【国連IDN=タリフ・ディーン】
もはや3カ月目に突入しようとしているウクライナでの破滅的な戦争では、「核のオプション」の脅威が何度も叫ばれている。
2月24日にロシアのウクライナ侵攻で始まったこの戦争は、世界の主要な核保有国の一つと、隣接する非核保有国との間で起こっている。
最近では、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が4月25日、核紛争の可能性を「過小評価されるべきではない」と暗に脅しをかけている。「誰もが、『第三次世界大戦は容認しない』という呪文を唱えているが、その危険性は重大であり、実在します。」とラブロフ外相はロシアのテレビ番組のインタビューで語ったという。
ウクライナ危機は、国連憲章に規定されている「国際の平和と安全」を守る国連の能力には限界があることを白日の下に晒した。
4月26日に国連のアントニオ・グテーレス事務総長がモスクワでウラジーミル・プーチン大統領と1対1で会談したにもかかわらず、国連は危機を収束させることができず、停戦交渉にすら協力できなかったとして、激しい非難を浴びている。
これらの展開をみるに、関連する疑問が叫ばれている。すなわち、数多くの決議や国際会議で繰り返されてきた「核兵器のない世界」を国連は本当にもたらすことができるのだろうか、という問いだ。
ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)公共政策国際問題大学校リュー記念国際問題研究所の所長で、軍縮・グローバル・人間安全保障問題の責任者を務めるM・V・ラマナ教授はIDNに対して、「決議や会議がいくらあっても国連自体が非核兵器世界を実現できるわけではない。」との見方を示した。
ラマナ教授は、「しかし国連は、この目的に関心を持つ世界各国が集い、その集合的な意思を示す場を提供することはできます。」と指摘したうえで、「ただ、そうした国々自体は、国連で集団を形成したとしても、米国やロシア、中国のような大国に対して核兵器を放棄させることができないかもしれません。」と語った。
また、「これらの国々の内部の社会運動と手を結ぶ必要があります。もちろん、現時点ではそうした運動は弱いし、政策変化をもたらしうる可能性は極めて低いでしょう。しかし、私たちに選択肢はありません。現在の核の現状の継続、あるいはさらに悪いことに軍拡競争は、ほぼ間違いなく大惨事に終わります。」と警告した。
「ノルウェー・ピープルズ・エイド」のヘンリエッテ・ウェストリン事務局長は、「ウクライナでの戦争とプーチンの核使用の脅しは、一部の国家が大規模かつ無差別な核の暴力によって自分たちの安全を守らなければならないと主張する世界に住むことの重大な危険性を、またしてもはっきりと思い起こさせるものである。」と語った。
「私たちは、核抑止力による安定化効果よりも、むしろ運を信頼することになったのだ。使用可能な核兵器が世界で増加していることは極めて憂慮すべき事態です。」と、今年4月11日に年次核兵器禁止モニター報告書を発表したウェストリン事務局長は語った。
米国の戦争と軍事主義の廃絶を目指して活動する女性主導の草の根組織「コードピンク」のメディア・ベンジャミン氏は、IDNの取材に対して、「国連が戦争を止められなかったのは今回が初めてではない。」と語った。
「しかし、ウクライナでの戦争は実際に核戦争の危険性を人々に強く意識させることになりました。特に若い世代は、私たちが目の当たりにしているような差し迫った危険性とともに育ってきてはいないため、その傾向が強い。若い人たちのこの感覚から運動を作り上げていくべきです。」
核兵器禁止条約によれば、「核兵器はいまや非合法であり、核保有国を条約に加入させるように努力を続けなければなりません。」とベンジャミン氏は語った。
