INPS Japan/ IPS UN Bureau Report米国でイスラエル擁護派が跳梁

米国でイスラエル擁護派が跳梁

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

ウォールストリート・ジャーナルが「イスラエルによる近年で最悪の国際関係上の失策」と呼ぶなど、パレスチナ・ガザ地区に向かって支援物資を届けようとしていた船団へのイスラエル軍特殊部隊による攻撃に対する国際的な非難が強まる中、米国のいわゆる「イスラエル・ロビー」がイスラエル擁護の強力な論陣を張っている。

彼らが懸念するのは、イスラエルの特殊部隊がトルコの国旗を掲げていたナヴィ・アルマラ号の乗員少なくとも9人を殺害した事件をきっかけに、バラク・オバマ政権がイスラエルから距離を置くのみならず、イスラエル包囲網に加わってしまうのではないかというものである。

 「反中傷連盟」(ADL)のエイブラハム・フォックスマン代表は、「国際社会はイスラエルに対する偏向を持った判断をし、外交的リンチを加えているが、今こそ米国がイスラエル国家と市民の擁護のために立ち上がるべき時だ。」と語った。

「米国は、テロから自国の領土と市民を守るイスラエルの権利を支持するとともに、人道支援を行う「平和活動家」を装いながらハマスを支援しイスラエル軍兵士を攻撃してくる人々に対して、イスラエルが自衛権を行使する権利を有していることを支持する姿勢を国際社会に示さなければならない。」とフォックスマン氏は付け加えた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の報道官は、5月31日に国連安保理議長が出したイスラエル非難声明のトーンが弱められたことを米国に対して感謝したが、イスラエル擁護のネオコンは、オバマ大統領が最大の同盟国イスラエルを裏切って、安保理声明に拒否権を発動しなかったとして盛んに非難した。

ジョージ・W・ブッシュ政権で中東問題の補佐官をつとめたエリオット・アブラム氏は、「Joining Jackals」と題した記事の中で、「我が国はどうして(イスラエルを非難する)安保理議長声明に同意したのだろうか?」と問いかけた。

「オバマ政権は、イスラエルと連帯する明確な方針を持ち合わせていなかったことから、(公海上で民間船の乗務員を殺害したイスラエルを非難した)国連安保理メンバーを向こうにまわしてまでイスラエル支持の姿勢を出したくなかったのだ。」と、現在は外交問題評議会 (CFR)に拠点を置くアブラム氏は、ネオコン系週刊誌に寄稿した記事の中で語った。「なぜなら、オバマ政権がその気になれば、イスラエルを非難する安保理議長声明は阻止できたはずだからだ。」

イスラエルのネタニヤフ首相率いるリクード党と世界観を共有するネオコンの中には、オバマ政権が今回の危機に際して無条件にイスラエルを擁護しなかったことから、イスラエルは将来もっと攻撃的な行動に出ることになると示唆する者さえいる。

アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン氏は、ナショナル・レビュー・オンラインに、「もしオバマ大統領が、カイロやベイルート、テヘラン、アンカラの歓心を買おうとしてガザ船団事件に関してイスラエルを見せしめにすることが米国の利益になると考えているのであれば、イスラエルの指導層は、米国はもはやイスラエルの安全を守る気がないと判断し、いかなる問題についても、とりわけイランによる核開発問題について、自らの手でことを処理しなければならないと考えるようになるであろうことを理解しておかねばならない。」と書いている。

またルービン氏は、「つまり、もし米国政府がここでイスラエルに対して厳しい態度をとるならば、それはすなわち、イスラエルがイランを攻撃する青信号が点されたに等しい。」と付け加えた。

こうしたイスラエルの心理は、6月1日付ウォールストリート・ジャーナル紙に掲載されたイスラエルの大手新聞イディオット・アハロノット(Yediot Aharonot)のローネン・バーグマン記者のコラムによく描かれている。バーグマン氏は、イスラエル特殊部隊の作戦を「無責任なもの」としたうえで、その背景には、世界がイスラエルというユダヤ人国家を敵視しているとする「脅迫観念」が同国の指導者層と国民の間で支配的となっている現状を反映したものだと指摘している。

