ニュース|気候変動|排出削減合意に向けて僅かな前進(ダーバン会合)

|気候変動|排出削減合意に向けて僅かな前進(ダーバン会合)

【ダーバンIPS=クリスティン・パリッツァ】

中国、南アフリカ、ブラジルの新興諸国は、南アフリカのダーバンで開催中の国連気候変動サミット(国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議:COP17)において、2020年からの法的拘束力がある温室効果ガスの削減義務を受け入れる可能性を示唆した。

気候変動の専門家は、3か国が法的拘束力がある義務を負う可能性を積極的に考慮すると表明したことは、たとえそれがすぐに効果をもたらすものでなかったとしても、今年の気候変動枠組交渉における主要な政治課題の一つの克服に向けた「大きな一歩」となる可能性があると見ている。

 しかしインドは引き続きそのような義務にコミットすることを拒否している。

欧州連合(EU)は先週、京都議定書が現在削減義務を課している先進国(議定書に批准していない世界第二位の排出国〈19%〉である米国を除く)だけではなく、南アフリカ、ブラジル、インド、中国の新興国(BASICグループ)を含む全ての主要排出国が、法的拘束力がある削減指標を担う協定に調印し2020年に発効させるという趣旨の「ロードマップ」を提案した。

BASIC諸国はいずれも様々な開発課題に直面しているが、同時に温室効果ガス排出の重要な排出元でもある。主な新興国とその他の開発途上国が排出する温室効果ガスの総量は54%と、既に全体の半分を上回っている(一方、京都議定書が削減を義務づけている先進国の総排出量は全体の27%にすぎない:IPSJ)。そして向こう20年で、新興国・発展途上国による排出量は、全体の3分の2に達すると推定されている。

194カ国が参加したCOP17は12月9日まで開催予定だが、新興国がこのEUロードマップに合意するかどうかという憶測でもちきりである。
 
11月28日に始まった今回の会合では、各国間の要求や期待の間にある深い溝が浮き彫りとなった。そうした中、中国(世界最大の排出国:22.3%)は、自主的に設定している排出削減目標が期限を迎える2020年以降について、法的拘束力を持つ地球温暖化対策枠組みに参加する意思表示を初めて行い、各国の注目を浴びた。中国は当初、EUロードマップはハードルが高すぎると主張していたが、今ではとりわけEUとの間に妥協点を模索し始めているようだ。

中国代表団の団長を務める解振華・国家発展改革委員会副主任は、「しかし中国の参加には前提条件があります。先進国は(2012年末に第一約束期間が切れる)京都議定書の第二約束期間に合意しなければなりません。そして(第二約束期間終了後)各国の約束実行・行動状況の評価を行い、その結果に基づいて中国は2020年以降の合意内容について交渉を開始する用意があります。」と語った。

中国は法的拘束力がある枠組みへの参加に関して、5つの前提条件を提示した。この中には、先進国による京都議定書と第二約束期間への合意のほか、途上国が気候変動問題に対処していくための300億ドルの早期資金と2020年までの毎年1000億ドルの長期資金の支援約束を実行に移すべきとの要求が含まれている。

また中国は、本会合でグリーン気候基金(GCF)の始動に合意すること、また、2009年のコペンハーゲン会合で合意され昨年のカンクン会合で気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCC)に組み込まれた一連の合意事項(技術移転、気候変動への適応、排出コミットメントを検証する新ルール等のイニシアチブ)を実行に移すよう求めている。

農業と生物多様性の分野で地球温暖化の深刻な被害に晒されている南アフリカとブラジルも、EUロードマップに関心を示した。

南アフリカのエドナ・モレワ水環境問題大臣は、「EUロードマップについては好意的に見ています。しかし、我が国は中国と同じく、法的拘束力をもついかなる合意に関しても、参加するかどうかを検討する際には前提条件を設けたい。」と語った。

