Multimedia国連安保理、核実験は禁止しても、核兵器は禁止せず

国連安保理、核実験は禁止しても、核兵器は禁止せず

【ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名開放20周年を翌日に控えて、国連安保理は、20年前に確立されている核実験の事実上の世界的禁止を強化する決議を採択した。

拒否権を持つ米国・ロシア・中国・英国・フランスの5大国(P5)と、ローテーションで選出され2年の任期を持つ非常任理事国10カ国からなる国連安保理は、9月23日の集中審議の後、賛成14・反対0・棄権1で決議を採択した。エジプトは、決議の文言が核軍縮の必要性を強調していないとして、棄権した。

安保理は、「条約の死活的な重要性と、その早期発効を図ることの緊急性」を強調し、「すべての加盟国に対して、核爆発実験あるいはその他のいかなる核爆発も実施することを控え、この点に関するモラトリアムを維持することを呼びかけ」た。

そうしたモラトリアムは、「条約の早期発効と同じような、恒久的で法的拘束力のある効果を持つものではない。」と決議は指摘した。

決議は、9月15日の5大国による条約に関する共同声明に言及した。この声明は、「核爆発実験あるいはその他のいかなる核爆発も、CTBTの目標と目的を損なうもの」だと述べていた。

国連の潘基文事務総長は、条約を支持する安保理の行動を歓迎し、事態を主導した米国とそれを支持した安保理理事国、とくに常任理事国を賞賛しつつも、決議は「CTBT発効の代わりにはならない」と語った。

安保理決議採択直後に記者会見した包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)のラッシーナ・ゼルボ事務局長は、「核実験に反対する規範の強化につながるあらゆる取り組みをCTBTOは歓迎します。」と語った。

「非常に時宜を得た決議です。というのも、今年は包括的核実験禁止条約の署名開放20周年にあたるからです。と同時に、北朝鮮の行動が、核実験のモラトリアムを強力かつ確固たるものにすることでこの条約を発効させる絶対的な必要性を国際社会に思い起こさせたからです。」とゼルボ事務局長は語った。

ゼルボ事務局長が言及しているのは、北朝鮮が最近実施した核実験のことである。CTBTO、国連事務総長、安保理、それに国際原子力機関(IAEA)がこの実験を非難している。

ゼルボ事務局長はまた、「今日の安保理における決議採択は、包括的核実験禁止条約が依然として意義のあるものであることを示している。」と指摘した。

「この(安保理)決議が条約批准プロセスの代わりにはならないという、一部の国々の懸念については理解しています。引き続き批准プロセスが条約を発効させるための究極の方法であることには変わりありません。しかし、イラン合意が成立した今、この決議は、軍備管理・不拡散・そして究極的には核軍縮へと前進するための次の主要な要素になるという点で、重要なステップと言えるでしょう。私たちは、今後も軍縮に向かってさらなる措置が採られることを期待しています。なぜなら、国際社会はつまるところ、核兵器なき世界を追求しているのですから。」とゼルボ事務局長は語った。

Lassina Zerbo/ CTBTO
Lassina Zerbo/ CTBTO

ゼルボ事務局長は、「核なき世界への第一歩は核実験禁止から」と指摘したうえで、「まずは核実験を停止すること。それから、既存の合意内容を強化するであろう諸措置を採ること。そのうえで、誰もが望んでいる世界、つまり、今日一部の者が口にしている核兵器近代化の試みなどない世界へと、国際社会を導いていくことによって、核兵器なき世界は実現されるだろう。」と語った。

ゼルボ事務局長はまた、ウェブサイトに掲載したメッセージのなかで、「今年の(CTBT署名開放から)20周年は、CTBTに関連した数多くの国際会議やイベントが既に開かれており、スワジランドミャンマーの2カ国が最近批准を済ませて、批准国は全体で166カ国になりました。一方で今年という年は、北朝鮮による2度(1月と9月)にわたる核実験によって、国際社会は、条約発効を前進させる緊急性を思い知らされることになりました。」と記している。

8月、アスタナ(カザフスタン)、ニューヨーク、ウィーンで、「核実験に反対する国際デー」セミパラチンスク核実験場閉鎖25周年の国際会議が開催された。

アスタナ会議参加者の一部が8月31日に参加したセメイ、クルチャトフ、旧セミパラチンスク核実験場視察の模様を記録した映像(浅霧撮影・編集)

