SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)「混迷する世界」で民主主義を守るために

「混迷する世界」で民主主義を守るために

【バンコクIPS=ゾフィーン・エブラヒム】

いま、世界は暗い時代を迎えている。市民社会の活動家たちは、暗殺、投獄、でっち上げの罪状、そして資金削減と闘いながら、格差、気候の混乱、権威主義の台頭に覆われた世界の中で民主主義を守ろうとしている。
しかし、バンコクのタマサート大学に満ちた空気は決して絶望的ではなかった。

1976年、民主化を求める学生たちが残虐に弾圧されたあの事件の舞台となったこの大学は、市民社会にとって「聖地」とも言える場所である。そこに再び、「混乱した世界(topsy-turvy world)」で民主主義を守ろうと呼びかける声が響いた。市民社会組織CIVICUSのマンディープ・ティワナ事務総長は、「権威主義が台頭するこの世界においても、市民空間を守る闘いは続いている」と語った。

アジア民主主義ネットワークのイチャル・スプリアディ事務総長は「この声を響かせよう。民主主義は共に守らねばならない」と訴え、「権威主義に立ち向かうのは、私たちの『連帯の力』だ」と強調した。

希望に満ちた会場の雰囲気の中でも、対話の多くは厳しい現実を見据えていた。アジア文化発展フォーラムおよび平和文化財団のゴトム・アリア博士は、「世界各地で市民の自由が制限されている」と警鐘を鳴らした。
彼は軍事費の膨張を引き合いに出し、世界の優先順位がいかに歪んでいるかを指摘した。「米国の国防総省は、むしろ『戦争省』と呼ぶべきだ」と述べ、米国の軍事予算が9680億ドルに上る一方、中国は300億ドルにすぎないと比較した。さらに「ウクライナ戦争への支出はわずか3年で10倍に増えた」と指摘し、「平和と戦争の現状はこの数字が物語っている」と沈痛な面持ちで語った。

Ichal Supriadi, Secretary General, Asian Democracy Network. Credit: Civicus

別のセッションでは、世界の権力構造への批判が展開された。フィリピンの元上院議員で平和活動家のウォルデン・ベロー氏は、トランプ政権下の米国が「自由市場」の仮面を完全に捨て、「あからさまな独占的覇権」に転じたと断じた。「アメリカの帝国主義は、もはや偽装をやめ、世界に自国の意のままに従うよう公然と要求している」と彼は述べた。

Dr. Gothom Arya of the Asian Cultural Forum on Development and the Peace and Culture Foundation. Credit: Civicus

パキスタンの物理学者で作家のペルヴェズ・フッドボーイ博士も、自国政府への怒りを隠さなかった。パキスタンが「精神異常者で、虚言癖があり、好戦的な人物」をノーベル平和賞に推薦したことを痛烈に批判し、「国民の同意もなく、米国の独裁者に鉱物資源を売り渡す権利など政府にはない」と糾弾した。

また彼は、核保有国であるインドとパキスタンが再び衝突の縁に立たされているとして、国際社会に和平交渉の再開を呼びかけた。

アリア博士は議論を人道危機に戻した。ガザでの民間人の犠牲、スーダンでの戦闘による飢餓の拡大、そして気候行動の遅れがもたらす格差の悪化—。「10年前に大国がパリ協定の履行を拒んだために、いま世界はその代償を払っている」と彼は警告した。

その現実をさらに痛切に訴えたのが、パレスチナの医師で政治家のムスタファ・バルグーティ博士だった。彼は、米国製の兵器を使ったイスラエルの攻撃により、ガザの人口の推定12%が殺され、すべての病院と大学が破壊され、約1万人の遺体が瓦礫の下に埋もれていると語った。

それでも、会議が示したのは市民社会の底力だった。
渡航禁止やビザの壁を越え、75以上の団体から約1000人がタマサート大学に集い、120以上のセッションで戦略と希望を共有した。その中には、アフガニスタンから唯一参加したとみられる団体「ハムラー」の代表もいた。

「世界がアフガニスタンから目を背けている今こそ、私たちが存在し続けていることを示すことが重要だ」と、ハムラー・イニシアチブ共同設立者でプログラム・ディレクターのティモール・シャラン氏はIPSの取材に対して語った。「アフガンの市民社会は消えていない。闘い続け、最前線を守っているのだ。」

彼によれば、同団体は秘密またはオンラインで学校を運営し、虐待を記録し、タリバン支配下で声を奪われた人々の発信を続けているという。「私たちの参加は、レジリエンス(回復力)の証であり、連帯への呼びかけでもある」と語った。

インドネシア出身でLGBTQ+の権利擁護者、リスカ・カロリナ氏(ASEAN SOGIE コーカス所属)はこう指摘した。「『見えること』が大切。でも、もっと強いのは『共に見えること』です。」「この会議は、ダリット(被差別民)、先住民族、フェミニスト、障害者、クィアといった、普段は交わることの少ない運動を一堂に集め、交差的な民主主義(intersectional democracy)の形をつくる特別な場でした」と語った。

彼女の活動は、東南アジアの政治・人権枠組み、とりわけ性的多様性の承認に慎重なASEAN制度内で、LGBTQIA+の権利を推進することに焦点を当てている。

「SOGIESC(性的指向、性自認・表現、身体的性の特徴)を“特殊な問題”ではなく、民主主義、統治、人権の中核として位置づけることが重要です。そのために政府、市民社会、地域機構のすべてと関わり、クィアの人々の参加、安全、尊厳を民主主義の尺度に含める必要があるのです。」

彼女はさらに、「ICSW(国際市民社会ウィーク)は、市民空間、民主主義、クィア解放が不可分であることを可視化する場となった」と述べ、「民主主義とは選挙のことだけではなく、誰が自由に生き、誰が法や偏見によって沈黙させられているか、ということでもある」と強調した。

一方、会場の外では、市民社会のリーダーたちが率直な対話の場を設け、縮小する行動空間の中で自らの役割を省みた。「対話の中では、厳しくも必要な問いが投げかけられた」とある参加者は言う。

「私たちは直面する課題の深刻さを本当に理解しているか? 対応は十分か? 反権利勢力が私たちの価値観を尊重することを期待していないか? 受け身になっていないか? 正義のために命を懸ける人々の“同盟者”なのか、“共犯者”なのか?」

しかし、一つだけ全員が共有した確信があった。―それは、市民社会は分断されず、団結して民主主義を守らなければならない、ということである。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

関連記事:

外国エージェント法―市民社会を抑圧する新たな権威主義の武器

2025年の市民社会の潮流:9つの世界的課題と1つの希望の光

国連の未来サミットに向けて変革を求める青年達が結集

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken