【ワシントンIPS=バーバラ・スラビン】
米露間の新戦略兵器削減条約(新START)に対する支持獲得のためにオバマ政権が展開している議論の中で、共和党にもっとも受けるのは、イランをからめたものであろう。
ゲーリー・サモア大統領補佐官(核不拡散担当)は、11月18日、イランと新STARTとの関連について、「米議会のレームダック・セッション(中間選挙後から来年1月の新会期までの残りの会期)において新STARTを批准することができないならば、イランの核開発に対する『連合を弱める』、とりわけ『ロシアとの連携を保つ』点に関して深刻な結果を招きかねない」と語った。
大方の予想に反して、ロシアはイランに対して対抗的であった。昨夏には、国連安保理でイランに対する厳しい制裁決議に賛成し、米国あるいはイスラエルによる核施設攻撃を抑止するためにイランが導入を狙っていた防空システム「S-300」の売却をとりやめた。
米露関係の「リセット」において大きな目玉ともいえる新STARTを上院が批准しないなら、この連携は危機に陥るとする点で多くの専門家は一致している。ジョージ・メイソン大学(バージニア州)のロシア専門家マーク・カッツ氏は、ロシアが防空システム売却を中止したことは、米上院がSTARTに関して「正しい結論に達するようになされた妥協」だとみている。
かつて軍備管理交渉に関わり、現在は、核兵器なき世界を目指すグループ「グローバル・ゼロ」の議長であるリチャード・バート氏は、11月17日、「ニューズ・アワー」でジム・レーラー氏にこう語っている。「新STARTの批准を避けたい国が世界で二つだけある。それは、イラン政府と北朝鮮政府だ」。
新STARTは米露の核弾頭数を1550発、運搬手段を800にまで制限するものだが、これはごく控えめな削減に過ぎない。今週、条約批准には黄色信号が灯った。共和党を代表して新START問題に関してオバマ政権と協議を行っているジョン・カイル上院議員(アリゾナ州)が、今会期中に上院で条約案を投票に付すかどうかについて、否定的な発言をしたのである。
早期に条約を通過させるべきだと主張している共和党議員は、外交委員会のリチャード・ルーガー筆頭理事(インディアナ州)だけである。条約批准に必要な67票を得るには、オバマ政権は8人の共和党議員の支持を必要としている。
民主党は、共和党はオバマ再選の見通しをつぶしにかかっていると非難している。ニクソン・センターにおいて講演したサモア補佐官は、「問題はより大きなものであり、条約は米国のリーダーシップの重要なシンボルとなった」と語った。
共和党の上院院内幹事に再度選ばれたばかりのカイル議員を含め、共和党議員に対する説得工作が続いている。
ブッシュ政権において国務次官補(不拡散担当)を務めたステファン・ラドメーカー氏によれば、カイル議員は条約に「反対だとは言っていない」が、核兵器の近代化を進めるためにさらなる予算が必要と述べたという。オバマ政権はすでに、核兵器関連で10年間で850億ドルの予算を認めている。しかし、サモア補佐官によれば、上院が条約を批准しないとこの予算も危うくなるという。
過去には新STARTを批判していた共和党のラドメーカー氏も、イランに関する国際的なコンセンサスが弱まりそうな状況の中、新STARTを支持すべきだと考えるようになったという。
「もし私が上院議員だったら、なんとかして条約に賛成投票をしようとするだろう」とラドメーカー氏は言う。しかし、後に彼はこうも言っている。「条約の問題点をできるだけ多く改善するために、助言や同意の決議にあるよりも、もっと多くの条件や明確化を私なら望むだろう」。
サモア補佐官は、イランは、核不拡散問題に関しては、オバマ政権にとっての優先順位が高いと強調した。イランは核兵器開発を否定しているが、サモア補佐官は、「それこそがイランの目標であると見て間違いない。イランは(国際的な核不拡散体制に)侵食するがんのようだ」と語った。
オバマ政権は、イランへの制裁と国際社会でのさらなる孤立によって、イラン核開発のペースを緩め、核開発への意味ある制限について交渉を進めることができるという立場だ。新しい交渉は12月5日にも始まるものと見られているが、イランは、交渉の場所についても、まだ約していない。イラン政府はトルコを示唆してきたが、サモア補佐官は、トルコは国連安保理決議でイラン制裁に反対しており、「中立的な会場とはいえない」から、トルコはありえないだろうとみている。
サモア補佐官は、「イランがナタンツの施設に貯蔵している低濃縮ウランのための医療用アイソトープを生産する原子炉と引き換えに、イランに対して燃料を提供するという1年越しの提案を、米国とその同盟国は見直そうとしている。」「米国は、国連安保理決議に従ったウラン濃縮の完全な一時停止にイランが合意することを、かたくなに主張している。ただし、濃縮の一時停止はあくまで短期間だけとなるかもしれない」と語った。
一時停止の実施期間、そして「どのような条件の下で一時停止を中止するか」が、交渉のポイントなるだろうと。サモア補佐官は語った。
イランは、核不拡散条約(NPT)の署名国として、イランにはウランを濃縮する権利があると主張している。
サモア氏は、イランの核問題を解決する手段として、イスラエルがその核態勢を公にすべきだという提案を否定した。サモア氏は「イスラエルはNPTの加盟国でない」と指摘した上で、「イランはNPT体制内部において破壊工作を行っている」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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