているのです。」と指摘した。
「国連の文脈では、そして米国の政治的舞台という文脈では、この動きはそれそのものとして認識されねばなりません。つまり、率直に言って、平和的解決という悪い冗談からイランに対する戦争遂行という(彼らの)希望を救い出そうとする米議会内の好戦主義者たちによる恥知らずな企てとして認識される必要があるのです。」
20日に安保理決議2231が採択されたのち、国連の潘基文事務総長は、同決議はイランとの核合意に関する「包括的共同行動計画」(JCPOA)の実行を確実にするものだと述べた。
潘事務総長は、「この決議によって、JCPOAの履行を促進する手順が確立され、全ての国が合意に含まれた義務を履行することが可能になりました。」と指摘したうえで、「この決議によって、イランに対する全ての核関連制裁は結果的に解除されることになるでしょう。国際原子力機関がJCPOAに従ってイランが核関連の義務を遵守しているか検証し続けていくことになります。」「国連は、決議に実効性を持たせるために必要なあらゆる支援を行う用意があります。」と語った。
ズーヌス氏はIPSの取材に対して、「米ソ間で締結された核関連諸条約の事例が示しているように、地政学的な敵対国であり他方の政体に対して強く反対しながらも、軍備管理に関しては、お互いに有利なウィン・ウィンの解決策があると考えることもできるのです。」と語った。
「核兵器に関するほとんどの取り決めは相互主義を採っているが、イラン近隣の核武装国であるイスラエル、パキスタン、インドは、核兵器に関する国連安保理決議に違反し続けているにも関わらず、核兵器を廃絶あるいは削減したり、査察を受け入れたりすることさえ義務づけられていないのです。」とズーヌス氏は付け加えた。
そして、今回の協議に加わった6か国のうち5か国(=ドイツを除く安保理5大国)までをも含む他の核兵器国も、その核戦力を削減するようには求められていない。
「イランがこの協定を通じて不当な利益を得ているという考えは、全くばかばかしいと言わざるを得ません。」と、ズーヌス氏は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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