ニュース様々な課題を残したNPT運用検討会議

様々な課題を残したNPT運用検討会議

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「核兵器のない世界」への道はよい意図で敷き詰められている*。しかし、その道のりには決まり文句と空しい約束が散らばっている。

「国連を舞台に4週間に亘って開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議は5月28日、思ったほどの成果もなく閉幕しました。」と、核政策に関する法律家委員会のジョン・バローズ事務局長は語った。

「結果については特に驚くべきものもなく失望しました。しかし、『中東非核・非大量破壊兵器地帯』という、議論の流れによっては(5年前のように)会議決裂にもなりかねなかった伸るか反るかの重要議題について前進が見られたことは、今回の会議における具体的な成果であったと思います。」とバローズ氏は語った。

 最終文書には、2012年に中東非核・非大量破壊兵器地帯実現へ向けた会議を招集することや、その会議の開催実現にあたる「ファシリテーター(取りまとめ役)」を国連事務総長が指名することが明記された。次回のNPT運用検討会議は、その会議の3年後にあたる2015年に開催予定である。「(中東非核・非大量破壊兵器地帯実現への)道のりは容易くないが、前進するにはこの道しかない。」と、118カ国が加盟する非同盟運動(NAM)を代表してマジド・アブドゥルアジズ国連大使(エジプト)は語った。

アブドゥルアジズ大使は、今回の運用検討会議の成果として、イスラエルがNPTに加入し、同国の核施設に対する国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることの重要性を再確認した点を挙げた。

しかし、核兵器の保有について「肯定も否定もしない」曖昧政策を堅持してきたイスラエルが、こうした要求に応じるかどうかは現時点では不明である。
 
 アブドゥルアジズ大使は、「国連で最大の政治連合組織である非同盟運動(NAM)は、2025年までの核廃絶を目指している。」と語った。

NPT運用検討会議は、4週間に亘る集中審議を経て、政治的に最も対立含みの諸問題(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)に関する行動計画を明記した28頁からなる最終文書を採択した。しかし、この最終文書に対する様々な批判や反応を考えれば、今回のNPT運用検討会議が打ち出した結果は、十分なものとはいえなかった。

「この行動計画は実質的な成果をもたらすものとは思えません。」と、米国の核兵器計画や政策を監視してきた西部諸州法律財団(WSLF)のジャクリーン・カバッソ事務局長は語った。

カバッソ氏は、「この行動計画では、核兵器保有国は、(核廃絶達成の)具体的な期限や行程を公約させられるのではなく、消極的安全保障や核兵器フリーゾーンといった課題に取り組むよう促されているに過ぎません。」と語った。

いくつかの非政府組織(NGO)によると、5月28日に採択された最終文書は、全会一致を最優先し、その結果全般的に内容が薄まってしまった。

米国、ロシア、英国、フランス(NPT体制下で核兵器保有を認められている5大国の内の中国を除く4カ国)は、最終文書から、短期的に自国の核軍縮を義務付けるような条項を削除することに概ね成功した。

そして多くの軍縮関連の行動案は、最終文書においては漠然とした目標として表記された。

「核実験について、草案段階で記載されていた核実験場の閉鎖を求める文言は、削除されました。」とカバッソ氏は語った。

同様に、核兵器の開発、品質向上を目的とする実験の停止を求める文言も最終文書では削除された。

カバッソ氏は、「興味深いことに、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効までの間、すべての国にいかなる核実験や核爆発も控えるよう求めた行動計画の中で、新核兵器技術の使用という新たな言葉が追加されました。」と語った。

