ニュース|視点|原潜への保障措置の複雑さが現状に影響を与える(レオナム・ドスサントス・ギマランイスブラジル海軍退役大佐)

|視点|原潜への保障措置の複雑さが現状に影響を与える(レオナム・ドスサントス・ギマランイスブラジル海軍退役大佐)

【リオデジャネイロIDN=レオナム・ドスサントス・グイマラエス】

Leonam dos Santos Guimarães Capt. (ret.) Brazilian Navy/ Nuclear Summit 2022
Leonam dos Santos Guimarães Capt. (ret.) Brazilian Navy/ Nuclear Summit 2022

安全保障と核不拡散に焦点を当てながら原潜に保障措置を適用するという問題には、国際的な規則や、協定、技術的な考慮事項が複雑に絡み合っている。

この議論の中心的な側面は、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の適用、特に潜水艦計画のための核物質の軍事転用という文脈にある。核物質が軍事活動に使用されることのみを理由として、自動的に保障措置から除外されるべきではないとこれまでは論じられてきた。

保障措置の非適用は、濃縮、燃料製造、貯蔵、輸送、再処理、廃棄といった、潜水艦内での核物質の実際の使用以外のすべてのプロセスを包含し、可能な限り限定的であることを保証することに重点が置かれている。

AUKUS

AUKUS(豪・英・米)原潜計画への保障措置の適用は、複雑かつ高度に技術的な問題で、国際的な核不拡散規範やAUKUS合意の具体的な内容、原潜技術の技術的側面に関する十分な理解が必要である。2021年9月に発表された豪州・英国・米国間の安全保障合意によって豪州に原潜が供与されることになった。この取り決めは核不拡散・保障措置にとって重要な意味を持つ。以下の点がAUKUS協定に関連している。

○潜水艦における核技術の性格:潜水艦で使用する原子炉は、推進力を生むためのものであって核兵器生産のためのものではない。しかし、兵器級の高濃縮ウランを使用している以上、兵器化は可能である。このため、高濃縮ウランが非平和目的に転用されないように厳格な保障措置をかける必要がある。

○豪州の核不拡散へのコミットメント:豪州は核不拡散条約(NPT)に非核兵器国として加入している。つまり、民間の原子力事業を平和目的に限定し、国際的な保障措置を受ける義務があるということだ。原潜の取得によって豪州は独特の立場に立つことになる。というのも、このあらたな能力が、核兵器開発のような禁止されている軍事目的に使用されることはないと証明する必要が出てくるからだ。

○国際的保障措置と監視: IAEAは保障措置の実施において極めて重要である。豪州、英国、米国は、IAEA と緊密に協力し、潜水艦プログラムが豪州の核不拡散公約を遵守することを保証する枠組みを構築しなければならない。これには、定期的な査察、監視、検証の仕組みが含まれる。

○地域的、世界的影響:豪州による原潜配備は、地域、とりわけインド太平洋地域の安全保障力学に大きな影響を与える可能性がある。近隣諸国がもつ懸念に対処し、地域の軍拡競争の激化を防ぐためには、透明性を高め対話を進める必要がある。

○技術的・運用的保障措置:国際的な監視とは別に、技術的・運用的保障措置もまたこの事業の不可欠の一部となる。核物質の安全な取扱と計量、物理的防護措置、事故や未許可の利用を予防する安全規則などがここには含まれる。

○法的・政策的枠組:AUKUSの構成国は、国際規範や二国間協定に沿った強固な法的・政策的枠組みを構築しなければならない。これには、核物質や核技術の使用、移転、廃棄を規制する立法措置や規制措置が含まれる。

保障措置の適用

AUKUS原潜計画への保障措置の適用は、計画実行にきわめて重要な意味を持つ。核不拡散の懸念に対処しつつ豪州が防衛能力を強化するというバランスの取れたアプローチが求められる。国際核不拡散規範を遵守し、透明性を維持することは、地域の緊張を緩和し、世界の核セキュリティを強化する上で不可欠である。

AUKUS原潜プログラムの現状は、国際的な核不拡散基準の遵守を確保するためのIAEAとの継続的な交渉と関与とともに、プログラムの技術的および戦略的側面における大幅な進歩によって特徴付けられる。このプログラムの進展は、AUKUS諸国の軍事的・技術的能力を強化することを目的とした、より広範な戦略的イニシアチブの一環である。

最新の情報によると、原潜取得計画に関するAUKUS各国(豪州・英国・米国)と国際原子力機関の交渉は順調に進んでおり、核不拡散基準の遵守が焦点になっているという。

○原潜計画の進展:AUKUS諸国は原潜計画の策定・履行においてかなりの進展を見せている。たとえば、豪州海軍人に対する教育・研修を行い、産業部門への研修を行い、豪州西部での潜水艦ローテーション配備の準備を進める。豪州に対する米バージニア級原潜の初供与は2030年初めごろを予定し、豪州製造による初の戦略型原潜が供与されるのは2040年代初頭に予定されている。

