ニュース視点・論点アフリカの独裁者クラブからメンバーが脱落した(ロセベル・カグミレ)

アフリカの独裁者クラブからメンバーが脱落した(ロセベル・カグミレ)

【カンパラIPS=ロセベル・カグミレ】

ウガンダの大半の人々は2つのカテゴリーに分類できる-つまり現政権を恐れる人々のグループと現政権後の生活を恐れる人々のグループである。

現政権を恐れるグループの人々の脳裏には、過去に若者がデモを行った際、首都カンパラに現れた重装備の兵士達の記憶が焼き付いており、デモを行っても暴力で鎮圧されるだろうと考えている。一方現政権後の生活を恐れる人々は、誰が現在の指導者に代わって国政を運営できるか、想像さえできない状況である。

完全に国内の民衆の力で達成したチュニジアの革命の余波は、その後アラブ世界全体に波及した。アフリカの人々はチュニジア、エジプト、アルジェリア、イエメン、スーダンで起こった抗議活動の経緯を注意深く見守った。ウガンダでは多くの人々が、全く信じられないという様子で、テレビ(アルジャジーラ等の国際通信社の放送が受信が可能)に映る諸外国のデモの様子に見入った。彼らは意を決したアフリカの人々が銃の助けもなく政権に立ち向かう姿を殆ど目にしたことがないからだ。

 ツィッターやフェイスブックには、ウガンダでも同様の民衆革命が起こりかねないとする警告やそれを期待するメッセージで持ちきりである。私は、ベンアリが政権の座を追われた際に最初のメッセージを掲示した:「アフリカの独裁者クラブからメンバーが1名脱落した、彼らは今までのありかたについてある程度考え直すことだろう。」

しかし、私はもっと具体的に書くべきだったかもしれない:「今のところ、チュニジア革命の余波を感じているのは、スーダンのオマール・バシール、エジプトのホスニ・ムバラク(既に先週辞任)、アルジェリアのアブデラズィズ・ブーテフリカ、そしてリビアの自称王の中の王ムアンマール・カダフィぐらいだろう。」

民衆蜂起の背景にあるもの

北アフリカにおける民主化デモの背景には、主に失業、貧しい生活水準、そして自由の抑圧に対する不満があった。

エジプト人口のほぼ3分の2は、ホスニ・ムバラクが政権を掌握してから生まれた世代である。北アフリカ諸国では共通して、支配者が王侯のような生活をしている一方で、失業率が高い水準のままとどまっている。またこれらの国々では、深刻な不正・腐敗が横行し中流階級は税金を払う意義を見いだせないほどである。また貧困層の生活レベルが非常に厳しい状況におかれている点も共通である。例えばチュニジアの場合、2009年現在で、清潔な水にアクセス可能な人々は農村人口の僅か1%に過ぎず、失業率は14.2%に上っていた。

こうした北アフリカの状況はウガンダにおいても多くの類似点を見いだすことができる。

ウガンダでは青年層が総人口の実に77%を占める。2008年の世界銀行の報告によると、ウガンダは世界で国民の平均年齢が最も若い国であると同時に、青年層の失業率が最も高い国であった。また2008/09年度版「アフリカ開発指標」によるとウガンダ人青年層の実に83%が失業状態であった。

アフリカ開発指標によると、ウガンダは北アフリカ諸国よりもさらに厳しい状況におかれている。地域人口2万人をカバーするソロティ紹介病院を訪問したが、産科の病床は僅か3台しかなく、薬局では頻繁に在庫切れをおこす状態であった。大半のウガンダ人は、なけなしの生活費を健康管理に充てている。

初等教育の義務化により数万人の学生が入学したが、その結果必要な施設の不足が顕在化する一方、多くの教師が何カ月も無給で働かざるを得ない状況が続いている。2009年版の世界銀行報告書によると、現状に不満な教師の平均欠勤率は週1日(出勤ノルマは週5日)にのぼり、義務教育課程に従事する教師の25%が必要なレベルに達していなかった。

マケレレ大学社会調査機関(MISR)が先月発表したレポートによると、ウガンダの学校に通う生徒数は、午前のクラスが平均94人と超過密な状況となっている。しかし政府当局が給食問題について対応できていないことから、午後のクラス、とりわけ食糧事情が不安定な地域のクラスにおいては出席率が低くなっている。

世界エイズ・結核・マラリア対策基金からウガンダ政府に寄付されたエイズ・マラリア対策費の内、160万ドル以上が横領、不正流用されたことから、ウガンダは2005年に同基金からの支援を一時停止されている。

このスキャンダルに関与した大臣がロンドンに向かう飛行機の中で私に次のように語ったことがある。「大統領は基金からのお金がどこに行ったか知っていますよ。」その後の様々な証言から、消えた資金の一部は2005年にウガンダで実施された多党制を問う国民投票に使われたことが明らかとなっている。

ヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領はこの25年間政権を掌握しており、今年2月の大統領選挙で再選を目指す意向である。こうした状況を考えると北アフリカの民衆蜂起はウガンダでも起こりうるだろうか?

