ニュース「核なき世界」への疾走という課題

「核なき世界」への疾走という課題

【ワシントンDC・IDN=アーネスト・コレア】

核不拡散条約(NPT)の2010年運用検討会議の最後の数日、メディアでは暗い見出しが躍り、多くの識者は交渉は決裂に終わるだろうと考えていた。しかし、最終宣言が全会一致で可決された。意見対立の多い問題について一致を見たことは、核軍縮への道における重要な一里塚となった。

NPT運用検討会議は5年に一度開かれるが、前回は決裂に終わった。当時、決裂の原因は米国の前政権にあると多くの代表が非難した。

「NPT運用検討会議は、2005年のあとでもう一度失敗に終わることなどできなかった。核不拡散、核軍縮、原子力の平和利用というNPTの三本柱を強化する文書に合意したことは、(加盟総数190カ国のうち)出席した172カ国による素晴らしい努力の証左です。」とジャヤンタ・ダナパラ博士は語った。ダナパラ博士は「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の会長であり、1995年のNPT運用検討・延長会議では議長も務めた。

Jayantha Dhanapala/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Jayantha Dhanapala/ Photo by Katsuhiro Asagiri

 成果

ダナパラ博士は、「加盟国が『留意』する再検討部分と、全会一致で採択された『64の行動計画』からなる『結論と勧告』の部分に最終文書を分割する新しい方式は、未来のよい先例になるでしょう。」と付け加えた。

会議の成果は心強いものであり、「世界の新しい政治的リーダーシップと、市民社会組織によって媒介された世界の世論の強い潮流の結果として生まれたものです。『核兵器なき世界』という目標を早期に達成できるように、今後起きるであろう障害を乗り越えて、こういう協働作用を強めなくてはなりません。」とダナパラ博士は語った。

ダナパラ博士の見方では―そしてそれはいくつかの国の代表や識者も同意するところであるが―、会議の「最も重要な成果」は、「ようやく15年を経過して、中東に関する1995年の決議の履行に関する合意がなされたこと。」だという。パグウォッシュ会議は、運用検討会議の間、特にこの問題に焦点をあてたサイド・イベントを開いたり、各国政府代表に対する働きかけを行ったりして、努力をしてきた。

ダナパラ博士は、「中東非核兵器・非大量破壊兵器地帯を設立するための会議を2012年に開催すること、その会議のための準備を行い、会議後にも責任を持ち続けるファシリテーター(取りまとめ役)を任命することを決めたのは、重要な前進でした。また、この決議を履行するにあたって市民社会の果たす役割の重要性に文書で言及したことは、パグウォッシュ会議がこの任務を続けていく後押しになりました。」と語った。

軍縮

元国連事務次長(軍縮担当)でもあるダナパラ博士は、会議の結果について以下の点を指摘した。

「核軍縮に関する最適の結果は核兵器保有国による抵抗によって薄められてしまったが、全会一致で採択された行動計画は2000年運用検討会議の最終文書より前進している。」

「すべての加盟国は、『核兵器なき世界』という目標を達成するために、非可逆的で、検証可能、透明性のある政策を追求するという約束をし、核兵器保有国は、核兵器を完全に廃絶するという『明確な約束』(unequivocal undertaking)を履行するとした。」

「会議は、国連事務総長による核軍縮に向けた『5つの提案』に留意した。この提案の中には、核兵器禁止条約(NWC)の交渉も含まれている。また、核兵器国は、いくつかの問題に関連して、核軍縮に向けて早急にスピードアップすることを約束した。」

再確認

その他の主な合意は以下のようなものである。

包括的核実験禁止条約(CTBT)の重要性を再確認。会議は、核兵器の完全廃絶こそが、核兵器の使用(あるいはその威嚇)をさせない唯一の保証であることを認識。

・ロシアと米国は、4月に締結した核兵器削減条約の履行を促される。

・核拡散を防ぎ「密輸を探知・抑止・防止」する必要性をすべての加盟国に再確認させる。

・密輸への抑止になり、核テロリズムの問題に対処するための既存の協定にまだ署名していない加盟国は、早期に署名すべきこと。

・イスラエルがNPT体制に加入し、すべての核施設を国際原子力機関(IAEA)の監視下に置くことの重要性を再確認。

・NPT加盟国はIAEAに関連するすべての未解決問題を解決する義務があることを再確認。

リーダーシップ

第8回目のNPT運用検討会議はこうして閉幕した。この成功の上に将来的にどんな形で波風が立つことになるのかわからないものの、ダナパラ博士が指摘するように、会議の成果は、現在の政治的リーダーシップのなせる業であったことには疑いの余地はない。

会議のリブラン・カバクトゥラン議長(フィリピン国連大使)は、全会一致可能なラインで、かつ基本原則を犠牲にすることなく、十分な内容を持った合意を導き出すために、労力を惜しまなかった。

また、非同盟諸国(NAM)の指導者らもよく努力した。エジプトのマジド・アブドゥルアジズ国連大使はNAMを引っ張った。

しかし、おそらく最大の影響力を発揮したのは、会議に参加してはいなかったある指導者であろう。つまり、米国のバラク・オバマ大統領だ。彼は1年前、プラハで行った画期的な演説で『核兵器なき世界』というビジョンを聴衆に対して披露し、国際的な集まりにおいて公共政策に影響力を持ち続ける世論の流れを作り出した。

これは長続きしないかもしれない。たしかに、この国では、すでに反動が起きはじめている。だからこそ、ニューヨークで行われた、この前向きで歴史的でもある会議で表明された善意を実現するために、スピードこそが肝要になってくるのである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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