【国際連合IPS=タリフ・ディーン】
故ターヅィー・ヴィタッチ元国連児童基金(UNICEF)事務局次長は、かつてあるアフリカの外交官が彼を事務所に訪ねてきて、アフリカ大陸に重大な影響を及ぼす事柄についてどうやったら欧米のメディアに取り上げてもらえるかアドバイスを求めてきた時のエピソードを詳しく語ったことがある。
「わが国の首相が国連総会で、アフリカの生存にとって極めて重要な経済、社会問題について発言することになっています。どのようにしたら、その内容を、ニューヨークタイムズに載せてもらうことができるでしょうか?」と、ヴィタッチはその役人が尋ねてきたことを回想した。
「(その首相を)撃ち殺しなさい。そうすれば記事のフロントページに大々的に掲載してもらえますよ。」と、ヴィタッチは返答した。ヴィタッチ自身、かつてニューズウィークへ特約寄稿し本国スリランカでは「伝説的な編集者」と評されていた元ジャーナリストであった。
ヴィタッチは長年に亘って「ほとんどの欧米メディアは、貧困、飢餓、妊産婦死亡、国連加盟国(191ヶ国)の3分の2以上を悩ませている諸疾患などについて、深く洞察した取材記事を配信しようとしない」と嘆き、「これらのテーマは、大半のニュース編集室(報道局のスタジオ)にとって(報道するには)魅力に欠けるものなのだろう」と語っていた。
シャシ・タルール国連広報担当事務次長は、ヴィタッチに近い見解を持っている。
「今なお、ヘッドラインを飾るテーマは、かなり狭い範囲に限られている傾向があります」と、タルールは、火曜日(5月3日)に「国連が選んだ最も報道されなかった10大事件リスト」を発表した席で語った。
5月3日の「国際報道の自由デー」に合わせて発表されたリストは2004年の出来事から、「世界の人々がもっと耳にすべきであるにもかかわらず、世界の主要テレビネットワークやニュースメディアが無視或いは軽視してきた出来事」を国連が10選択したものである。
タルールは10選には次の出来事が含まれていると語った:「(1)ソマリアにおける和平に向けた進展、(2)女性に対するヘルスケアの盲点となっている悲惨なフィスチュラ(産科瘻孔:長時間の難産の結果、産婦の膣等女性器に穴が開く症状―女性器と膀胱または直腸の間が繋がり漏尿や漏糞となり、社会から差別の対象となることが多い)、(3)ウガンダ北部における人道危機、(4)シエラ・レオーネにおける元兵士たちの武装解除、(5)近年100を超える団体が生まれるなど人権擁護団体の増加。」
「同じく見過ごされている出来事として」とタルールは続ける、「(6)カメルーンや他の貧困国の小規模農家が作った農作物に対して公正な価格を付けられる現実、(7)インド洋津波報道の影で忘れ去られたグレナダのハリケーンアイバンからの復旧に向けた取組み、(8)引き続き行われている女性に対する暴力、(9)不正な麻薬栽培を抑制するための戦闘に代わる代替策として採用されている開発支援、(10)諸疾病を治癒する潜在的な可能性がある薬を保護するための環境保全対策」
「メインストリームメディアは次のような理由で特定のニュースを無視或いは控えめに扱うのです。1つ目の理由:編集者の意見として『売れそうにない』から、2つ目の理由:政策責任者、読者、視聴者の関心からかけ離れていそうだから、3つ目の理由:例えば『人間が犬に噛みついた』『血が流れればヘッドラインになる』といったニュースの枠組方程式に当てはまらないから」とタルールはIPSの取材に応えて語った。
タルールはこれに対する反論として、「読者が関心がないのではなくで、読者はむしろ、これらの(メインストリームメディアが取り上げない)ニュースが如何に私達と関連しているか説得力のある取材・執筆を行うことで、むしろ関心を持つのです」と語った。
「どのような記事が売れるのかというメインストリームメディアの基準も、暴力とスキャンダル関連のもののみがニュースになる現状を考えれば、かなりの議論の余地があります」とタルールは主張した。
「なぜ、インド洋津波がグレナダのハリケーンアイバンの被害者よりニュース価値があるということになるのか?なぜ出産によって引き起こされるフィスチュラ(産科瘻孔)の恐怖について、全ての女性たち-そして全ての人々は出産によってこの世に生を受けたという意味では男性たちも-は関心がないということになるのか?」とタルールは問いかけた。
「メディアが取り上げてくれなければ、数多くの『より静かな』緊急事態は、開発援助予算の配分を決定する援助供与国(=先進国)の人々にとって、単純に「存在しない」ということになってしまうのです」とタルールは語った。
「確かに今年の国連の10選はいずれも人々の注目を引くべき説得力のあるテーマです。しかし、イラクやインド洋津波のような戦争と大災害に関する報道が、どうしても限られた1日のニュース報道のスペースの中で、長らく沸々と蓄積してきた問題(放置しておけば暴発する危険性のある問題)を押しのけてしまうでしょう。その意味で、今年は報道にとって大変厳しい年となっています」とタルールは語った。
「確かに私達も十分理解していることですが、ニュース編集者にとって(このようなニュースを取り上げることは)大変厳しい要求だと思います。しかし今年私達が光を当てたニュース(=実は国際社会と密接に繋がっている)が問題解決に向けた動きへと繋げていくためには、世界の一般視聴者/読者や政策責任者の注目を引く必要があります。つまり私達は、なんとかこれらのニュースを世界の世論の注目を得られる紙面の表紙に持ってくる方策を見つけなければならないのです」とタルールは付加えた。
「私達が毎年発表する国連の10選は、このような方向に向かうために努力している様々な試みの中の小さな一歩なのです」
かつてロンドンの新聞社が実施した途上国における諸問題に焦点を当てた「第3世界ページ」のようなものを作ることは効果的な試みかというIPS記者の質問に、「第3世界ページを設けることはある種の差別的な囲い込み(ニュースのゲットー化)であり、これらの記事が持つ本来的なメリットを考えると公平なやり方ではない」とタルールは答えた。
「それどころかさらに悪いことに、第3世界に関心あるという自己イメージを持っていない人達は(私達がどんなにそれらのニュースが全ての人々に関心あるものと思っていたとしても)単純にそのページ(=第3世界ページ)を飛ばして読んでしまうこになってしまうだろう」とタルールは付加えた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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