またバーグマン氏は、イランの核開発計画に言及して、「疲弊し孤立しながらもイスラエルがなお、敵国(=イラン)に対して先制攻撃で、しかも取り返しがつかない手段を含む大打撃をもたらす能力を有している現実を考えれば、イスラエルがこのような「不健康な」思考にとわられている現状に深く憂慮せざるを得ない。」と語った。

ネオコン達が、オバマ政権がイスラエルと距離を置いた場合の地政学的代償について脅迫的に警告を発する一方で、ロビイストと米議会内の親イスラエル議員達は、5月31日にガザ沖約100キロの公海上で未明に起こった事件について、イスラエル政府側の見解を擁護する姿勢を見せた。

彼らは、作戦に参加したイスラエル特殊部隊は当時ペイントボールライフルと拳銃しか装備しておらず、船舶の乗員が鉄棒、ナイフ、その他の固いものを振り回して襲ってきたため、自衛の対応を取らざるを得なかったと主張した。

「イスラエル兵には、ナイフやこん棒を武器にリンチを行おうとする暴徒から自らの生命を守る当然の権利があります。」と、米下院外交委員会の共和党委員長イレーナ・ロス=レーティネンは語った。

両者の武器を含めて、イスラエル側が主に同国防軍(IDF)が配布した短いビデオ映像を元に主張している説明内容については、船上にいた約600名の多くが証言の中で異議を唱えている。彼らは、船をイスラエルに曳航された後、約24時間に亘って外部との連絡がたたれた状態で監禁されたのち、国外追放処分を受けた。

またイスラエル側の主張には、(イスラエル軍に)公海上で攻撃に晒された船上の人々の自衛権について考慮されていない。この点について、Media MattersのM.J.ローゼンバーグ氏は、「イスラエルの言い分は、あたかも車乗っ取り犯が、警察に対して、運転手が座席下のバールを取り出して自分に殴りかかってきたと不平を言っているようなものだ。」と語った。

またイスラエル擁護団体は、メディアと一般大衆の注目を、彼らの言う「テロリストと関係がある、イスラム系過激派集団」というイメージに集中させようとしてきた。すなわち、トルコに拠点を置く「過激派集団」、「インサニ・ヤルディム・バクフィ」( IHH)が、(今回襲撃を受けた)「マビ・マルマラ」号を購入し、3年間にわたるイスラエルによるガザ封鎖を突破するために8隻で出港した船団を後援しているというものである。

また、アメリカ・イスラエル広報委員会(AIPAC)は、5月31日、9.11同時多発テロ後に機密解除となった中央情報局(CIA)レポートにIHHが、テロ要員を雇い、アルカイダを含むテロリストグループの活動を支援している15組織のうちの一つに挙げられていると指摘したレポートを発表した。

またAIPACは、他のレポートの中で、「IHHはアルカイダによるロサンゼルス国際空港襲撃爆破計画において重要な役割を果たしていた」とする「著名なフランス人対テロ捜査官」による証言を引用した。

「しかし、このCIA報告書が書かれた90年代中頃には、IHHがボスニアやチェチェンで戦士を集めたこともあったが、現在は、ガザやハイチ、アフリカ諸国など100カ国以上において人道支援活動を行っている。」と6月1日付『ニューヨーク・タイムズ』は報じた。そして、イスラエルに拿捕されたいずれの船舶からも、各種棒きれとキッチンナイフの他には、武器らしきものは何も発見されなかった。

また、右派シオニスト団体「ザ・イスラエル・プロジェクト」(TIP)は、メンバーを動員して、それぞれの地域の政治家、メディアを対象したイスラエル支持を求める電子メールによる働きかけを行っている。6月1日午後の僅か2時間の内に、ここIPSワシントン支局にもイスラエルが主張する事件経過を支持するよう求めるTIPメンバーからの電子メールが20件近く寄せられた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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