―ロベルト・サビオ氏が語る「相互依存する世界」と市民の責任ー
【ローマINPS Japan=浅霧勝浩】
国際通信社インタープレスサービス(IPS)の創設者ロベルト・サビオ氏は、ローマで行ったINPS Japanの独占インタビューで、気候変動、戦争、格差、人工知能(AI)など複雑に絡み合う地球規模課題に向き合うためには、「相互につながる世界を理解すること」が、現代の市民に求められる最も重要な責任の一つであると語った。|英語版|

教育者ジュリアーノ・リッツィ氏との共著『The Global Citizen Handbook』でサビオ氏が問いかけているのは、世界市民とは何かという抽象的な理念ではない。複雑に相互依存する現代世界を理解し、その理解を判断と責任ある行動へと結び付ける、市民の在り方である。
サビオ氏は、新著について語り始める前に、まず今日の若者について語った。
「今日の大学卒業生が直面している不確実性は、その親世代、まして祖父母世代が経験したものとは本質的に異なります。」
第二次世界大戦後の世代は、破壊された都市を受け継いだ。しかし同時に、復興によってより良い世界を築けるという希望も持っていた。国際連合の創設は、その希望を象徴する出来事だった。
1990年代には、工業化、技術革新、経済成長が、安定した雇用、持ち家の取得、将来への安心という現実的な期待を支えていた。
しかし今日の若者が受け継いだ世界は、大きく様変わりしている。気候変動、地政学的対立、拡大する格差、不安定な金融市場、人口減少、武力紛争、そしてAI――。こうした課題が同時に進行することで、過去のどの世代も経験したことのないほど深い不確実性が生まれている。

しかしサビオ氏によれば、問題は現実の不確実性だけではない。
より深刻なのは、「理解の危機」である。
現代人は、かつてないほど多くの情報に接している。ニュースは瞬時に世界を駆け巡り、AIは膨大な情報を数秒で要約する。だが、気候変動、移民、民主主義、戦争、金融、AIといった出来事は、それぞれ独立した問題として報じられがちであり、その相互のつながりは見えにくくなっている。

「一般市民は百科事典ではありません。」
サビオ氏はそう語る。
情報が断片化するほど、人々は世界全体を理解できなくなり、「自分には何も変えられない」という無力感を抱くようになる。サビオ氏は、この「理解の危機」こそが、デジタル時代の民主主義にとって最も大きな課題の一つだと考えている。
市民が社会を動かしている力を理解できなければ、公共の議論に意味ある形で参加することはできない。民主主義は、単に選挙によって維持される制度ではない。市民が世界を理解し、判断し、行動する力によって支えられる営みなのである。
こうした問題意識から生まれたのが、『The Global Citizen Handbook』である。
本書は、統計や専門知識を並べた従来型の参考書ではない。各章では、国際機関の報告書や学術研究に基づいて地球規模課題を解説するとともに、同様の課題に取り組んできた地域社会やコミュニティの事例を紹介する。そして各章の最後には、読者自身が立ち止まり、自ら考えるための問いが用意されている。
目的は、知識を増やすことではない。
情報を理解へと深め、理解を判断へ、そして判断を責任ある社会参加へとつなげることである。

ジャーナリズムから教育へ――世界市民を育むという共通の理念
サヴィオ氏にとって、『The Global Citizen Handbook』は、それまでの歩みから新たに方向転換した仕事ではない。
むしろ、60年以上にわたるジャーナリスト人生の自然な延長線上にある。

1964年、ローマでインタープレスサービス(IPS)を創設したサビオ氏は、単に新しい国際通信社をつくろうとしたのではなかった。
彼が目指したのは、世界のジャーナリズムの「地理」を変えることだった。
当時、国際報道の多くは政治・経済大国の視点から発信されていた。これに対しIPSは、それまで世界の主要メディアではほとんど取り上げられることのなかった人々の声や経験に光を当て、国際社会の対話を広げようとした。
その理念は後に、「声なき人々に声を与える(Giving Voice to the Voiceless)」という言葉で広く知られるようになる。
しかしサビオ氏にとって、この言葉の意味は、単に社会的に弱い立場の人々を報じることではない。
遠く離れた場所で起きている出来事が、自分たちの暮らしとどのようにつながっているのかを、市民一人ひとりが理解できるようにすることこそ、ジャーナリズムの本来の役割だと考えてきたのである。

今回のインタビューでサビオ氏は、その歩みを振り返りながら、2009年にIPS、INPS Japan、創価学会インタナショナル(SGI)が開始した国際メディア協力について語った。
この協力は、「核兵器のない世界」を担う世界市民を育むことを目的に始まり、以来、INPS Japanは日本の拠点として、多言語による報道とナレッジプラットフォームを通じて、核軍縮、持続可能な開発、人権、気候変動など、相互に結び付いた地球規模課題を伝え続けてきた。


サヴィオ氏は、協力開始翌年の2010年に刊行された最初の年次報告書に寄せられた、創価学会第三代会長・池田大作博士のメッセージを懐かしく振り返った。
「今読み返しても、あのメッセージは少しも色あせていません。」
そう語ったサヴィオ氏は、『The Global Citizen Handbook』で示した問題意識とも深く響き合っているとして、池田博士の言葉にあらためて言及した。
池田博士は、そのメッセージの中で教育の意義について、次のように記している。
「ここに、最も広い意味での教育の重要性があります。人々が正確な知識を身につければ、自ら何をなすべきかを自然に理解するようになります。そして身近な人々と対話を重ねる中で、ともに学び、最善かつ最も効果的な行動の在り方を探求していくことができるのです。」
さらに池田博士は、教育におけるメディアの役割について、次のように述べている。
「この教育のプロセスにおいて、メディアは極めて重要な役割を担っています。客観的な情報を広く提供し、多様な視点から分析を行うことで、課題の本質と、その解決に向けて取るべき行動をより明確に示すことができるのです。」
そして、IPSとSGIの協力については、次のように記している。
「IPSは『声なき人々に声を与える』ことを特別な使命として掲げています。一方、創価学会インタナショナル(SGI)は、市民社会の立場から平和の文化を築くことに力を注いでいます。この極めて重要な課題の解決を探る対話の場を提供する本プロジェクトにおいて、IPSと協力できることを大きな喜びとしています。」
サヴィオ氏は、15年以上を経た今も、この理念が変わることなく受け継がれていることを何よりもうれしく思うと語った。
また、自身も同じ年次報告書に寄せたメッセージの中で、この多言語メディア・プラットフォームが、「希望に満ちた楽観主義(sanguine optimism)」へと登るための「ベースキャンプ」となることを願ったことを振り返った。
「当時描いたビジョンが、今日まで発展を続けていることを、大変うれしく思っています。」
サヴィオ氏にとって、IPS JapanとSGIの協力は単なるメディア事業ではない。
独立したジャーナリズム、教育、そして対話が結び付くことで、人々が世界を理解し、責任ある世界市民へと成長していく―その可能性を示す実践なのである。

ロベルト・サビオ氏はジャーナリスト、コミュニケーション専門家、政治評論家であり、社会正義と気候正義の活動家、そしてグローバル・ガバナンスの提唱者である。1964年、国際通信社インタープレスサービス(IPS)を創設し、長年にわたり同社の事務局長を務めた。現在は、Other Newsの創設者兼会長であり、同メディアの中心的な発信者でもある。ミハイル・ゴルバチョフ氏が創設したニュー・ポリシー・フォーラム(旧ワールド・ポリシー・フォーラム)の科学評議会副議長を務めるほか、世界社会フォーラム国際委員会のメンバーでもある。(WSF).
INPS Japan
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