こうした社会的背景を比較してみればウガンダの若者の中にも北アフリカの革命がナイル川を遡って南に波及してくると期待する者がいるのも理解できる。それは全く想像できないという訳ではないが、ウガンダ社会の現状をよく観察すると、ウガンダの民衆は、ムセベニ大統領や政権に対して立ち上がりそうにはない。

都市化は市民と政府との関係に大きな影響を及ぼす。アフリカの都市住民は一般的に農村部の住民より政府に大きな期待を持つ傾向にある。ウガンダの都市部住民は政府の実態を理解するようになってきており、一般的にムセベニ大統領に投票しない傾向にある。

また北アフリカ諸国の識字率は70%強と比較的高く、北アフリカ諸国は、いくつかの例外を除けばサブサハラアフリカの国々と比べて都市化が進んでいる。

北アフリカでは食料価格の高騰が民衆蜂起の背景にある大きな要因となったが、ウガンダでは人口の8割が農村部に住んでおり、食糧価格の高騰が国民の生活維持に深刻な打撃を及ぼすには至らなかった。ウガンダは肥沃な土地に恵まれており大半の人々は自身の庭や農地で収穫できるものを食している。ウガンダの農村部で育った私もそうだが、ウガンダ人は一般に政府に対していくつかのイメージを持ってはいても、その中に飢餓、サービスの失敗、政策の欠如といったものは含まれていない。

多くのウガンダ人、とりわけ老年層の人々は、常に恐怖と隣り合わせだったウガンダの血みどろの過去(イディ・アミンの独裁政治)を経験しており、トラウマを引きずっている。彼らはムセベニ大統領のみがウガンダの平和を保障できる存在だと信じているのである。ムセベニ大統領も、この点を意識して、1986年に自身がいかに政権に就き内戦を終結させかについて日々言及している。「我々は解決に向けて立ち向かう。」というムセベニのお決まりの演説は、あたかもウガンダが直面している全ての問題が反政府勢力による「サボタージュ」にあるといっているかのようである。

過去25年に亘ってムセベニ大統領はウガンダ国民が要求できる唯一のベーシックニーズである「平和」を提供してきた。

「チュニジア革命の経験から、革命は一晩で突然起こるものでないことが分かります。革命が勃発するまでには様々な出来事が積み重なり、機が熟していくのです。そして実際に民衆蜂起が発生するには勢いが必要なのです。」と、ブルッキングスドーハセンターのイブラヒム・シャーキー研究員次長は語った。

「今日、チュニジアの人々は、1984年の『パンよこせ蜂起』や隣国アルジェリアで1988年に起こったデモ(同国の一党独裁体制を終わらせ民主改革をもたらした)が今回の民衆蜂起に影響を及ぼしたことを認識している。同じくエジプトの人々も、現在の民主化要求運動に先立つ2008年4月6日の賃上げ要求デモや2007年の食糧要求デモの意義を認識している。」

サブサハラの独裁者達は枕を高くして寝ている

シャーキー氏は、「十分な教育を受けた貧困層の人々は、大半が教育を受けていない不安だらけのウガンダ人と比べて、より暴力的な抗議活動を組織し不安定な状況を引き起こすことが出来る。」と分析している。

ウガンダの十分に教育を受けた若者たちは、能力的にはチュニジア-エジプトで起こったような動きをリードすることが可能であるが、実態は政権側にいる彼らの父親たちと同様に不正にお金を取得することに躍起となっている。彼らは効果的に機能する組織というものを目の当たりにしたことがなく理解していない。また、「奪えるものは手に入れようと躍起になる」習慣が依然としてウガンダでは横行している。そして2月18日の大統領選挙を控えて巨額のお金がウガンダ全土で配られている。

また、ウガンダ政府が援助資金に大きく依存している現実が、民衆の政府に対して疑念を抱かないもう一つの理由である。

ウガンダには、「“Abo balya esente zabazungu gwe abifaakoki?(彼らは白人の金を食い物にしているのだ。どうでもいいではないか?)”」という言葉がある。アフリカの人々は、資金を政府の所有物か、或いは政府に対する西側諸国からの贈り物と未だに見做している傾向がある。アフリカ諸国で政府のアカウンタビリティ(説明責任)に対する要求が高くない背景にはこうした意識が影響している。

また北アフリカの民衆蜂起は、宗教や社会階層の違いを乗り越えて民衆の幅広い支持を集めた。しかしそれとは対照的にウガンダでは、誰もが共通の大義を探すどころか、常に互いの出身地域や部族の違いに注目する傾向にあるなど、国民の間の分裂や亀裂は至る所に見受けられる。

従って、私は今のところ、北アフリカで進行している革命がウガンダのようなサブサハラアフリカ諸国にも意義ある変革をもたらすよう希望する一方で、私の祖国ウガンダが次の民衆革命の舞台となり、ニュースに報じられる可能性については疑わしいと思っている。
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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