【ブリュッセルIPS=バリ・ベイツ】
もし国連児童基金(ユニセフ)に12億8000万ドルの執行予算があれば、世界でさらに9700万人の人々に支援の手を差し伸べることが可能だったであろう。
例えば十分な予算があれば、ユニセフは、旱魃に伴う飢饉に見舞われているエチオピアの500万人の子供達の惨状を緩和し、ケニアの36万人の子供達にまともな教育を受ける機会を提供し、深刻な栄養失調に苦しむマダガスカルの16,000人の子供達を診察することができただろう。また、220万人のソマリアの子供達に安全な水を供給し、100万人の南スーダンの子供達に基本的ヘルスケアを提供することも可能だったはずである。
しかしこれらの数字は、ユニセフが活動目標としている世界7地域の内の、ほんの2地域(アフリカ東部・南部)における現状にすぎない。
残念なことに、ユニセフが2011年に獲得できた資金の総額は目標の半分以下に過ぎず、これによって実際に実施に移せた活動も当初の目標に比べると半減せざるを得ない状況にある。
ユニセフでは毎年1月に、自然災害、紛争、慢性的な危機等により支援を最も必要とする深刻な状況に置かれている子供たちの状況を伝える「子どもたちのための人道支援報告書(Humanitarian Action for Children Report)」を発表している。
この報告書には、辛うじて生きているものの栄養失調からあばら骨が見えるほど痩せ細った少年少女の姿を写した高解像度の写真など、少しずつ餓死に追いやられている多くの人々が直面している厳しい現実が報告されている。
ユニセフは、1月27日発表した「子どもたちのための人道支援報告書2012年版」の中で、25か国7地域で子ども達に人道支援を行うための必要資金として12億8000万ドルが必要であると国際社会に訴えるとともに、支援対象国におけるニーズを分野別(栄養、水・公衆衛生と衛生、教育、児童の保護、HIV/AIDsその他)に明らかにしている。
ユニセフは当初38カ国を対象に14億ドルの拠出を国際社会に訴えたが、2011年半ばに、アフリカの角地域における前代未聞の危機等に対処するため内容を一部変更した。
同最新報告書によると、2011年の資金の44%は、ユニセフが最高レベルの緊急支援体制を発動した「アフリカの角」地域に対して投入されている。また同報告書は、2012年に関しても、いくつかの国々が直面している深刻な現状を浮き彫りにしている。例えば、ソマリアだけで2億8910万ドル(1国当たりの支援必要額としては過去最大)、コンゴ民主共和国で1億4390万ドル、スーダンで9810万ドルが必要だとしている。
また報告書は、2011年10月現在でユニセフが受け取った拠出金総額は、人道支援を実施するために必要な要請額の僅か48%にあたる8億5470万ドルに過ぎないこと、さらに、年末までに受け取る拠出金総額はさらに大きくはなるが、大幅な伸びは見込めない点を指摘している。
その結果ユニセフは、生きるか死ぬかに関わる人道支援を、どの子どもたちに差し伸べるかという、極めて痛ましい決断を迫られる事態となっている。
「悲しいことに、私たちは支援を必要としている全ての人々に救いの手を差し伸べられない状況にあります。」と、ユニセフの緊急対応専門家であるマリカ・ホフマイスター氏は語った。
活動資金の減少は如何なる組織においても大きな障害となるが、生死の境にある人々の支援を行っているユニセフの場合、資金不足は、そうした人々にとりわけ深刻な影響を及ぼすことになる。
たとえば、スーダンには昨年必要額の36%しか活動資金を投入できず、結果的に50万人に対して清潔な飲料水を提供するという計画は部分的にしか実行に移せなかった。当初予定していた給水施設の復旧・建設計画の多くが資金不足で挫折したため、13万人を超える人々に水を供給することが出来なくなったのである。
また洪水で学校施設に大きな被害を受けたフィリピンで、75000人の子ども達を対象に教育教材を支援する計画も、予定の18%しか活動資金を投入できなかったことから失敗し、50,000人以上の子ども達が未だに教育教材がないままの状態にある。