「これは米国その他の核兵器保有国で行われている実験室ベースの核実験計画を指しているように思われます。」とカバッソ氏は付け加えた。

グローバル安全保障研究所(GSI)のジョナサン・グラノフ所長は、「核兵器保有国は、最終文書に(核軍縮に向けた)具体的かつ明確なコミットメントを残しませんでしたが、世界は核兵器を廃絶したほうが、人類にとってより安全で暮らしよいという原則については、明らかに支持しました。核保有国はさらに、全会一致で公約した原則や政策を最終文書の中で宣言しているのです。すなわち、この最終文書は核兵器のない世界へ到達するための道筋を示したものなのです。」と語った。

グラノフ氏は、「悲観論者は、この最終文書を『単なる言葉を並べたものだ』を批判するでしょう。しかしそのような論法は、建物の設計図を見て『単なる線だ』と主張するのに酷似しています。」と指摘したうえで、「この最終文書の意義を決して過小評価してはなりません。」と語った。

まず第一に、(核なき世界の)イメージと目標を示し、第二に、(それに至るための)政策とその元となる原理原則を明らかにし、そして第三に、目標を達成するために政治的な勢力を結集しなければなりません。

「そのような(核廃絶を求める)政治的な勢力を結集することが、私たちみんなの責任なのです。」と、グラノフ氏は付け加えた。
 

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: Rebecca Johnson Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

核兵器禁止国際キャンペーン(ICAN)のレベッカ・ジョンソン副議長は、「今回のNPT運用検討会議のプロセスと結果から2つのことが明らかになりました。つまり、前々回(10年前)或いはその前(15年前)のNPT運用検討会議で採択された公約は、尊重も実施もされていないことから、今回の会議でこれらの公約を再確認するだけでは、不十分だということです。」と語った。

また最終文書の中で重要性が強調されているように、核兵器の脅威を根絶するには具体的な軍縮の道筋のみならず、核兵器のない世界を実現し維持し続けるために必要な枠組みを構築することが求められている。

「現行のNPT体制が、ルールに従わない国々に対して有効な手を打てず、保障措置協定の強化にも失敗している現状に加えて、今回の最終文書でも肝心な部分が削除され核軍縮に関する行動計画が骨抜きになるなど、今や誰の目から見ても、(NPT体制に代わる)核兵器禁止条約(NWC)の交渉に向けたプロセスを開始する必要が明らかにあります。」とジョンソン氏は語った。

「核兵器禁止条約の下では、NPTのような核保有国と核非保有国の区別はなくなり、全ての国に対して包括的に核兵器の保有が禁止されるのです。」と、ジョンソン氏は付け加えた。

カバッソ氏は、「運用検討会議を通じて明らかになったことは、NPTが謳っている軍縮目標の実現を図ろうと決意している圧倒的多数の加盟国と、それに全く妥協しようとしない核兵器保有国の間の大きな溝です。」と語った。
 
 最終宣言の行動計画に盛り込む核軍縮措置を巡っては、核保有国と非核保有国が対立して紛糾したが、結局すべての国が、核軍縮の方法について、不可逆的、検証可能、透明である(過去にも採択されたが果たされていない)原則を採用することを再確認した。

「最終文書には何ら特筆すべき内容も目新しさもありません。しかし最終文書作成のプロセスから、NWCのような軍縮措置に向けた新たなアプローチが必要だということが明らかになりました。」とジョンソン氏は指摘した。

グラノフ氏は、「アカデミー賞は素晴らしい演技をした俳優に対して授与されます。また世界はオリンピックで傑出した運動選手を讃えます。しかし、米国やイランのような様々な異なる利害や政策を持つ国々が共通点を見出し合意に至れるよう、粘り強く調整し、より安全で安定した未来へと続く共通の土台を構築した外交官達の功績は、ほとんど顧みられていません。」と語った。

「今回のNPT運用検討会議は、米露両国が協力して核軍縮を進めるという国際的な機運を追い風に、少なからず、成功を収めたと思います。」とグラノフ氏は語った。(原文へ


翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*地獄への道はよい意図で敷き詰められている。(=よい意図があっても実行できなければ結果はかえって悪い。)という諺を捩ったもの。

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