【ウィーン/ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】
今年進んでいく潘基文国連事務総長の後継者指名プロセスは、歴史的な次元を帯びている。ノルウェーのトリグブ・リー氏が初代国連事務総長になった1946年以来、計7人がこの国連のトップとして安全保障理事会に指名され、国連総会によって追認されてきた。
しかし今年は、国連総会議長と安保理議長が12月15日付の画期的な共同書簡の中で、全ての国連加盟国に対して、「男性だけではなく女性も、事務総長職の候補として検討するよう」呼びかけたことから、史上初めて国連事務総長の指名プロセスが全ての国連加盟国に開放されることになるだろう。
「この変化は、国連総会加盟諸国と『70億人のための1人』キャンペーンによる圧力が功を奏したものです。」と、「核兵器なき世界」の達成に向けて国連に焦点をあてたイニチアチブや行動のための新たなプラットフォームであるUNFOLD ZEROは語った。
「70億人のための1人」キャンペーンは、世界各地の個人や、アムネスティ・インターナショナル、アヴァーズ、フォーラム・アジアなど750以上の団体から構成されており、合計で既に1.7億人が参画している。「コフィ・アナン前国連事務総長のような著名人をはじめ、私たちの目的を支持する政府も増え続けています。」と同キャンペーンは述べている。
国連高官やその他の専門家らは、国連の指導者を選出するプロセスのさらなる改革を目指して、声を上げている。
次の事務総長に関する重要問題を話し合うため1月18日にパリ政治学院で開かれた「青年・リーダーサミット」で、多くの国連専門家や政治家、NGO関係者らが、次期国連事務総長は、一期限り(おそらくは7年間)の任期にすべきとの「70億人のための1人」キャンペーンの提案に賛同した。
これは、国連総会と安保理の議長が共同の呼びかけを行ってから、次期国連事務総長を巡る重要問題について初めて行われたパネル・ディスカッションだった。
「70億人のための1人」キャンペーンは、「アラブ連盟のアムレ・ムーサ元事務局長が『国連事務総長を大国の圧力から解き放つことになる』任期一期限り・更新なしの方がよいと訴えた」と、この討論をまとめている。
アルジェリアの元外相で国連事務総長の特別代表でもあるラクダール・ブラヒミ氏もまた、新国連事務総長の任期を一期に限るという考え方と、「70億人のための1人」キャンペーンへの一般的な支持を表明した。
任期を一期に限る案への支持を表明している他の国連専門家には、マルティ・アハティサーリ氏(フィンランド元大統領、国連調停者、エルダーズのメンバー)、ジャン=マリー・ゲーノ氏(「国際危機グループ」会長、国連平和維持活動元代表)、ブーク・イェレミッチ氏(国連総会元議長、セルビア元外相、国連事務総長の候補の一人といわれる)、シャウカート・アジズ氏(パキスタン元首相)らがいる。
次の国連の指導者にはどのような資質が不可欠か、との「70億人のための1人」からの問いに答えて、パネリストらは、強国に対峙する勇気のある候補者が成功する、と述べた。この資質は、現在のところ、「70億人のための1人」キャンペーンによる世論調査でトップを走る回答である。
ジャン=マリー・ゲーノ氏によれば、次の事務総長に必要な主な資質は、「リスクを取ることを恐れない人物である」ということだ。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のブルーノ・スタグノ・ウガルテ氏もこれに賛同して、「(国連事務総長には)真実を語る勇気を持った人間が必要です。国連安保理に対して、安保理が聞きたいことではなく、聞かなくてはならないことを話せる人物を」と語った。
「70億人のための1人」キャンペーンは、ブラヒミ氏が、次の指導者は「明日職を辞しても構わない」と言える人物でなければならず、「国連は、それを牛耳る大国ではなく、それを必要とする小国のために存在している」と語った、とまとめている。
アンゲラ・ケイン国連元事務次長は、人道的危機の問題について国連安保理に注意を促すことを国連事務総長に認めた国連憲章99条を利用すべきだと示唆したと伝えられる。
パネリストらはまた、次の国連指導者は、国連における前向きな変化の媒介者にならねばならないと論じた。刺激を与え、ヴィジョンを示し、よいファシリテーターになる。紛争におけるすべての関連主体を関与させる意思を持ち、紛争の発生前にそれを見通す。そして、権力のない人々のために声を上げ、「政治的に有能」で、安保理で対立する利害の橋渡しをする、そのような人物が望まれている。
「70億人のための1人」キャンペーンのある代表は、パネリストに対して、主に個人の能力よりも、むしろ様々な地理的地域の間で事務総長ポストを回していく、いわゆる「地域ローテーション」方式についても尋ねた。
指名は能力に基づくものでなければならないという同キャンペーンの主張に沿って、ブーク・イェレミッチ氏は、今回の選出は、指名を狙っている東欧グループに限られるべきではないと語った。「個人的に言えば、私は、全世界にプロセスを広げるべきと考えています。全ての人にチャンスが与えられるべきで、指名は能力に基づくものでなくてはなりません。」
アンゲラ・ケイン氏は、地域によるグループ枠は、事務総長選出プロセスにおいては、「撤廃するか、無視すべきであり」、任務に「最適な候補者」を選ぶことに注力すべきだと語った。ケイン氏は、既にアフリカ出身者(=ブトロス・ブトロス・ガリ氏とコフィ・アナン氏)に15年も国連の舵取り役を任せてきたのだから、「私たちは既に、地域ローテーションを無視するという前例を作り上げています。」と語った。
「70億人のための1人」キャンペーンによれば、国連総会のモーエンス・リュッケトフトは、次の3人の候補者を正式に発表している。
スルジャン・ケリム:マケドニア出身。元外相、国連総会議長。現議長が12月15日に立候補を発表。
イゴール・ルクジッチ:モンテネグロ出身。副首相、外相。国連総会議長が1月15日に立候補を発表。
ヴェスナ・ピュジッチ:クロアチア出身。副首相、外相。国連総会議長が1月14日に立候補を発表。
「70億人のための1人」キャンペーンはこれに加えて、オンライン記事をもと他に24人の候補者がいることを明らかにしている。しかし、これらの人物の立候補は国連総会議長によって公的に承認されていないことから、「推測や伝聞の域を超えたものではない。」と同キャンペーンは述べている。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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