○不拡散基準へのコミットメント:AUKUS諸国は核不拡散の最高基準を維持することを改めて約束した。このコミットメントは、核兵器不拡散条約に基づく非核兵器国(豪州)による原潜の使用に関わるものであり、極めて重要である。

○IAEAとの二者国間協議:豪州はIAEAとの二者間協議を開始している。これらの協議は豪州の包括的保障措置協定第14条の下で保障措置をどう行うかに焦点を当てている。協議の行く末は、AUKUSの計画がグローバルな核不拡散規範に則っているかどうかを図るうえできわめて重要だ。

○保障措置と監視への焦点:これらの議論は、保障措置と監視の強固な枠組みを確立することを強調している。これは、潜水艦で使用される核物質や技術が非平和的目的に転用されないようにするにはきわめて重要だ。

○法的・規制的枠組:協議は原子力技術移転および利用の法的・規制的側面を重視し、パートナーそれぞれの国際的な法的義務およびコミットメントとの関連において実施される。AUKUSの成功のために三国全ての立法府からの支援が得られるように協議が進められている。これには、独立した原子力安全規制機関を含む原子力安全の枠組みを確立するための豪州議会への法案提出も含まれる。

○技術的側面:AUKUSの潜水艦は、英国型、AUKUS型戦略原潜のいずれでも米国の推進技術を取り入れ、原子炉は英豪両国のSSN-AUKUS潜水艦にロールスロイス・サブマリン社が提供する。三国はこれらの潜水艦を念頭に置いた合同戦闘システムを開発中だ。

○AUKUS協定の広範な対象:潜水艦計画にとどまらず、AUKUS協定はサイバー能力、人工知能、量子技術、深海技術など、他の技術領域における進展も包含している。これらの側面は、AUKUS諸国間の共同能力と相互運用性を強化することを目的としている。

Image: Number 10/Flickr
Image: Number 10/Flickr

AUKUSのパートナーとIAEAとの間の交渉は、国際的な核不拡散規範を遵守し、透明で効果的な保障措置システムを確立することに重点を置いた、潜水艦プログラムの重要な側面である。これらの交渉の結果は、核不拡散体制とAUKUS潜水艦プログラムの将来の運用に重大な影響を与えるだろう。

ブラジル

ブラジルの原潜計画への保障措置の適用には、国際的な核不拡散規範、国家安全保障上の利益、技術革新が複雑に絡み合っている。このトピックは、ブラジルの原潜計画の背景、国際保障措置の性格、これら保障措置を原潜計画に適用する際の特定の困難と検討すべき事項といったいくつかの領域に分節化できる。

ブラジルが原潜開発を追求しているのは核技術開発の一環で、それには平和的なエネルギー産出と国家安全保障といった二つの側面を含む。NPT及びIAEAの加盟国としてのブラジルは原子力技術を平和的目的にのみ使用し、核兵器の拡散を防ぐとの公約をしている。ブラジルは、連邦憲法によって平和目的以外の核利用を禁止しているユニークな国である。

ブラジルの原潜計画に保障措置を適用することには、次のように独自の困難がある。

○国家安全保障上の懸念:潜水艦はしばしば機微の軍事技術を伴っている。同じような開発を進めている他の国々と同じく、ブラジルは、安全保障上の懸念から潜水艦に対して(IAEAなどが)完全な立ち入りを行うことを好まないかもしれない。

○軍民両用技術:原潜技術は軍民両用技術である。そのような技術に対して保障措置をかけるには、不拡散という目的と、当該国の正当な防衛目的との間に適切なバランスを取らねばならない。

○技術的課題:原潜を監視し検証することには技術的な課題がある。原潜は移動をするため、[外部の人間が]立ち入れない期間があるからだ。

○法的・外交的協議:軍事艦船に対する保障措置枠組みの確立には、ブラジル、IAEA、あるいはその他の国際的主体の間の微妙な法的・外交的関係が横たわっている。査察官がどの程度立ち入れるか、監視メカニズムの性格はどうあるべきかが問題になる。

ブラジル独自の原潜計画に対する保障措置の適用は、国際関係と原子力技術の微妙な関係を表している。国際的な核不拡散規範を守る一方で、国家安全保障と主権を尊重しなければならないという、難しいバランスの上にある。こうした取り組みが成功するかどうかは、原子力技術の複雑さと、平和と安全の維持という国際社会の多様な利害を認識した上で、透明性のある協力的なアプローチをとるかどうかにかかっている。

多層的

ブラジルによる原潜自国開発に対する保障措置の適用は多層的かつ現在進行形の問題であり、ブラジルのこれまでの長期的な核政策と国際機関との協議に関する最近の状況によって特徴づけられる。

ブラジルは、ウラン採掘からウラン転換・濃縮、核エネルギー生産に至る核燃料サイクル全体を包含する能力を開発し、核技術における主要プレーヤーとなっている。同国の核計画には民生部門と軍事部門があり、ブラジル海軍はウラン濃縮技術に責任を負っている。

