INPS Japan/ IPS UN Bureau Report危機に直面する国連、ニューヨークとジュネーブを離れて低コストの拠点を模索

危機に直面する国連、ニューヨークとジュネーブを離れて低コストの拠点を模索

【国連本部IPS=タリフ・ディーン】

米国では、ビジネスの成功や不動産の価値を左右する要因として、「ロケーション、ロケーション、ロケーション(立地がすべて)」という決まり文句がよく使われている。

現在、国連はシステム全体の構造改革を進める中、深刻な資金難に直面しており、主要な議題の一つとして国連機関の再配置が交渉のテーブルに上っている。高コストの拠点にとどまるのか、より安価な勤務地に移転するのかが問われている。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

国連の二大拠点であるニューヨークとジュネーブは、「世界で最も物価の高い都市」とされており、現在の予算内での運営が困難となっている。

ニューヨークには、国連本部のほか、国連開発計画(UNDP)、国連人口基金(UNFPA)、UNウィメン、国連児童基金(UNICEF)など複数の国連機関が拠点を置いている。

一方、ジュネーブは「世界外交の中心地」とされ、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)、国際労働機関(ILO)、国際移住機関(IOM)、世界知的所有権機関(WIPO)、世界気象機関(WMO)など、40を超える国際機関・国連機関が集積している。

こうした中、国連がジュネーブから一部撤退する可能性が報じられると、スイス政府は「ジュネーブにおける国連の存在を支えるための寛大な財政支援パッケージ」を発表した。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は「スイス連邦評議会の決定に非常に感謝している。スイスとの連携により、多国間主義の推進に引き続き取り組む」と述べた。

また、「ジュネーブにおける国連の存在は、国連システムの不可欠な一部である。スイスの支援は、この継続的な取り組みにとって極めて重要である」と語った。

ロイターによれば、スイスは2025年から2029年にかけて、ジュネーブを国際外交の拠点として維持するために、2億6900万スイスフラン(約3億2937万ドル)を支出する計画である。

このうち1億3040万フランについては、年内に議会の承認を求める予定で、前回期間から5%の増額となっている。政府はすでに2150万フランを「ジュネーブ拠点の国際機関への緊急支援」として承認済みである。

U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo
U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo

ステファン・デュジャリック国連報道官は記者団に対し、「スイス政府の寛大な支援を歓迎する。ジュネーブにおける国連の存在は極めて重要であり、歴史的な意味もある」と述べた。

元国連エイズ合同計画(UNAIDS)代表で、かつてニューヨークの国連に勤務していたソマー・ウィジャヤダサ氏は「この措置は確かに寛大だが、スイス政府にとって年約6000万ドルの支出は“微々たるもの”である。ジュネーブに拠点を置く40の国連機関がスイスにもたらす経済的貢献は計り知れない」と指摘している。

国連は「UN80」構想に基づき、全機関の官僚機構を監査し、重複を統合する中で、一部のプログラムを運営コストの低い地域へ移転することを模索している。

例えば、UNAIDS(国連エイズ合同計画)は、1995年にエイズ・パンデミックの最中に創設され、当時330万人がHIVに感染し、100万人近くが死亡していたが、現在ではHIV/AIDSは治療可能な病気として管理されている。

ウィジャヤダサ氏は「UNAIDSはWHOと再統合され、運営コストの低いグローバル・サウスの国々に拠点を置くべきである。これらの国では依然としてHIVの行動的感染の課題が深刻であり、より地域に根ざした啓発活動に焦点を当てた軽量なプログラムが有効である」と述べた。

また、ニューヨークとジュネーブに分かれて存在する国連軍縮局(UNODA)も例に挙げた。国連は米国、ロシア、インド、中国などの年間軍事予算の増加を抑えることができておらず、軍縮に失敗している。

たとえば、国連は核兵器禁止条約(TPNW)という法的拘束力のある条約を採択したが、核兵器を放棄した国はなく、核武装を目指す国も存在する。

ウィジャヤダサ氏は「現代の通信技術をもってすれば、ニューヨークやジュネーブにある高コストの部局を維持する必要はない。開発途上国に拠点を移しても、効率的かつ効果的に業務を遂行できるはずだ」と主張した。

一方、国連の再配置計画の一環として、UNFPA(国連人口基金)とUNウィメンをニューヨークからケニアのナイロビへ移転する案も浮上している。ナイロビはグローバル・サウスで唯一の主要な国連本部であり、第4の国連拠点とされている。

UN Office in Nairobi photo credit: UN News
UN Office in Nairobi photo credit: UN News

ナイロビには、国連環境計画(UNEP)、国連人間居住計画(UN-Habitat)の本部があり、その他にもUNICEF、UNDP、FAO、UNIDO、UNODC、UNV、WHOなど多くの国連機関が活動している。

しかし、現在のケニアは政治的危機に見舞われており、混乱が続けば、さらなる国連機関のナイロビ移転に慎重になる可能性がある。

『ニューヨーク・タイムズ』2025年6月26日付の記事「ケニア人、致命的な税制抗議から1年後に再び警察と衝突」によると、少なくとも8人が死亡し、数百人が負傷したとされており、「ウィリアム・ルト大統領政権に対する国民の怒りが露わになった」と報じている。

同日、国連人権高等弁務官事務所は「ケニアでのデモにおいて複数の死者および多数の負傷者が出ているとの報告を深く憂慮している」と声明を発表した。

「一部のデモ参加者に銃創が確認されている。国際人権法において、法執行機関による致死的武力の使用は、生命の保護または切迫した危険の回避が必要な場合に限られるべきである」と述べている。

ステファン・デュジャリック報道官も6月26日、記者団に対し「ケニアでの暴力に深く懸念を抱いており、状況を注視している。命が失われたことに悲しみを感じる。独立かつ透明性のある調査が行われることを期待する」と語った。

ヨーロッパにおいて国連機関をホストしている国々は以下のとおりである:

  • オーストリア(ウィーン):国連ウィーン事務局(UNOV)、国際原子力機関(IAEA)、国連工業開発機関(UNIDO)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)
  • オランダ(ハーグ):国際司法裁判所(ICJ)
  • フランス(パリ):国連教育科学文化機関(UNESCO)
  • イタリア(ローマ):国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)/ブリンディジ:国連グローバルサービスセンター(UNGSC)、国連人道支援備蓄庫
  • ドイツ(ボン):国連砂漠化対処条約(UNCCD)事務局、国連ボランティア計画(UNV)、国連防災機関(UNDRR)
  • デンマーク(コペンハーゲン):国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)
  • イギリス(ロンドン):国際海事機関(IMO)
  • スペイン(マドリード):世界観光機関(UN Tourism)
  • ベルギー(ブリュッセル):国連地域情報センター(UNRIC)、人権高等弁務官事務所欧州地域事務所、国連人道問題調整事務所(OCHA)リエゾン事務所

また、ナイロビ以外で国連が移転先として検討している都市には、カタールのドーハ、ルワンダのキガリ、スペインのバレンシアが含まれている。(原文へ

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