「核実験禁止に向けたアート」という取り組みが、例えばニューヨークで9月21日に行われた国連郵政局切手の発表等、今年1年をかけていくつかの展示会において行われている。 


潘事務総長は、安保理の行動は「核実験に反対する国際的な規範が、ある国によって何度も挑戦を受けている中では、きわめて時宜を得たものだ。」と語った。

CTBTO
CTBTO

ある国とは、(公式には朝鮮民主主義人民共和国と呼ばれる)北朝鮮を指したものだ。北朝鮮は、2006年、2009年、2013年、2016年に、安保理決議に違反する形で核実験を強行している。

5回目の、おそらくはこれまでで最大級の核実験は9月9日に行われた。北朝鮮政府は、弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の爆発に成功したと主張している。

潘事務総長は、CTBTを批准していない2つの核兵器国、すなわち中国と米国に対して、「CTBT附属書2に記載されている他の6カ国と共に、核実験モラトリアムへのコミットメントを緊急の行動に変換して速やかにCTBTに加入するよう」をあらためて呼びかけた。

実際、この8か国がCTBTの発効を妨げているのである。中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国は、署名は済ませたが依然として批准していない。インド、北朝鮮、パキスタンは署名すらしていない。「条約の普遍性を実現するには、一つ一つの批准行為が重みを持っています。」潘事務総長は語った。

米国の主導の背後にあるもの

国連事務総長による米中両国への条約批准呼び掛けは、次の事実によって裏付けられている。すなわち、米国は、CTBTに関する決議を最初に安保理に対して提示した際、その目的について、CTBTとその検証体制に対する世界的な支持を強化するとともに、「核実験を続け、国際行動の事実上の規範に反する形で行動する国々を非難することだと説明していた。しかし一方で、決議はあらたな法的義務を創出するものではない、ともしていた。

こうした米国の取組みは、米国内の政治と、バラク・オバマ大統領の核不拡散政策のレガシー(政治的遺産)を強化しようとの願望に動機づけられたものではないか、と広く考えられている。米国は条約を初期に署名しているが、米議会は1999年に条約批准を否決し、継続的な努力がなされているにも関わらず、オバマ政権は米議会を条約批准に賛同させることに成功していない。

識者によると、CTBT関連決議という考えに対する安保理理事国の当初の反応は「それほど熱心なものではなく、交渉は困難なものであった」という。草案はまず5大国の間で合意が得られ、この議論の不可欠の一部として5大国共同声明を付ける形で、非常任理事国からの支持を取り付けていったのである。

核軍縮

協議が安保理全体に移行すると、核軍縮に関して強い見方をかねてから持っており、核不拡散条約(NPT)上の義務を満たしていない核兵器国に対して批判的な一部の理事国から、重大な留保が提示された。とりわけ、国連総会第一委員会で新アジェンダ連合(NAC)を構成しているエジプトとニュージーランドである。

他にブラジル・アイルランド・メキシコ・南アフリカを構成国とするNACは、「非核世界へ向けて:核軍縮義務の履行を加速する」と題する決議を毎年国連総会第一委員会に対して提出している。通常は、中国などいくつかの国が棄権し、その他のP5諸国が反対という結果になっている。

現在の安保理の構成をみると、核軍縮義務を遵守していないとしてP5に批判的な非同盟運動諸国が一部含まれている。アンゴラ、マレーシア、セネガル、ベネズエラ、それにエジプトだ。

その意味で、決議採択前の米国・エジプトの声明と、決議採決後のその他の国々の声明を読んでみると、きわめて興味深い。

採決前後の声明

米国のジョン・ケリー国務長官は、決議案採択前に、加盟国には、より安全で平和な地球という、CTBTがもたらすとされた未来を再確認するチャンスがあると述べていた。この10月、国際社会は、旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ最高指導者(当時)と米国のロナルド・レーガン大統領(当時)によるアイスランド会合から30年を迎える。会合で両者は、核問題に関して新しい方向に踏み出すことを宣言したのだった。

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./  Ronald Reagan Library, Public Domain
President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain

最近では、米国とイランが2年もの時を費やして、誰もが不可能だと考えていたことを協議した、とケリー長官は語った。その内容とは、ある国(=イラン)が核計画を放棄し、世界をより安全にする措置を採る用意があることを明確にする、というものだ。

世界各地の責任感ある政府は、核物質や核兵器のもたらす危険性に対処する努力を進めてきた。今回国連安保理で決議が採択されたことは、核エネルギーが平和目的にのみ使われるような、より安全な世界の実現に向けて安保理は弛みなき努力を継続していくとの兆候であろう。

