SDGsGoal6(安全な水とトイレを世界中に)|視点|既存の非核兵器地帯条約を超える思考を(ジャルガルサイハン・エンクサイハンNGO「ブルーバナー」代表、元モンゴル国連大使)

|視点|既存の非核兵器地帯条約を超える思考を(ジャルガルサイハン・エンクサイハンNGO「ブルーバナー」代表、元モンゴル国連大使)

【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン

冷戦後、「平和の配当」は実現されなかった。ロシアと米国という二大核兵器保有国の保有数は減少したが、削減プロセスは完全に停止してしまっている。核兵器のさらなる近代化を背景に、核兵器保有国の数は倍増し、核兵器が使用されるハードルは引き下げられ、核兵器関連支出は増加した。さらに、核不拡散体制は徐々に弱体化している。

核拡散を減少させるうえで非核兵器国ができる貢献の一つに、非核兵器地帯の創設がある。非核兵器地帯は、核不拡散と信頼醸成を構築するうえで実践的な貢献をしてきたとみなされている。非核兵器地帯の主要な要素は、(1)特定の地域における域内諸国が、核兵器の取得や、自国領域への核兵器配備を認めないこと(2)検証体制に関する合意(3)ロシア・米国・中国・フランス・英国の五大核兵器国から安全の保証を得ること、である。

非核兵器地帯を正しく定義するという問題

核不拡散条約第7条は、加盟国の集団が非核兵器地帯を創設する権利について触れている。1960年代後半に、多くの非核兵器国を含む地域的なゾーン(地帯)を創設することをNPTの交渉者たちが促進しようとしたことは理解できる。

ラテンアメリカにおける最初の非核兵器地帯創設の経験をベースとして、また、それに促される形で、国連総会は1974年、世界のその他の地域においても非核兵器地帯の創設を促進するために「あらゆる側面における非核兵器地帯の問題について包括的に研究すること」を呼びかけた。政府専門家による特別グループが結成され、1975年には報告書を出した。この研究は、そのタイトルとは裏腹に、それまでの地域的な(非核兵器)地帯のみを対象としていた。

しかしながら、研究グループは、非旧来型(従来の非核地帯に含まれない国)があり得るケースも排除すべきでないという点も認識していた。実際、地理的位置や、政治的・法的理由から、個別の国家が旧来型の(非核兵器)地帯に加盟できない、ということがある。ここで問題となるのは、そうしたケースは国際法によって規制され保護されるべきか、ということだ。もしそうでないとしたら、我々が構築しようと取り組んでいる核兵器なき世界において、多くの盲点やグレーゾーンが存在するかもしれない、ということになってしまう。

このことを念頭に、先の報告書は、非核兵器地帯創設に関連した義務は、国家の集団や、大陸あるいは広範な地理的な地帯全体だけではなく、個別の国家によっても担われるものかもしれないと指摘している。

国連総会は、この報告書を検討したうえで、決議3472Bで非核兵器地帯の定義をしている。定義の範囲に関して、総会は、この定義は「非核兵器地帯の特定の事例に関して総会が過去に採択した、あるいは今後採択するかもしれない決議をいかなる意味においても損なうものではないし、そうした決議から生じる加盟国の権利を損なうものでもない」と断っている。この問題に関する見解の相違のために、決議は賛成82・反対10・棄権36で採択されており、この定義が世界的に支持されたわけではないことを示している。

非核兵器地帯に対するこうした地域的なアプローチを基盤として、ラテンアメリカ・カリブ地域、南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸全体中央アジアの5つの地帯で旧来型の非核兵器地帯が創設された。ここには118カ国が含まれ、世界の人口の4割と国連加盟国の6割が含まれる。これは、非核兵器地帯が核不拡散に対して成した実践的な貢献である。現在、紛争のある地域や、大国が地政学的な利益を持っている地域において地域的な非核兵器地帯を創設しようという第二世代型の試みが始まっている。具体的には、中東、北東アジア、南極である。

南太平洋や東南アジア、アフリカにおける非核兵器地帯創設の進展に促されて、国連総会は1997年1月、軍縮問題に関する検討と勧告を行う補助機関である国連軍縮委員会に対して、ガイドラインの策定を通じて非核兵器地帯のさらなる創設を促進する支援を行うよう求めた。

国連軍縮委員会は1999年、それぞれの非核兵器地帯は、問題となっている地域の特殊状況の産物であり、「非核兵器地帯の発展の現在の段階において一般的に認められている知見を完全に網羅したものではない」と強調するガイドラインを策定した。すなわち、非核兵器地帯の定義の問題はより広い観点から検討すべきであることがここで示唆されたわけである。

モンゴルの経験

冷戦の間、モンゴルは2つの超大国のうちの一方(=ソ連)の同盟国であり、その政治的影響下にあった。1969年の中ソ国境紛争後、ソ連は、中国の核施設に対する先制攻撃を意図していた時期があった。米国はソ連に対して、こうした行為は第三次世界大戦の引金になるという考えを伝えた。ソ連はおそらく、米国のこうした反応を見て一歩引いたと考えられる。

ソ連と中国に挟まれたモンゴルの主な教訓は、核兵器国と同盟を組み、その基地を受け入れることは信頼醸成につながらず、基地受け入れ国を正当な軍事的標的にしてしまうということだった。この教訓と、ロシアと中国が隣接する第三国の領土を互いの攻撃のために利用しないとした合意を念頭に、モンゴルは1992年、非核兵器地帯(すなわち、一国地帯)であることを宣言し、それ以降、その地位を国際的に容認させ、保証させるための努力を払ってきた。