また昨年10月に公表された報告書によると、マダガスカル、ウガンダ、コンゴ、イラク、イラクからの難民、タジキスタンに至っては、10%に満たない額しか活動資金を投入できなかった事実を明らかにしている。
一方ユニセフは、こうした深刻な活動資金不足にもかかわらず、2011年を通じて実施した人道支援の成果として、3600万人を超える子ども達に対する虫下しやビタミンAの補給と予防接種の実施、1900万人の女性と子供に対する栄養補給の実施、1600万人の人々に対する公衆衛生施設と安全な飲料水の提供、400万人の子ども達に対するより良い教育へのアクセスの提供を挙げている。
ユニセフの活動資金には、長期的な開発目標を達成するためのものと、人道支援に特化したものがある。そして活動資金を執行するユニセフの各国事務所には、特定の支援ニーズに応じてこの2種類の活動資金を「ある程度」柔軟に使い分ける権限が認められている。
ホフマイスター氏はこの点について、「各国事務所にこうした裁量の余地を残すことで、緊急の事態に対応できる現場体制を確保しているのです。重要なことは、メディアの注目を集めやすい大規模な緊急事態と、殆どメディアに取り上げられることもなく活動資金も投入されないまま何年も事態が深刻化している『忘れられた危機』のバランスをとっていくことです。」と語った。
しかしこうしたユニセフによる取り組みが、全ての支援団体から評価されているわけではない。
NGOのオックスファムとセイブ・ザ・チルドレンは、1月18日に発表した報告書『危険な遅れ』の中で、国連、NGO及び民間ドナー機関は、飢饉問題に対する従来のアプローチを見直し、「危機ではなくリスクを管理する」方向性へと転換するよう求めている。
同報告書は、アフリカの角地域における飢饉への取り組みについて、「危機を回避する機会が既に失われてしまっていることは明らかだ。」と述べている。
さらにオックスファムとセイブ・ザ・チルドレンは、(アフリカの角地域で)1300万人に影響をもたらした旱魃とそれに続いた飢饉は、ラニーニャ現象との関連を想起させる降雨量や天候パターンなど、その後に起こりうる危機について予兆を伴っていた明らかな事例であると指摘した。
「もしこうしたドナーがもっと早期に対処して、ほんの一部の人々の命でも救っていたならば、数千人の子どもや女性、男性が今でも生きていたでしょう。」と報告書は述べている。
ホフマイスター氏は、こうした批判に対して、「どんなに万全を尽くして用意した支援計画でも、予期せぬ災害で台無しになってしまうことがしばしばあるのです。」と反論している。
ユニセフのグローバルサポート部(2012年分として活動資金として2190万ドルを呼びかけている)では、こうした予期せぬ事態に備えるため、特定の国や目的に用途を限定せず、緊急の場合に著しく予算が足りない分野に転用できる予備費枠を設けることを目指している。しかし、こうした方策が効果を発揮できるかどうかは、資金集めの結果次第である。昨年の場合、グローバルサポート部が獲得できた活動資金は国際社会に訴えた総額の僅か3%にすぎなかった。
同報告書によると2011年10月時点で、ユニセフの上位10ドナーが、ユニセフの総収入の74%をカバーしている。そのうち、最大のドナーが欧州連合(EU)で拠出額は1億1580万ドル、それに米国(9820万ドル)、日本(9740万ドル)、国連中央緊急対応基金(CERF:9710万ドル)が続いている。
ホフマイスター氏は、女性や子どもの基本的人権を保護するために、ドナーに対して、支援約束の確実な履行と支援額の増額を求めている。
「私たちは要請額の100%達成を目指しています。なぜならユニセフが計画通りの結果を成し遂げるには、その他に方法がないからです。」とホフマイスター氏は強調した。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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