【ニューヨークIDN=ロドニー・レイノルズ】
トランプ政権の政治が、単独行動主義と孤立主義という2つの傾向をますます強めている。
ドナルド・トランプ氏は、2016年11月の大統領選出後、195カ国が署名した2016年の歴史的なパリ(気候変動)協定からの離脱を表明した。署名国のなかで離脱を表明したのは米国が唯一だ。
さらに2017年には、国連安保理の5つの常任理事国(米国・英国・フランス・中国・ロシア)とドイツ、欧州連合(EU、28カ国)が署名した2015年のイラン核合意の存立を揺るがしかねない計画を、他の全ての署名国からの警告を無視して発表した。
最近の単独主義的行動は、イスラエルの首都を正式にエルサレムと認定するとともに、最終的には米国大使館を現在のテルアビブから論争の的となっているエルサレムに移転する意向を表明した12月6日の発表である。それまでにこうした行動に出たのは米国だけだ。
そして12月18日、米国は、イスラム協力機構(OIC、56のイスラム諸国とパレスチナ自治政府で構成)が策定しエジプトが提出した国連安保理決議案に拒否権を発動した。この決議案は、いかなる国もエルサレムに大使館を設置すべきではなく、エルサレムの最終的な地位はパレスチナ・イスラエル間の交渉により解決されるべきとの安保理の従来からの立場を再確認する内容であった。
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、拒否権行使に先立って行った声明の中で、「私はこの1年近く、国連で誇りある米国の代表をつとめてまいりました。安保理決議を拒否する米国の権利を発動するのは今回が初めてとなります。拒否権発動は、米国がめったに行うことではありません。これまで6年以上にわたって行使してきませんでした。私たちは喜んで拒否権を発動するのではありませんが、躊躇はありません。」と語った。
さらにヘイリー大使は、「この拒否権が米国の主権と、中東和平プロセスにおける米国の役割を守るために行使されたという事実に恥じる点はありません。むしろ、他の安保理理事国こそ恥じるべきです。」と付け加えた。
安保理を構成する15カ国のうち、米国以外の4常任理事国(英国・フランス・中国・ロシア)と非常任理事国10カ国が決議案に賛成したため、米国が国際社会、とりわけ国連においていかに孤立しているかが改めて浮き彫りとなった。今回の場合、それは14対1という票決に表れている。
米国の決定とヘイリー大使の発言に関して、アルシャバカ(パレスチナ政策ネットワーク)のナディア・ヒジャブ事務局長はIDNの取材に対して、「もしこれが深刻な問題でなかったなら、ニッキー・ヘイリー氏の発言はドタバタ喜劇のネタになっていただろう」と語った。
「どうして米国の主権が中東の解決策を擁護する必要があるのか? そして、トランプ大統領が国際法に違反してエルサレムをイスラエルの首都と認定することがどうしてその主権を守ることになるのか?」とヒジャブ氏は指摘した。
実際、今回の安保理での出来事により、パレスチナの土地の占領を合法化しようとするイスラエルの企図の最初のステップは妨げられることになった、とヒジャブ氏は付け加えた。
他の4常任理事国と、世界のすべての地域を代表した10非常任理事国は、イスラエルの植民地主義的な欲望を満たすために、戦争によって領土を取得することは認められないという国際システムの基礎を揺るがす用意はないことを示した、とヒジャブ氏は語った。
安保理常任理事国2カ国(英国・フランス)をドイツ・イタリア・スウェーデンの欧州5カ国が12月8日に発した共同声明はいくぶん婉曲的なものとの懸念があった、とヒジャブ氏は指摘した。
これらの国々は、国際法の意義を謳いながらも、トランプ大統領による(エルサレムの首都)認定を非難するのではなく、単に「同意できない」と述べるにとどまりました。しかも、二国家解決策へのコミットメントを指摘することで、そうした姿勢さえ軟化させました、とヒジャブ氏は語った。
米国の西側最大の同盟国である英国は、明確な立場を示した。
英国のマシュー・ライクロフト国連大使は各国の代表団に対して、「エルサレムの地位は、イスラエル・パレスチナ間の交渉によって解決されるべきであり、最終的にはイスラエルとパレスチナ両国家によって共有された首都とされるべきだ。」と語った。
ライクロフト国連大使はまた、過去の安保理決議を引用し、この同じ諸決議の線に沿って「私たちは、東エルサレムはパレスチナ占領地域の一部であると考える」と語った。
