【国連IDN=タリフ・ディーン】
国連の最高位にあるアントニオ・グテーレス事務総長とアブドラ・シャヒド国連総会議長(加盟193カ国)から警告が発せられた。
メッセージは明確だ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の2030年の完全履行目標まであと8年となり、その生き残りをかけた支援が真に必要とされている、というものである。
7月13日から15日の日程で3日間にわたり開催された「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)の閣僚会合で演説したグテーレス事務総長は「世界は大きな問題に直面しています。持続可能な開発目標もそうです。」と語った。
人口で言えば16億人を抱える94カ国が、食料やエネルギー価格の高騰と資金調達の困難という最悪の事態に直面している。
「そのため、今年は複数の飢饉が発生する危険性があります。肥料不足が米などの主食作物の収穫に影響すれば、来年はもっと深刻な事態になる可能性があるのです。」とグテーレス事務総長は警告した。
「時間はなくなりつつあるが、希望はまだあります。なぜなら、やるべきことは分かっているのだから。」
グテーレス事務総長はさらに、「SDGsを実現させたいなら、無意味で悲惨な戦争を今すぐ終わらせること。再生可能エネルギー革命を今すぐ実施すること。人間に投資し、新たな社会契約を今すぐ結ぶこと。そして、権力と金融資源の配分のバランスを変え、すべての開発途上国がSDGsに投資できるようにするための新たなグローバル・ディールを実現することです。」と指摘したうえで、「手遅れになる前に、SDGsを救うために、今日から、野心と決意と連帯をもって団結しよう。」と訴えた。
ロシアによるウクライナ侵攻の波及効果が、コロナ禍からの復興が脆弱かつ不均等な形でしか進まない中で襲い、気候変動が加速度的に進んでいる。しかし、世界の富裕国や交戦当事国は、支援を求めるこうした声に耳を傾けるだろうか、という疑問が残る。
国連総会のシャヒド議長もまた、SDGsの現状を憂慮している一人である。
「持続可能な開発が直面している困難の大きさ、深刻さ、複雑さは前代未聞であり容赦がないものです。気候変動や地域紛争の深刻化から、不平等の拡大や食料不安まで、私達が直面している課題は、2030アジェンダの目標やターゲットを頓挫させる恐れがあります。しかし一方で、私達には、これらの目標をやり遂げるだけでなく、『より強く、回復力がある持続可能な社会を実現できる』という希望があります。」とシャヒド議長は語った。
国連が7月7日に公表した『持続可能な開発目標報告2022年版』によると、気候危機やコロナ禍、世界各地で拡大する紛争によって、SDGs17項目の実現が危ぶまれている。
報告書は、とりわけ途上国が直面している問題の厳しさ、大きさに注目している。問題が複数の領域に重なって、食料や栄養、健康、教育、環境、平和・安全の問題に波及効果を持ち、より強靭かつ平和、平等な社会に向けた青写真であるSDGs全体に影響を及ぼしている。
ハイレベル政治フォーラムは、125以上の国家元首・副元首と2000人以上の閣僚・高官・その他の登録参加者が出席し、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とSDGsのフォローアップとレビューを行う中心的なプラットフォームと位置づけられている。
「持続可能な開発のための2030アジェンダを実現に導きながら、新型コロナウィルス感染症からのより良い回復を狙う」と題された今回のハイレベル政治フォーラムは、SDGsの全17目標のうち特に5つの目標を取り出して詳細な検討を加えている。
目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標14:海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標15:陸の豊かさも守ろう
目標17:持続可能な開発に向けてグローバル・パートナーシップを活性化する
国連経済社会理事会の主催で、各国閣僚参加による会合が7月13日から15日にかけて開かれ、宣言が採択された。
同理事会のコレン・ヴィクセン・ケラピル議長は各国代表らに対して「今年のハイレベル政治フォーラムは、復興政策がどのように危機を乗り越え、パンデミックによるSDGsへの悪影響を逆転させ、2030アジェンダのビジョン実現への道へと各国を向かわせることができるかを考察します。」と語った。
