【東京IDN=ケビン・クレメンツ】
40年以上にわたって平和研究に携わってきた者として、国境線の変更と主権の侵害を目的とした、20世紀型の時代遅れのこの侵攻のもつ意味を、2022年の今になって知ろうとしていることに愕然としている。この戦闘は、第二次世界大戦以降で私が見てきたなかで最も露骨な越境攻撃であり、重大な国連憲章違反である。(原文へ 日・英)
これは国家間の不干渉の原則に対する攻撃であり、国際侵略行為であることは明白である。これを開始したプーチン大統領は、作戦を始めた意図について変え続けており、その目的をロシア国民に隠している。彼は自国のメディアに対し、これを侵略と呼ばないよう指示し、反戦を訴えるロシアの抗議運動参加者や一部の有識者を弾圧している。この戦いは、ロシア帝国の失われた領土を取り戻そうと願い世界の注目を集めることに必死な人物が引き起こした理不尽な行為である。
私はまず、難民となった全ての人々、自国に留まることを選択した、或いはそうすることを余儀なくされた、恐怖と実存的絶望の中に生きている人々に思いを寄せ祈りを捧げたい。そして、愛する人を失い悲嘆にくれている何百万もの数多くの家族とともに祈っていきたい。
戦争は何の解決策にもならない。今回の戦闘行為は、プーチン大統領が抱くウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟の可能性に対する懸念や、より多くのさまざまな不安を解消することにはならない。それどころか、武力侵略により帝政ロシアを再興しようとするようなその試みは、苦痛と悲しみ、トラウマ、そして長期にわたる不安定を生み出すことだろう。それは、真に平和を望む人々のあらゆる基本原則に反するものなのである。
プーチン大統領は、ウクライナの指導者をナチスや腐敗者と呼んで悪者扱いしている。彼と彼の外相は、誠実な交渉には関心を示さず、協調的な解決策を模索することを拒絶して、力と強制の道を選んだ。目前の表向きの問題について、非暴力的な解決策を追求する意欲も意思も見られなかった。それどころか、ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツによるズデーテンラント進駐や第二次世界大戦当初のポーランド侵攻、そしてキエフに暮らす人々にとっては1942年のドイツ軍によるウクライナ侵攻という痛ましい記憶を呼び覚ましたのである。
この侵攻が、私たち個人や市民にとって何を意味するのかを考えるとき、危機に対しては「非暴力」の価値観をもって立ち向かうことが極めて重要である、との教訓を得る機会としなければならない。
第1に、ロシアの指導者たちがとった違法な行為への非難で国際社会は結束することが大事だ。あからさまな侵略行為に言い訳は許されない。
第2に、プーチン大統領とロシアの指導者らに対して、即時の停戦と、ウクライナ全土からの全ロシア軍の速やかな撤退を求め続けることが最も大事だ。驚いたことに、プーチンはミンスクでウクライナの指導者と会うことを歓迎し停戦を模索する用意があると述べたという。和平を構築しようとする人々は、紛争当事者を外交交渉のテーブルにつかせ、起きている問題の根本に迫る機会を常に求めなければならない。もしロシア側に誠実な交渉に入る意思がないならば、より機が熟すタイミングを探すべきだ。暴力の混沌の中にあっても、非暴力的な解決策へのコミットメントを決して見失ってはならない。
第3に、何が紛争をもたらしているかを理解しようと奮闘するのと同時に、紛争のあらゆる側にいる人間に焦点を当てることが大事であり、これによって人生が引き裂かれた全ての人々と連帯しなければならない。今この時、私たちの行動の原動力は、人命を守ることであり、苦しみの軽減であり、この流血の混乱のあらゆる当事者に人道支援を提供することでなければならない。
第4に、平和への唯一の道は平和的手段によるとのヨハン・ガルトゥングの原則を改めて思い起こす必要がある。すなわち、ロシアとウクライナで私たちが知る人々に連絡を取り、コミュニケーションを図ることである。彼らに寄り添い、彼らの人道上のニーズに応え、とりわけ、平和を求めることが逮捕につながってしまうロシアにおいて平和を構築する人々を育まなければならない。ロシアとウクライナの人々に、世界から見捨てられたと感じさせてはならない。現時点では指導者に注目が集まっているが、私たちと同様に戦闘に衝撃を受け、生活が一変し破壊されるなかで、支援を必要としている中央ヨーロッパの何百万人もの人々を無視してはならない。
政策決定レベルでは、深い分断と「鉄のカーテン」が再び欧州を覆ってしまうことがないよう、全ての紛争当事者間でハイレベルの意思疎通を維持することが不可欠である。西側諸国はロシアの指導者らに対して厳しい制裁を科しているが、ロシアの民衆を悪者扱いする罠に陥ってはならない。私たちの役割は、世界が分断されようという時にあって、人と人をつなげることにある。
最後に、私たちは周囲の人々に手を差し伸べ、協力して、戦争に替わる非暴力的な方法を探っていく必要がある。他の人々が非難している中でも、冷静さと集中力を保たなければならない。私たちは、自分の足元での個人と個人の関係、そして住んでいる国々の政治的関係について向上させるよう努力し続けなければならない。私たちは、尊敬の念を持ち、(敵を含めて)他者を尊厳をもって扱い、協力して解決策を模索し、分断が見受けられればいつでも橋渡しするという原則を守り抜くべきである。
何よりも私たちは、この新たな苦難に当たり気遣いと思いやり、愛をもって対応するとともに、勇気と希望を持ち続け、戦争が時代遅れとなる世界を思い描きながら対応する必要がある。私たちは、この災難が早く過ぎ去るよう、人間の本性にある良き天使の心を育んでいかなければならない。
この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
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