Treaty of Tlatelolco Credit: OPANAL
Treaty of Tlatelolco Credit: OPANAL

ブラジルが原潜を追求するようになったのは1979年に遡り、経済の近代化と国際的な影響力の拡大を目指す広範な目標の一環であった。ブラジル海軍は、フランスのナバル・グループ社と協力し、通常動力潜水艦の建造技術と原潜の非原子力システム設計技術を獲得してきた。

国際公約の面では、ブラジルは、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国における核兵器の禁止に関する条約(トラテロルコ条約)や核拡散防止条約(NPT)など、原子力の平和利用を重視するいくつかの条約や協定に加盟している。ブラジル、アルゼンチン、IAEA、ABACC(アルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関)の4者協定は、両国の核物質と核施設への包括的保障措置の適用を概説している。

低濃縮ウラン

ブラジルの原潜計画には低濃縮ウランの使用が含まれている。これは核兵器生産には適さないものだが、ブラジルが自国開発による軍事的核燃料サイクルを持っており、そこにはウラン濃縮施設も含まれるために、拡散リスクに対する懸念がある。ブラジル政府は、原潜推進のための核物質を軍事転用しないための特別手続きを適用すべくIAEAと協議を開始した。この協議プロセスは。IAEAとの補足的な技術協定の締結に至る可能性があるだけに、きわめて重要である。そうした協定が結ばれれば、国際的な核保障措置において重要な進展となることだろう。

ブラジル・IAEA間の協議は、ABACCによる保障措置体制と、より広範な世界の不拡散の取り組みに対して重要な意味合いを持つことになる。この協議の行く末は世界の核秩序に影響をもたらし、核技術の平和利用と核不拡散上の懸念のバランスを取った革新的な保障措置合意に至る可能性を秘めている。

ブラジルの原潜計画に保障措置を適用することは、この積極的な交渉と開発の段階の途中にある。ブラジルの原子力技術開発の歴史、戦略的目標、国際的義務は、この問題を国家安全保障、技術革新、グローバルな不拡散努力の結節点にある繊細な問題にしている。

最新の情報によれば、ブラジルの原潜計画への保障措置適用に向けたブラジル・IAEA間協議は、ブラジルの計画の独自性ゆえに複雑なものとなっている。

ブラジルの広範な戦略的、軍事的目標の一環である原潜計画の進展には、計画を国際的な核不拡散基準に合致させるためのIAEAとの協議を要する。これらの協議の主要な側面は以下のようなものだ。

○保障措置のための特別手続き:ブラジルは、原潜の推進力用途の核物質が軍事転用されないような特別手続きを適用するためのIAEAとの協議を開始している。このステップは、核不拡散条約(NPT)や地域協定のような国際条約の下でのブラジルの義務に沿った枠組みを確立することに関わるため、非常に重要である。これらの特別手続きは、IAEAにより包括的な査察権限を与え、ブラジルの核プログラムの透明性と信頼性を高めることになろう。

○固有の核燃料サイクルをめぐる懸念:ブラジルが、ウラン転換施設や濃縮施設を含む軍固有の核燃料サイクルを保有してることで交渉はより複雑化している。同国は、通常は兵器使用に不適切だと考えられている低濃縮ウランの使用を計画している。しかし、これら施設の存在は拡散上の懸念をもたらしており、より厳格な保障措置が必要とされる。

○ABACCの役割:アルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関(ABACC)は、ブラジル・アルゼンチン・IAEA・ABACC四者間の協定によって保障措置実行の役割を担っている。ブラジルのIAEAとの交渉の行く末はABACCの保障措置体制にも影響を与える。

○グローバルな影響:この協議とその行く末は世界の核秩序に大きな影響を与えるため、世界がこれに注目している。平和目的のための核技術を軍事利用する状況で核不拡散という難題に対処するための革新的な保障措置協定の策定につながる可能性がある。

○ブラジル計画の独自の性格:AUKUS協定下での豪州の計画などの他国の場合と違い、ブラジルの場合は自国開発によって原潜取得を追求している。これには、民生部門と軍事部門の両方の核燃料サイクルが含まれている。この独自の性格により、交渉はさらに複雑化している。

この交渉は、国家安全保障、技術進歩、国際的な核不拡散基準の順守のバランスを浮き彫りにする、国際原子力関係における重要な瞬間である。この協議の結果は、非核保有国の原潜に関する将来の協定や政策の先例となるだろう。(原文へ

※著者のレオナム・ドスサントス・ギマランイスは、原子力・海軍技師(博士)であり、全ブラジル工学アカデミーの会員。「エレクトロニュークリアーSA」の社長であり、サンパウロにある海軍技術センター「艦船原子力推進プログラム」のコーディネーター。現在は、原発「アングラ3」の建設・稼働をめぐる法定委員会のコーディネーター。

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