「過去にも述べたように、私たちは、最終的な地位に関する協定がなされる前にエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米大使館をエルサレムに移動させるという米国の単独決定に同意できない。この地域の最近の動きが示すように、安保理のすべての国々がコミットしている目的であるこの地域の和平の見通しにとって、こうした決定はマイナスに作用する。」
「英国の駐イスラエル大使館はテルアビブにあり、それを移設する計画はありません。」とライクロフト大使は言明した。
パレスチナのリヤド・マンスール国連代表(オブザーバー)は各国代表らに「米国が国際法を軽視し、将来の和平プロセスにおける自らの役割を傷つけたことは、理解しがたい」と語った。
マンスール氏は、東エルサレムが世界の大多数の国に承認されたパレスチナ国家の首都であることを確認し、すべての平和愛好的な国々に対して、この問題に関して法の支配に厳格に従い、イスラエルの移住政策を拒否するよう促した。
パレスチナの人々は占領を永続的な現実として決して受け入れることはないと述べ、「平和を望む者は違法な行為と措置を認めず、国際法に盛り込まれたパレスチナ人民の権利を認めるのみだ。」と指摘した。
12月13日のOIC緊急首脳会議でパレスチナ自治政府の代表が「パレスチナ・イスラエル間の将来の和平交渉で米国の役割を認めない。」と発言したのを受けて、中東カルテット(国連・米国・EU・ロシアで構成)の役割について尋ねられた国連のファルハン・ハク副報道官は、同日記者団に対して、「米国は今も中東カルテットの一員であり、カルテットは中東における二国家解決策の追求に関与し続けていきます。」と語った。
「私たちの関心事は、当事者同士が協議を継続する姿勢を保つようにすることです。国連はこの方針に沿って、独立の立場或いは中東カルテットを通じて、イスラエルとパレスチナを交渉のテーブルに戻せるよう努力を続けていきます。」とハク副報道官は付け加えた。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「私は常々、イスラエルとパレスチナの和平への道を脅かすようなあらゆる一方的措置には、一貫して反対してきた。」と語った。
グテーレス事務総長は、「エルサレムの帰属問題は、これまでの国連安保理と総会の関連決議を基礎として、パレスチナ・イスラエル両側の正当な懸念を考慮に入れたうえで、直接交渉で解決されなければならない。」と指摘したうえで、「私は、多くの人が何世紀にもわたってエルサレムを心のよりどころにしてきたし、今後もそうだということを理解しています。現在の非常に不安な情勢において、二国家共存案以外に代替案はないと明言したい。つまり、プランBは存在しません。」と語った。
「両国が平和的に付き合い、互いに認め合い、エルサレムをイスラエルとパレスチナの首都にしてこそ、交渉による最終地位問題の解決ができ、両国民の願いもかなうことができるのです。」とグテーレス事務総長は付け加えた。
アジアのある外交筋はIDNの取材に対して、エルサレムに関するトランプ大統領の「挑発的で危険な動き」は中東に暴力を誘発するのみならず紛争につながりかねない、と指摘した。
皮肉なことに、この挑発はグテーレス事務総長が「予防外交」を目指す中で起こっている。グテーレス事務総長は2017年9月に「調停に関するハイレベル諮問委員会」を任命して、今後の指針を求めているところだ。
ハイレベル諮問委員会の主な任務は、予防(外交)は治療(紛争後の平和維持)よりもはるかに望ましいとする長年の原則に則ったものだ。
同時に、グテーレス事務総長は、2030年までに17項目の持続可能な開発目標を達成しようと意気込んでいる。このうち、第16目標は、平和と正義の推進によって暴力的紛争を減らすことを目指したものだ。
国連は、一部の激しい武力紛争が数多くの民間の犠牲者を出してきたし、現在も犠牲者を生み続けている、と警告してきた。
しかし、効果的かつ民主的で包摂的な組織を伴った平和と正義の促進は、地域によっても、或いは地域内においても不均等なままに留まっている、と国連は指摘している。
エルサレムを巡る危機は、次の武力紛争の火種を生む可能性がある。(原文へ)
INPS Japan
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