【オークランド(カリフォルニア)IDN=ジャクリーン・カバッソ】
2022年は、核軍縮にとって悪夢のような年だった。この年は、私たちに多少の安心感を与えた1月3日の核保有5カ国の共同声明から始まった。声明は、「中華人民共和国、フランス共和国、ロシア連邦、グレートブリテン及びアイルランド連合王国、アメリカ合衆国は、核兵器国間での戦争の回避と戦略的リスクの低減が我々の最大の責務であると考える。我々は、核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならないことを確認する。」と宣言している。
しかし、2カ月も経たないうちにロシアはウクライナに対する残虐な侵略戦争を開始した。核使用の威嚇が陰に陽になされ、核戦争の危険性に対する懸念は冷戦期の最も暗い時代以来最も高いレベルになっている。そして、核軍縮の進展の見込みはそこから下降していった。
1月3日の共同声明はこうも誓約している。「我々は、『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき[中略]誠実に交渉を行うこと』とした第6条を含む、核不拡散条約(NPT)を守り続ける」。
しかし、NPT発効から50年以上を経てもなお、核兵器国の行動は真逆を向いている。NPT外で核を保有する4カ国(インド・イスラエル・パキスタン・北朝鮮)を含むすべての核保有国は、核戦力を質的に強化し、一部には量的にも増大させる高価な計画を実行している。
8月に開催された第10回NPT再検討会議は明らかに失敗であった。これは、最終文書への合意できなかったというよりは、核兵器国がNPT第6条の核軍縮義務に従わず、1995年の条約無期限延長と2000年・2010年の最終文書に関連して合意した核軍縮につながる行動計画への誓約にも反していたからだ。
軍事的対立を回避し、安定性と予測可能性を強化し、相互理解と信頼を高め、誰をも益せず、すべてを危険にさらす軍拡競争を防ぐために、二国間および多国間の外交的アプローチを引き続き追求するつもりである」という共同声明の心強い文言にもかかわらず、その実、新たな核軍拡競争が起こっている。攻撃的なサイバー能力や人工知能、超音速技術、中距離運搬システムへの回帰、通常弾頭・核弾頭の双方を搭載可能な運搬システムの生産によって、状況はさらに複雑さを増している。
9月から10月にかけて、米国の中間選挙結果やウクライナにおけるロシアの核の恫喝に注目が集まる中、朝鮮半島では北朝鮮が相次いでミサイル実験を行い、憂慮すべき事態が発生していた。
北朝鮮の国営通信によると、一連の実験は、米韓による大規模な海軍演習に対する警告として、韓国を戦術核で攻撃するとのシナリオの下、なされたという。
1年が終わろうとしているが、イランとの原子力協定再開に関する協議は停滞している。イランがウラン濃縮を進める中、サウジアラビア外相は「もしイランが作戦使用可能な核兵器を取得したら、すべては一変する。」と宣言した。
この混乱した状況の中、ロシアのウクライナ侵攻から10カ月が経ち、ジョー・バイデン政権は核戦略の指針を示す「核態勢見直し(NPR)」を作成した。米国の国家安全保障政策において核抑止及び核兵器使用の威嚇が中核的存在であることを改めて確認した形だ。
NPRは、ロシアと中国を戦略的競争相手かつ潜在的敵対者と規定し、北朝鮮とイランをより程度の低い潜在的敵対者とみなした。こうした評価は火に油を注ぐようなものだと理解される可能性もある。「軍備管理の再重視」を口実にしながら、実際には「当面の間、核兵器は米国の軍事力の他の要素では代替できない独自の抑止効果を提供し続ける。」と宣言している。そのために「米国は、核戦力や核の指揮・統制・通信(NC3)システム、生産・支援インフラを改修し続ける。」としている。
米上院が12月15日に可決した国防授権法に盛り込まれた8580億ドルという膨大な予算によって、この方針は裏づけられている。ここでは、NPRが求めた額よりも多い500億ドルが核兵器関連に割り当てられている。
核軍縮の現状は、軍需企業「ノースロップ・グラマン」がカリフォルニアの本社で12月3日に華々しく公開された爆撃機B-21「レイダー」に象徴されるかもしれない。第6世代と呼ばれるB-21は、核弾頭と通常弾の両方を搭載できる30年以上ぶりの新型戦略爆撃機である。
最新のステルス技術を導入し、世界中に展開する。初期の計画では無人化のオプションも含まれていた。B-21はB-1BとB-2A爆撃機に取って代わり、核兵器を格納できる米国内の戦略爆撃機基地は、現在の2カ所から2030年代半ばまでに5カ所に増やされる予定である。といった具合である。
核保有国とその同盟国の政府は、軍事力による国家安全保障の概念を強化することで、何が何でも人類を破滅への道へと導いているのである。
世界中の人々が非暴力で立ち上がり、人間のニーズを満たし環境を保護することを最優先とする政府間の協力に基づく、これまでと異なる安全保障概念の実現を要求すべきだ。(原文へ)
INPS Japan
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