今日の技術をもってすれば、「私たちの実力を検証するために実際に核兵器を爆発させる必要はない」とケリー長官は述べ、「この安保理決議は、核兵器なき世界の実現は可能であり、そうした将来を現実のものとするために諸国があらゆる手を尽くしている事実を世界中の人々に対して改めて示しました。」と付け加えた。

エジプトのヒシャム・バドル外務副大臣(国際機関担当)は、決議に関する6つの懸念を提示して、国連安保理は、今回の決議が目指した形で核実験禁止条約の問題を取り扱うには適切な場ではないと強調した。

決議文は核不拡散条約の重要性を強調しておらず、本文の中でこの点に触れていない。「どうしてCTBTの普遍性達成にそれほど熱心でありながら、核不拡散条約については沈黙を保っているのか?」とバドル氏は問い、核不拡散条約の全ての加盟国に対して、同条約の普遍性を追求するよう呼びかけた。

決議はまた、核軍縮に向けた措置の緊急性と重要性に触れておらず、1995年・2000年・2010年の核不拡散条約運用検討会議の成果文書を黙殺している。

さらに、核軍縮を文中で触れないことは、決議の信頼性を著しく損ね、安保理は軍縮に対する「いいとこ取り」のアプローチを採用しているとの誤ったメッセージを国際社会に送ることになる、とバドル氏は語った。

バドル氏はまた、「その意味で、決議は核兵器国を非核兵器国に対して不当に平等な位置に立たせています。」と指摘したうえで、「CTBT準備委員会や暫定技術事務局の活動に対して手を突っ込むような決議のやり方は『逆効果』であり、決議文は難しいジレンマを反映しています。」と語った。

Hisham Badr/ K.Asagiri of INPS
Hisham Badr/ K.Asagiri of INPS

検証体制の完成を急ぐべしとする安保理に対して一部の国々が賛意を示す一方で、それらの国々の立法府は幾度もCTBT批准を拒み、責任を果たしていない。こうした留保にも関わらず、エジプトは決議採択を棄権することにした、とバドル氏は語った。

賛成14・反対0・棄権1の投票結果の後、セネガルのマンクール・ヌディエ外相は、核不拡散だけではなく核軍縮も最終目標だと語った。この目標に向かうために、核兵器国間での不拡散を強化することが重要で、核兵器国は消極的安全保証を供与すべきだ。

マレーシアのラムラン・ビン・イブラヒム国連大使は、核実験禁止条約が未発効であることに重大な懸念を表明し、その早期発効を訴えた。核兵器を保有し、核兵器を製造する能力を持つ国々に対して完全核軍縮義務を課すいかなる条項もCTBTには含まれていないため、条約内で保護されているこの行動は軽視することができない。

決議はこの事実を十分に認識していない。さらに、核能力を持つ国々は条約を批准する責任を取ることが極めて重要だ、とヌディエ外相は述べ、「附属書2」記載の発効要件国に対して速やかに批准するよう呼びかけた。

前途にある課題は、「一握りの国によってのみ合意されうる文書について安保理決議で言及する先例を作らないようにすることです。」とヌディエ外相は語った。すべての安保理理事国の懸念がバランスよく取り込まれないかぎり、決議の権威と信頼性は下がることになる。

ニュージーランドのジェラード・ヴァン・ボーメン国連大使は、核実験禁止条約の20周年は祝うべきことだが、条約が依然として発効していないことはきわめて残念だと語った。ヴァン・ボーメン国連大使は、条約を署名・批准していない国に速やかに手続きを済ませるよう強く訴えながら、「それらの国々が手続きを完了するまで、国際社会は核実験の問題に終止符を打つことはできない。」と語った。

ニュージーランドは、偶然にも安保理の常任理事国である核保有5カ国による共同声明に安保理決議で言及されたことに対する、一部の安保理理事国の留保に賛意を示しつつ、いかなる集団であってもその「観点を正当化するために安保理が利用されることは遺憾だ」と語った。

「一部の国が核兵器を保持し、国家安全保障のためにそれが不可欠だと主張し続けるかぎり、同じことをやろうとする国はなくならないだろう。」とヴァン・ボーメン大使は語った。このパラドックスは、核不拡散と核軍縮とが相互に強化し合う性格である点に光をあてるものだ。「片方を無視すれば、他方も後退することになります。」とヴァン・ボーメン大使は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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