【国連IDN=タリフ・ディーン】
エジプトのブトロス・ブトロス=ガリ外相が1991年末の国連事務総長選挙に立候補したとき、彼は当時ジンバブエの外相だったバーナード・チゼロ候補と指名を争わなければならなかった。
選挙戦が激化する中、ブトロス=ガリ氏は、長年の友人であったチゼロ氏と、アフリカで開かれたある会議で短期間会話した時のことを語った。当時、国連の地理的輪番制に従って、次期国連事務総長はアフリカ出身者が指名されることとなっていた。
英語圏のジンバブエ出身で、英国と英連邦の54ヶ国(元英国植民地の多くからなる)から支持を受けていたチゼロ氏は、ブトロス・ガリ氏と会話している最中に突然、英語からフランス語に切り替えた。
微妙なメッセージを感じ取ったブトロス・ガリ氏は、チゼロ氏の肩に腕を回して冗談交じりに「バーナード、もしフランスの承認が欲しいのなら、フランス語だけでなく、英語をフランス語訛りで話さなければならないよ。」と語った。
拒否権を行使する安保理常任理事国であるフランスは、自国の言語を熱心に保護しており、フランス語を話さない候補者には拒否権を行使した可能性がある。
そして、国連事務総長を目指す者は、フランス語の実用的な知識がなければ、あるいは少なくとも、いずれフランス語をマスターすることを約束しなければ、当選を期待することはできない。なぜなら、フランスは自国語を「国際外交の言語」とみなしているからだ。
過去78年間、国連の2つの作業言語は主に英語とフランス語であったが、国連が認識する公用語は他にも中国語、アラビア語、スペイン語、ロシア語がある。
加盟国193カ国からなる国連は、39階建ての事務局で数百の言語や方言に堪能な外交官、職員、ジャーナリストたちが働く環境を提供している、数少ない国際的な多言語組織のひとつである。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、この事務局は「600の言語が話される都市」ニューヨーク市に本部を置いている。
ウィキペディアによると、多言語主義とは、個々の話者または話者のグループによって、複数の言語を使用することである。世界の人口において、多言語話者は単言語話者よりも多いと考えられている。
元ポルトガル首相のアントニオ・グテーレス現国連事務総長は、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語の4つの言語に堪能な最初の、そしておそらく唯一の国連総長のひとりである。
その次にランクされるのが、英語、アラビア語、フランス語に堪能なブトロス・ブトロス=ガリ元国連事務総長だろう。ブトロス・ガリ氏は記者団とのブリーフィングで言語の堪能さについて質問された際、冗談めかして、「私の母国語はアラビア語です。なぜなら、妻と喧嘩するときはアラビア語で喧嘩するからです」と答えたという。
国連は毎年2月21日の「国際母語デー」を記念して、言語的文化的多様性と多言語主義を推進している。
7月7日、国連は「スワヒリ語デー」を記念した。スワヒリ語はキスワヒリ語という現地名でも知られ、主にケニア、タンザニア、モザンビークに住むスワヒリ族の母国語である。
現在の国連総会議長(PGA)であるハンガリーのチャバ・コロシ氏は、ハンガリー語に加えて英語、フランス語、アラビア語、ロシア語に堪能でおそらく5つの言語をこなす数少ないあるいは唯一の総会議長である。
コロシ議長は時折、四つの言語で代表団に対して演説することがあり、その際自在に言語を切り替えている。
「国連では多言語主義を重視しています。これは193の加盟国の本部であるため、論理的な決定です。できるだけ多くの言語を使用し、使用を尊重しています。国連で他の言語を話すことは非常に助けになることがあることを皆さんもご存知でしょう。時には単なる友好的なジェスチャーに思えるかもしれませんが、信頼を取り戻すための突破口になることもあります。」とコロシ議長は先月代表団に語りかけた。
コロシ議長はまた、国連ニュースサービスのキスワヒリ語部門とグローバルコミュニケーション部の他のキスワヒリ語部門の努力を称賛した。
「80億人の人々に手を差し伸べるためには、もっともっと多くのことをしなければならない。私たちが何をしているのかを知ってもらい、ここでもっと何をすべきかを彼らから聞かなければならない。そのためには、彼らがよく理解している言語でのやり取りが必要です。」とコロシ議長は語った。
一方、AIチャットボットによると、世界で6000から7000の言語が話されている。
「しかし、この数は、言語と方言をどのように定義するか、また、それぞれの言語の話者をどのように数えるかで変わってくる。また、政治的、文化的な理由から、別の言語と見なされているものもある。また、母国語よりも第二言語や外国語の方が話者数が多い言語もある。」(原文へ)
この記事は、タリフ・ディーン氏(国際通信社インタープレスサービス北米理事・国連総局顧問)が2021年に出版した国連に関する著書「コメントはありません、それについては引用しないでください」から抜粋したもの。
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