【トリポリINPS/Aldonyanews(レバノン)=イマーネ・デルナイカ・カマリ】
インドのナレンドラ・モディ首相は9月に地域協力組織「上海協力機構」首脳会議に合わせて開催した印露首脳会談の席で「今日、私たちは生存のために戦う必要はない。われわれの時代は戦争の時代である必要はない。実際、そうであってはならない。」と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して苦言を呈したが、この宣言が20カ国・地域(G20)バリ・サミットの最終コミュニケへの道を切り開いた。
今日の世界が地政学的、地経学的に困難な状況にあることは間違いなく、これらのリスクに効果的に対処する方法が見直されなければならない。
気候変動、テロリズム、パンデミック(疾病の世界的流行)など国境を越えた問題が広がる中、万人の平等と世界平和のために多国間協力が必要になってきている。
私たちは、土地や資源を巡って他国と争えば、どの国でも勝利と進歩が得られると信じようとした時点で失敗したのだ。
世界中の何十億という人々が欠乏の中で生活しているのに、私たちは自分たちの生存のためにこれらの資源を巡って争い失敗したのだ。
真の主権とは、何よりも人道的かつ普遍的な責任であることを知らずに、国家のいわゆる「主権」を口実に、戦争や虐殺への人道的介入を回避して、私たちは失敗したのだ。
さらに、国連は戦争を止め、紛争を防ぐことができなかった。残念ながら、国連は、諸国に対する権威ではなく、より高次の機関(=国連)に主権を譲渡することを拒否してきた諸国の手に委ねられた権威にとどまっている。
国連が政治的現実を変え、大国間の合意を形成し、紛争を消滅させることに失敗した後、多国間協議の仕組みが登場し、この暗いシナリオの中で状況を覆し、ゲームのルールを変えようと試みているのである。
その中でも、G20はユニークなプラットフォームであることは間違いない。
G20は、1990年代後半に東・東南アジアを襲った金融危機を背景に、中所得国の関与によって世界金融の安定を確保することを目的に、1999年に結成された。
G20 は世界の政府間フォーラムの一つとして登場し、20の先進国と発展途上国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、英国、米国、欧州連合)から構成されている。
G20は、世界のGDPの85%以上、商業の約75%、世界人口の60%を占める経済圏を代表している。
G20の議長国は加盟国間で毎年交代し、議長国を務める国は前・次期議長国とともに、いわゆる「トロイカ」を形成している。
インド(12月1日に就任)は、2023年12月末までG20の議長国を務め、9月の1ヶ月間、インドのG20議長国を癒しと調和と希望のあるものにするために、各国政府・首脳との会議を200以上開催する予定だ。
ここで、いくつか疑問が生じるかもしれない。つまり、インドは本当にこの世界に根付く戦争と紛争の論理を廃絶することができるのか?富と貧困の両極を際立たせるだけの現在の経済システムを改革するよう、世界を後押しできるのか?根本的な「一体感」を提唱し、人間の安全保障を確保するために、すべての人が共に行動するよう促すことができるのか?といった疑問だ。
実際、インドは多国間協議のプラットフォームにおいて途上国や新興国がより広く代表されるよう努力してきた。またグローバルサウスを代表して、何度もこうした国々の問題や不満を提起してきた。つまり、インドは今年の議長国として、途上国や新興国が関心を持つ問題をG20のトップテーブルに上げて強調することは確実であろう。
G20のロゴマークは、インドの文化、歴史、遺産を象徴する蓮の花をデザインし、インドの国旗の色であるサフラン、白、緑、青を使用した。ロゴの7枚の花びらは、7つの海、そして2023年に議長国インドに集う7つの大陸を表しており、蓮の花の周りに座ることで、世界がひとつの家族であるというインドのビジョンと、人類が難局を乗り越え勝利するためにインドが取るアプローチを表現している。
インドが掲げたG20のタイトル「一つの地球、一つの家族、一つの未来」は、「ヒンドゥー教の教典に登場し、インドの国会議事堂の入り口に刻まれている「世界はひとつの家族」を意味するサンスクリット語「Vasudhaiva Kutumbakam」に由来している。
モディ首相は、このG20のテーマを単なるテーマではなく、気候変動、食糧安全保障、医療、技術など、インドが世界の緊急課題と考える課題に取り組むことが使命であり責任であると考えている。
その上で、モディ首相は、私たちの家族において、最も必要としている人が常に最初の関心事でなければならないように、G20でも、その声が聞こえないことが多い「グローバルサウス」の国々のパートナーに優先順位をつけていくことを強調した。
さらに、来年インドが中国の習近平国家主席をニューデリーに迎えることは、平和への一歩となるだろう。特に、中印関係は、ヒマラヤにおける両国の国境をめぐる領土問題で現在行き詰っているからだ。
G20サミットに合わせてニューデリーでの開催が見込まれるロシアのプーチン大統領とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の会談は、外交と対話を通じて戦時下の両国の間に事態収束の橋をかける契機となり得るものである。
最後に、現在の地政学的な状況において、各国間の緊張が高まり、多国間機構がますます信頼性を失っている中、インドの課題は極めて困難であると思われる。
世界の人口の6分の1を擁し、マハトマ・ガンジーの思想に基づき賢明にも世界最大の民主主義国家と世界第5位の経済大国に成長したインドが、G20議長国への就任を、単なる多国間機関の議長交代に終わらせるのか、それとも世界を一つの家族に変える絶好の機会にするのか、今後一年を通じてその真価が問われることとなる。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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