政治的には、五大国は、平和的な姿勢であるとしてモンゴルの動きを歓迎したが、実際のところ、一国非核兵器地帯化という考え方の支持には後ろ向きであった。モンゴルは、自らの構想への支持を得るために、1997年に国連軍縮委員会に対して、一国非核兵器地帯創設の問題について検討し、新ガイドラインを策定することを求める提案を行い、これに関する作業文書を提出した。しかし、五大国は、このようなことをすれば望ましくない前例が作られ、新たな地域的非核兵器地帯を創設するインセンティブがなくなるとして、モンゴルの構想に支持を与えなかった。五大国の後ろ向きな姿勢のために、国連軍縮委はこの問題を検討する機会を奪われた。

モンゴルの問題に関する国連総会決議について協議した際にも、五大国はモンゴルに一国非核兵器地帯化を認めることに依然として後ろ向きであった。協議の後、彼らはモンゴル独自の非核兵器地位については認めたが、「地帯」を名乗ることは認めなかった。

Map of Mongolia

モンゴルは五大国と、専門家レベルや大使レベルの二国間で、さらに、五大国をひとつの集団とした三者間の枠組みで約20年間、協議と交渉を続けた。モンゴルがこの問題を多国間条約の形で処理することはないと認めたため、五大国は2012年、モンゴルの非核兵器地位を尊重し、それに違反する行為を慎むことを、モンゴルに対して、そして実際上はお互いに対して約束した共同声明に署名した。モンゴルの懸念に対処した重要なステップであったが、五大国は依然として、モンゴルを非核兵器「地帯」と認めることを拒絶した。

国連安保理の常任理事国である五大国は、国連憲章によって国際の平和と安全を維持する主たる責任を与えられている。その五大国に対して、国際の信頼と平和につながるような一国(非核)地帯を創設することと、核の盲点やグレーゾーンに核関連施設を設置することを認めてさらなる不信感を生むことのいずれか重要なのか選択を迫ることは、意味のあることだ。そしてその答えは明らかである。

一国非核兵器地帯のより広範な意義

一国(非核)地帯は、モンゴルにのみ関連した現象ではない。例えば、ネパールやアフガニスタンにこういった(非核)地帯を創設することもできる。従って、インドとパキスタンが1998年に事実上の核兵器国となった際、南アジアの一部の国がこの問題に関心を示したのである。たとえば、関連した問題を扱うために、11条から成る法案がバングラデシュ国会に提出された。スリランカでも、少なくとも学会でこの概念への関心が高まった。2016年、アイスランド議会は、同国とその排他的経済水域を非核兵器地帯と宣言した。核兵器禁止条約の発効に伴って、軍事・政治的同盟を組んでいる一部の締約国が、似たような状況にある国の動向に刺激されて、平時に核兵器の配備を認めることを違法化する決定を行うかもしれない。

国際法の欠陥は正さねばならない

一国非核兵器地帯化の承認を拒絶する五大国の姿勢は、国際法の発展に欠陥を生んでいる。こうした抜け穴が現実にもたらす法的効果について真剣に検討しなければならない。というのも、地域的な(非核)地帯がいかに有効であろうとも、結局のところ、核兵器なき世界は、その最も脆弱な部分と同程度しか機能しないからだ。非核兵器地帯でその99%が覆われている南半球の領域においてすら、実際のところそうなのである。

TPNW Treaty
TPNW Treaty

こうして、西太平洋においては、地域的(非核兵器)地帯の加盟国ではない小規模な島嶼国と、周囲に広い海洋空間を抱える非自治領域を、非核兵器世界の構築から排除すべきではない。南半球の他の領域に関しても同じことがいえる。

軍拡競争の激化に伴って、核保有国が、非核兵器国や非自治領域の領域を利用して、実際の核兵器とまではいかないにしても、監視や追跡、(ミサイルなどの)誘導やサイバー干渉のための装置や指揮管制システムの一部などを設置する誘惑をもつ可能性が排除できない。そうすることによって、時間と空間が、決定的とまでは言えないにしても、重要な軍事的要素になりつつある時代において、政治・軍事的なアドバンテージを取ろうとするのである。従って、五大国が、核兵器支援関連活動において非核兵器国を巻き込まないとする共同声明(より穏和な保証の形)を発する必要がある。

非核兵器地帯に関する新たな研究の必要性

上記で触れた状況は、非核兵器地帯の本質的な一部としての一国非核兵器地帯を承認する重要性を裏付けている。一国非核兵器地帯は、脆弱な部分となるのではなく、非核兵器地帯の可能性を限界まで押し広げるのである。

モンゴルは、2013年9月の「核軍縮に関するハイレベル会合」において、第二世代の非核兵器地帯に関する協議を行うのに有益だと考えられる、この40年間の国家慣行や豊かな経験、教訓を実践的に活用することによって、非核兵器地帯をあらゆる側面から再度包括的に研究することを提案した。この研究は、非核兵器地帯条約の基本枠組みにおいて、五大国が無条件で安全保証を与えるという問題について検討するものでなくてはならない。

この研究では、将来を見据えて、一国(非核兵器)地帯創設の問題について検討すべきだ。また、地域的な非核兵器地帯の加盟国でない非核兵器国に対して、国際法的に拘束力のある形ですべての非核兵器国に対する消極的安全保障が交渉され、合意されるまでの間、上で述べたより穏和な形の保証を与える可能性を検討すべきだ。要するに、現在の非核兵器地帯の慣行を超えた思考と行動が必要であるということだ。

非核兵器地帯とモンゴルに関する会議が今年のNPT再検討会議直前に開かれるが、これは、非核兵器地帯を強化し、平和とより大きな安全という大義に向けてその機能を地理的に拡大する機会を提供するものとなるだろう。この会議は、核不拡散体制の強化に対する非核兵器地帯の実践的な貢献となるはずだ。(原文へ) 

INPS Japan

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