国連経済社会局統計部のステファン・シュヴァインフェスト部長は、「コロナ禍により長年にわたる開発の進展が停止或いは逆転してしまった。」と語った。
2021年時点で、コロナウィルスの直接・間接の影響によって1500万人近い人々が世界各地で亡くなった。極度の貧困を根絶するための4年以上の成果がコロナ禍によって消え去ってしまい、2021年には2019年よりも飢餓人口が1億5000万人も増えてしまった。
この2年間で、推定1億4700万人の子どもたちが、対面式での学習機会の半分以上を失ってしまった。コロナ禍は基礎的な医療サービスを著しく阻害している。ワクチン接種率はこの10年間で初めて低下し、結核やマラリアによる死亡が増加した。
シュヴァインフェスト統計部長は、こうした現状は暗いもののように見えるとしつつも、「[コロナ禍からの]復興と対応を通じて2030アジェンダの履行達成に向けた道を切り開いていかなければなりません。新たな思考法を実践し、あらたな可能性を開くことができます。」と語った。
また、パンデミック以前は、貧困削減、母子の健康改善、電力へのアクセス向上、水と衛生へのアクセス改善、ジェンダー平等の推進など、多くの重要なSDGsで進捗が見られていた。
SDGsの2022年版報告書は、目前にある課題の厳しさや大きさを強調しているが、これに対処するにはSDGsのロードマップにコミットしこれをフォローする全世界的な行動を加速させる必要がある。
「私たちは解決策を知っており、この嵐を切り抜け、より強く、より連帯を強める方向へと私たちを導くロードマップを手にしています。」とシュヴァインフェスト統計部長は語った。
国連開発計画のアヒム・シュタイナー事務局長は、「前代未聞の価格上昇は、世界中の多くの人々にとって、昨日は入手できた食料が今日は買えない、ということを意味します。この生活費用危機によって多くの人々が貧困に陥り、さらには飢餓が息もつかせぬ速度で進行しており、それに伴って、社会不安も加速しています。」と語った。
シュタイナー事務局長は、「生活コスト危機に対応している政策立案者らは、特に貧しい国において困難な選択に直面していることを指摘した。課題は、ほとんどの途上国が縮小する財政余力と膨れ上がる債務に苦しんでいる時に、貧しく脆弱な家計に対する有意義な短期的救済のバランスをどうとるかである。
シュタイナー事務局長はまた、「コロナ禍や債務レベルの急上昇、さらには食料・エネルギー危機の進行などの問題と途上国全体が闘う中、取り残される危険が迫っており、グローバル経済における格差は急拡大しています。」と指摘したうえで、「しかし、新たな国際的な取り組みによって、この悪循環に風穴を開け、生命と生活を守ることが可能になります。これには、断固たる債務救済措置、国際的なサプライチェーンの維持、世界で最も疎外されたコミュニティが安価な食料とエネルギーを入手できるようにするための協調行動などが含まれます。」と語った。
会合後に採択された最終宣言には、加盟193カ国による次のような見解や公約が盛り込まれた。
私達は、2030アジェンダとその持続可能な開発目標の完全履行に対するコミットメントを強く再確認し、これをコロナ禍からの包括的、持続可能かつ強靭な復興のための青写真として認識し、『誰も置き去りにしない』持続可能な開発のための行動と実現の10年の流れを加速する。
私達は、この数十年で初めて世界の貧困率が上昇し、何百万人もの人々が再び極度の貧困に陥ってしまったことに深い憂慮を表明する。
私達はさらに、世界的な食糧安全保障の達成の重要性を再確認し、飢餓、栄養不良、食糧不安の激増により、世界各地、とりわけ開発途上国で飢餓のリスクが高まっていることに深い懸念を表明する。
私達は、パンデミックと世界的な経済状況の悪化が、とりわけ最も貧しい人々や脆弱な立場にある人々を襲い、2030アジェンダの履行に直接的な影響を与えている中で、最も取り残された人々にまず手を差し伸べるとの公約を再確認する。
私達は、平和なくして持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和はあり得ないことを再確認する。私達は、この観点から、世界における紛争の増大と継続が、世界の平和と安全、人権の尊重及び持続可能な開発に影響を及ぼしていることに重大な懸念を抱いている。私達は、国連憲章と国際法の諸原則を完全に尊重することを呼びかけ、これらの原則および法のいかなる違反も非難する。(原文へ)
INPS Japan
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