【アンマンIDN=バーンハード・シェル】
アラブ世界で最も貧しい国のひとつであるイエメンで2年以上に続いている紛争に対して、国連は明らかに政治的解決策を提示できずにいる。イエメンでは、国際的に承認されたアブド・ラッボ・マンスール・ハーディ大統領の政府に忠誠を誓う勢力と、反体制組織フーシと組む勢力との間の内戦で国が荒廃している。
独立の情報源によれば、2015年3月以来、7600人以上が殺害され、4万2000人が負傷しているが、その大部分が、大統領側を支持するサウジアラビア主導の多国籍軍の空爆によるものだ。この紛争と、多国籍軍による封鎖で人道的危機が引き起こされ、人口の7割が支援を必要としている。
国連の無力は8月18日にニューヨークで開かれた安保理会合の場でも明らかであった。
この日、事務総長のイエメン問題特別大使であるイスマイル・オウルド・チェイク・アフメド氏は「空・陸・海からイエメンの人びとに死が迫っている」と述べた。
イエメンで空前の規模に広がる病気や感染症について触れたアフメド大使は、「コレラを生き延びた人びとも、イエメンに感染し、和平への道を塞ぎ続けている『政治的コレラ』の悪影響を被り続けることになるだろう。」と語った。
アフメド大使は、「国際社会は平和的解決への支持で一致しているものの、一部の紛争当事者が、内部の分断を利用し個人的利益を得ようとしている。」と指摘したうえで、「現在欠けているものは、紛争当事者が、速やかに、また、言い訳をしたり引き延ばしたりすることなく、戦争を終わらせ、国益を個人的利得よりも優先する意思を示すことです。」と語った。
「問題解決に本腰を入れることなく無作為に時が過ぎれば、アルカイダのようなテロ集団がアラビア半島に拡大し、アデン湾を通って逃れる難民が拡大することを意味し、さらなる破壊と死がもたらされることになります。」とアフメド大使は語った。8月初めには、船を捨てて海に飛び込むことを余儀なくされた41人以上の難民が亡くなっている。
アフメド大使は、安保理で同じく発言したスティーブン・オブライアン国連事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官が述べた主要な点を繰り返した。
「紛争以前、イエメンは発展しており、飢餓に悩む人は少なく、通学率も上昇していました。しかし、これが完全に逆転してしまいました。2700万のイエメン人口のうち1700万人の食料が不足し、700万人近くが飢餓に直面し、約1600万人が水不足や衛生問題に直面しています。」とオブライエン事務次長は声明の中で語った。
オブライエン事務次長は、資金不足など、いくつかの重要な課題を挙げた。23億ドルの「イエメン人道対応計画」は、資金をわずか39%しか充足できていない。オブライエン事務次長はまた、重要な商業・人道物資や人員の配置に対する干渉があると強調した。
「サナアの事実上の政府や、その支配下にある地域の公務員らは、人道的行動を阻止したり、遅らせたり、さらには干渉したりしています。」とオブライエン事務次長は語った。人道支援関係者は国際社会に対して、全ての港が商業輸送を含めた民間に対して開放されるように要請していた。
オブライエン事務次長は、影響力のある諸政府や個人に対して、戦闘当事者に対して働きかけて、国際人道法・人権法を尊重し、アカウンタビリティを強化するようにさせるべきだと訴えた。
120万人の公務員給与が数か月も遅配になっていることから、オブライエン事務次長は、「公務員の給与を支払って国の基本サービスが崩壊しないようにしなくてはならない。」と呼びかけた。オブライエン事務次長はまた、「この人道的な悲劇は、意図的かつ無慈悲に引き起こされているものです。これは政治的なものであり、いずれも現在は欠けている意志と勇気をもってすれば、止めることが可能なものです。」と指摘したうえで、国連が訴えている、紛争に対する政治的な解決の必要性を改めて表明した。
国連はこれまで3回の和平協議を開催している。2016年4月にクウェートで開かれた3回目の協議では突破口があるかに思われた。フーシ側もサウジ側も、協議に向かうようプレッシャーを受け、その意思があるように見えたからだ。
しかし、3カ月後に協議は失敗に終わり、戦闘は激化した。国連によれば、これによって民間の死亡者数は劇的に増加したという。
ハーディ大統領率いる政府は、反乱軍が支配下のすべての地域から撤退し武装解除に応じることを求めた国連安保理決議2216が完全に履行されない限り、政治的プロセスは進まない、と主張している。
しかし、報道によれば、ハーディ大統領側も追い込まれている。『フォーリン・ポリシー』誌が報じた国連の秘密報告書によると、「ハーディ大統領の権威は、彼を権力の座に戻そうと奮闘しているサウジアラビアとアラブ首長国連邦が資金援助し支配している武装集団によって崩されている。」という。
さらに同レポートは、「ハーディ政権の閣僚の一部はすでに彼と袂を分かち、イエメン南部の支配を視野に入れて別の移行協議会を作っている。国連の専門家パネルによると、この協議会はイエメン軍からのかなりの支持を受けており、ハーディ大統領による南部統治の能力にとって大きな脅威となっている。」と述べている。
報告書はまた、「イエメンの正統政府の権威は今年に入ってかなり落ち込んでおり、多くの地域においてすでに弱体化しているか不在状態である。正統政府がその実効支配下にあると主張している8つの地域を効果的に統治する能力については、いまや疑問が付されている。」と報告書は述べている。
『フォーリン・ポリシー』誌はさらに、「約2年半にわたって、米国製の航空機と精密誘導ロケットで武装したサウジアラビアやその同盟国が、世界で最も貧しい国のひとつに対して最も先進的な空爆を仕掛けてきた。」と報じている。
「しかし、サウジアラビア主導連合の圧倒的な軍事力は、決して彼らを勝利に近づけてはいない。むしろ、イエメンの政治的分裂を促進し、人道的危機を深めて国を飢餓の瀬戸際に追いやり、多数の民間人被害に対する民衆の怒りに火をつけている。」
『フォーリン・ポリシー』誌は、国連安保理専門家パネルの次の言葉を引用している。「サウジアラビア主導の連合軍による戦略爆撃は、現地に作戦面あるいは戦術面の効果をほとんど及ぼすことなく、かえって市民の抵抗をより強固にしてしまっている。」連合軍はまた、民族的なフーシの反体制勢力と、首都のサナアを含めたイエメンの13地域を支配する、失脚した元指導者であるアリ・アブドラ・サーレハ氏との間の軍事同盟を「強化」する結果になっている。
この混乱によって、イスラム国やアルカイダのような過激主義者が跋扈する土壌が生まれており、専門家パネルは、これが「『西側』の目標に対するテロ攻撃を仕掛けようと狙っている。」とみている。報告書は、アルカイダが船舶に対する攻撃の実行能力を強化しているかもしれないと指摘し、同集団がかつて支配していたムカラで海上攻撃用の爆発装置と海洋レーダースキャナーが押収された事実を引用している。アルカイダの現地指導者であるカシム・アルレイミ氏は最近、西側の目標に対する「単独行動による」攻撃を仕掛けるよう呼びかけるビデオを流している、と専門家パネルは指摘している。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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