【シンガポールIDN-INPS=趙洪】
東南アジア諸国は、依然として地域の市場統合と接続性という大きな難題に直面している。東南アジア諸国連合(ASEAN)は、海外投資を呼び込む機会としてだけではなく、東南アジアのインフラを自らの望む方向に改変するために、鉄道網や道路網、水路の建設を通じて接続性を強化しようとしている。
この機会は、海外インフラ整備の資金調達と高速鉄道建設において、アジアの巨人たる日中両国の競争を激化させている。
日本は東南アジアに1970年代から巨大投資を開始し、1990年代までには同地域を横断するインフラ接続のビジョンを形成した。日本の基本的な考え方は、地域内、地域間の相互接続性を確立し、地域内のさまざまな開発途上国を横断した経済回廊を建設し、ASEANの工業化と地域統合を促進するというものであった。
日本はASEANを「日本が決して失ってはならず、後れを取ってもいけない市場」と捉えている。2015年9月にジャカルタ・バンドン間の高速鉄道プロジェクト受注競争に敗れて以来、日本政府は融資政策を変更し、将来的に「高い質の」インフラ開発に貢献することを約束してきた。
2018年2月、安倍晋三首相とその内閣は、日本の新たな援助政策を策定し、日本の援助を「自由で開放的なインド太平洋戦略」実現のために活用する方針を明らかにした。2016年8月に安倍首相が導入したこの政策は、「質の高い」インフラ開発と海洋法の執行を通じて地域の接続性を強化することを目指すものであった。
中国が東南アジアに投資を開始したのは、日本よりもずっと遅い。同地域でインフラ開発に関わり始めたのは2000年代初頭。雲南省と広西チワン族自治区が東南アジア諸国との地域間交通網に重点を置き始めてからのことだ。
東南アジアでインフラの接続性を強化する中国の取り組みは、習近平国家主席が「一帯一路」構想を提案した2013年以降、加速してきた。中国のこの枠組みの下での東南アジアにおけるインフラ建設の長期的目標は、中国と東南アジアを結ぶ4500~5500キロ規模の鉄道線3本を含むアジア全域を結ぶ鉄道ネットワーク形成など、きわめて野心的なものだった。
ASEAN10カ国に対する中国の投資は、日本や、さらには米国に対してもかなり後れを取っているが、「一帯一路」の履行と、中国・ASEAN間の政策協調が強化されるにつれ、投資は増えてくるであろう。
互いに競争しているようにも見えるが、東南アジアにおける鉄道ネットワーク建設の戦略的計画は、日中で異なっている。日本は主に東西の接続を狙う。ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナムをつなぐ「東西経済回廊」を開発して日本の絡んだ複数の事業を融合させようとしている。その目的は、日系企業にその事業を拡大させ、インフラ接続を通じて東南アジア内外での生産ネットワークを最適化することにある。
中国の長期的目標は、南北を貫通するアジア鉄道ネットワークを構築することにある。クアラルンプール・シンガポール間の高速鉄道とつなぎ、東南アジア、さらにはその遠方への中国のアクセスを強化することをもくろむ。
日本政府は、インフラシステムの輸出を、長らく停滞する日本経済を再活性化するカギを握るとみている。インフラ開発は製造業部門からサービス部門へと拡張し、世界のマーケットへのアクセスを確保する効果的な方法を提供するビジネスだと見られている。安倍政権は、民間投資を通じて日本のインフラ製品の販売力を強化する決意だ。
中国にとっては、東南アジアのインフラ事業は政治的重要性も抱えた(もっぱら、一帯一路と中国が主導するアジアインフラ投資銀行の地政学的な重要性のため)ものでもあるが、より大きくは国内の経済的利益のためである。中国は、近隣諸国の開発戦略を受け入れ、それと連携していくことを通じて、同国西部の開発を加速しようとしている。
日本と中国には、東南アジアで共通の目標と経済的利益がある。両国は協調の重要性を認識し、第三国で共同のインフラ開発にあたるコンセンサスに到達している。安倍首相はこの10月に予定される中国公式訪問で特定の協力プロジェクトに関して合意を目指すものとみられている。
ASEAN諸国にとっては、日中両国は重要な投資源であり、主要な貿易相手国だ。両国はその金融・建設の能力を活かして、東南アジアのインフラプロジェクトに資金調達することを可能としてきた。
地域の接続性強化はASEANコミュニティの長期的目標である。ASEANには、「ASEAN統合作業計画」や、「2025年に向けたASEAN連結性マスタープラン」など、自らの目標がある。日本あるいは中国からの投資はこれらの目標と一致しないとみなされる可能性もある。
たとえば、個々の国に対する中国の投資が増すにつれ、中国と東南アジアを結びつける新たなインフラ接続が、ASEAN自体の接続性にとって脅威となるとの懸念が強まっている。日中の高速鉄道が両立可能なのかという心配もある。異なった技術を利用したシステムを地域のさまざまな国が採用した場合、鉄道ネットワークが問題を起こしかねないのだ。
したがって、ASEAN、中国、日本の間の地域的接続に関する協調と対話の効果的なメカニズムが必要となる。この種の多国間協調は日中間の信頼を強化しうるだけではなく、そのインフラ開発目標の効果を高めうる。日中というアジアの巨人が、国益という狭いレンズではなく、広範な地域的視野を持って物事を眺め始めるようになるのは、こうした取り組みを通じてであろう。(原文へ)
※著者は厦門大学(中国)東南アジア研究校教授。この文章は2018年9月15日に「東アジアフォーラム」に寄稿され、東南アジア地域外でも有益な記事であることにかんがみて再録されたものである。
INPS Japan
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