南アフリカの次席交渉担当のXolisa Ngwadla氏は、「我が国は法的拘束力をもつ合意に向けて努力していきたい。我が国が国際舞台において可能な範囲内でいかに真剣に取り組もうとしているかは、UNFCCの第4条1項及び第2条の文脈の中で理解されているものと認識しています。」と語った。

UNFCCの第4条1項は、各国の国内総生産(GDP)規模に基づく「共通だが差異ある責任」に言及する一方で、第2条は、「生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような水準で大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」-つまり、気候変動による深刻な悪影響に晒されている国々にとって重要な点に言及している

「また我が国の将来におけるコミットメントは、先進国が今後、資金支援、技術移転、キャパシティビルディングにおいてどの程度実行するかを見て判断することとなります。」とNgwadla氏は付加えた。

一方南アフリカとは対照的に、ブラジルは、法的拘束力をもつ枠組みでも、それが科学的な根拠に基づく地球温暖化対策に有効なものであるならば、参加を検討するに当たり前提条件は設けないと語った。

ブラジルの首席交渉代表のルイス・アルベルト・フィグエイレド大使は、「我が国は今日にでも国際的に法的拘束力が伴う文書に合意する用意があります。しかし、それに値する文書がないのです。合意文書は、気候変動対策として科学的根拠に基づく有効なものでなければなりません。つまり我々は、採択そのものを目的とするような法的拘束力をもつ文書には同意できないのです。」と語った。

現在ブラジルは、国内で独自の排出削減目標を設定し法制化している。フィグエイレド大使は、こうした独自のコミットメントはいずれ深化させていかなければならないと指摘した上で、「我々はこうした試みをより積極的に打ち出していかなければならないと理解しています。こうした自主的な活動のみでは、通常、科学的根拠に基づく国際的な対応レベルには及ばないと考えています。ブラジルは将来における気候変動と戦う国際的な取り組みに積極的に参加して役割を果たす方針です。」と語った。

世界132カ国からなるG77/中国交渉ブロックの一員として、ブラジルはダーバン会合が12月9日に閉幕する前に京都議定書の第二約束期間を採択するよう後押しをしている。またブラジルは、途上国が気候変動に対応できるよう先進国が早期資金及び長期資金を支援するグリーン気候基金(GCF)の始動に同意するよう働きかけている。

BASIC4カ国の交渉団は、南南協力は経済的な側面のみならず、気候変動サミットにおいて決定をしていくためにも重要であること、そして新興国同士相互の立場を支持していくと繰り返し指摘している。

しかしBASICの4番目のメンバーであるインド(世界第4の排出国:4.9%)は他の3か国と足並みを揃えていないようだ。インドは法的拘束力を伴う排出削減枠組みへの署名は考えていないとしてEUロードマップにも反対の意思を繰り返し表明している。

インドは、2020年までにGDP 当たりの排出量を2005年比20%から25%削減するとしている独自の目標を実施することで十分との立場を表明している。インドの首席交渉代表のJ.M.マウスカール氏は、「一人当たりの二酸化炭素排出量が世界で最少レベルの我が国としては、さらなる厳しい排出制限目標は必要ないのです。インドは主要排出国ではないのですから。」と語った。

またマウスカール氏は、「インドは『相互保障』の部分について交渉する用意があります。カンクン合意における緩和プレッジでは、2020年までの途上国による自主的な削減行動プレッジの方が先進国による削減目標プレッジよりも絶対量で上回っていました。つまり途上国や新興国ではなく、先進国こそが自らのコミットメントについて一層の努力を行うべきなのです。」と語った。

インドは、工業先進国、とりわけ米国が温室効果ガス排出削減について明確なコミットメントをおこなっていない点について批判した。「我々は京都議定書の第二約束期間についてほとんど進展が見られていないことについて深く憂慮しています。」とムスカール氏は語った。

京都議定書締結国のロシア(世界第三の排出国:5.4%)は、南アフリカ、中国、ブラジル、インドとBRICS経済ブロックを形成しているが、(カナダ、日本と同様に)同議定書の第二約束期間の議論に関しては明白に拒否する意向を示している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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