ベンジャミン氏はまた、「まずすべきことは、ウクライナでの戦争を、核の対立を引き起こすことなく、また米国のイラクやアフガニスタンでの戦争のように何年も引き延ばすことなく、終わらせることです。一方で、この時間を使って、核戦争が私たちの生存に与える脅威について人々を教育し、核兵器禁止条約への支持を広げる機会とすべきです。」と語った。
ベンジャミン氏は、核軍縮は、失われた大義を取り戻すための良い試みであるかとの問いに対して、「失われた大義とは、ロシアと米国の間の核の対立のことです。この地球の将来がかかっているのだから、核兵器なき世界を目指すのは私たちの義務です。」と語った。
オーストラリア国立大学名誉教授で戸田平和研究所の上級研究員であるラメッシュ・タクール博士は、「第一に、国連に関してよく持たれている誤解がある」とIDNに語った。
「2003年の米国と英国のイラク攻撃、現在のロシアのウクライナ攻撃など、そもそも国連は大国(P5)による小国への侵略を阻止できるようにはできていません。国連はむしろ、大国間の大規模な戦争を回避することによって平和を保つことに最も重きを置いているのです。」
「拒否権条項はこの両方の目的を満たすためのものです。」「このことは、偏向した西側メディアがほとんど無視している重要な要素を示唆しています。本当の意味で、ウクライナ戦争はロシアとNATOの代理戦争であり、米国とNATOはその責任を共有しています。」と、タクール氏は語った。
例えば、オーストラリアのスコット・モリソン首相は最近、中国軍がソロモン諸島に軍事基地を置くことになれば、一線を越えたとみなすと発言した。バイデン政権のインド太平洋調整官兼大統領副補佐官(国家安全保障担当)のカート・キャンベル氏がソロモン諸島の首相と会談した直後に出されたホワイトハウスの声明は、米国は重大な懸念を持っており、もし中国軍がソロモン諸島に基地を置くことになれば、しかるべき対応を取ると述べている。
「ソロモン諸島はオーストラリアの北側海岸から2000キロ離れている。ロシアとウクライナは国境を接しており、キエフはモスクワから800キロの距離に位置している。しかし、米国は、NATOの継続的な東方拡大をロシアが『一線を越えたもの』とみなすことを一貫して認めていない。」と、タクール氏は指摘した。
第二に、核の問題については「問題はあなたが考えるほど明確な形を取っていない」とタクール氏は語った(同氏の近著に『核兵器禁止条約:グローバル核秩序の変革的再定義』、ラウトリッジ社、2022年がある)。
タクール氏によれば、核兵器の問題は3つの観点から論じることが可能だという。第一に、核兵器の役割を強調し、欧州と太平洋の一部の米同盟国がNATO及び米国と核共有協定に入りたいとの関心を高めるとすれば、核軍縮の大義は押し戻され、厳しい地政学の時代が戻ってくることになる。
第二に、それとは逆に、今回の危機は、核兵器の存在そのものによる脅威に対して何らかの対処がなされねばならないとの重要性を浮き彫りにしている。現在は核軍縮を追求するには適切な時期ではないと問題を無限に先送りするという態度とは対極にある。
第三に、ウクライナ危機に照らせば、核兵器の危険を減ずるための信頼性があり実践的な措置に向けた努力を行うのではなく、NPTと核兵器禁止条約の間、あるいは、核軍備管理派と核軍縮派との間の事実上の内戦を、国際社会は今後も続ける余裕があるのか、とタクール氏は問いかけた。
一方、『核兵器禁止モニター』の最新の数字によると、2022年初頭、9つの核保有国の核弾頭は合わせて12705個であった。
そのうち推定9440発(その合計の爆発力は広島型原爆の13万8000発分)が、ミサイルや航空機、潜水艦、艦船に搭載して使用可能な備蓄になっているという。
『核兵器禁止モニター』は、使用可能な核弾頭の数は増加傾向にあると警告している。
この9440発の核兵器に加えて、2022年初めの時点で、ロシア・英国・米国において3265発の退役済み核弾頭が解体を待っている状態であるという。(原文へ)
INPS Japan
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