視点・論点セルジオ・ドゥアルテ再び非大量破壊兵器地帯への軌道に乗る中東諸国(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

再び非大量破壊兵器地帯への軌道に乗る中東諸国(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

中東地域における非核兵器地帯の確立は、国連の軍備管理・不拡散分野において最も困難な取り組みの一つである。この数十年間、他のいくつかの地域では、平和と安全を大いに高める非核兵器地帯を確立する条約の交渉・採択に成功してきた。

核兵器は、まずは、南極や宇宙、海底といった無居住地において禁止された。1967年、ラテンアメリカ・カリブ海地域は、人口居住地域における核兵器非核地帯確立のパイオニアとなり(トラテロルコ条約)、これに、南太平洋(ラロトンガ条約)、東南アジア(バンコク条約)、アフリカ(ペリンダバ条約)、中央アジア(セメイ条約)、さらにモンゴルが加わっている。

そのほとんどが南半球にある114カ国が、自らの領土において核兵器を認めず、その他関連義務を受け入れている。これらの国々は、背景の歴史・政治・経済・文化や直面する安全保障環境は異なるが、核兵器やその他の大量破壊兵器を保有していないという重要な一点では少なくとも共通している。

中東地域の状況は異なるが、域内の国々は長年にわたって、これを現実にすべく努力を続けてきた。

中東非核兵器地帯創設に関する最初の決議は、イランとエジプトが1974年に提案したもので、その後、昨年に至るまで、国連総会で無投票で毎年採択されている。安保理決議の中にはこの提案を認めたものもある。同様に、1991年以来、国際原子力機関(IAEA)総会が、中東のすべての核施設へのフルスコープ保障措置の適用は「非核兵器地帯確立への必要なステップ」であるとする決議を毎年採択している。

1988年、国連は中東非核兵器地帯の推進につながる措置に関する研究を行い、主に信頼醸成措置の形でこの件に関する勧告を出した。1989年、IAEAはこの目標に向けたステップとして、中東地域の核施設に適用可能な保障措置システムの形態に関する研究を行った。

核不拡散条約(NPT)寄託国であるロシア、英国及び米国が共同提案した決議が一つの突破口となった。中東地域に、効果的に検証可能な核兵器などの大量破壊兵器のない地帯(非大量破壊兵器地帯)の創設を目指す決議案が採択されたのである。

1995年のNPT再検討・延長会議においてこの「中東に関する決議」は、他の文書(「条約の運用検討プロセスの強化」「核不拡散と核軍縮の原則と目標」)とパッケージで、NPTの無期限延長が投票によらない無評決で決定された。しかし、中東諸国間の厳しい対立と、域外諸国も含めた脅威認識や安全保障上の懸念を巡る立場の相違から、これまで実質的な進展はみられていない。

2000年、NPT再検討会議は、中東非大量破壊兵器地帯によって、世界及び中東地域の平和と安全は高まり、不拡散レジームの強化につながり、核軍縮という目標の達成に向けて寄与するところが大きいとの認識を再確認した。同会議は、進展の少なさに遺憾の意を示し、1995年中東決議の完全履行を5つの核兵器国が改めて公約したことに留意した。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

国連事務総長と1995年中東決議の共同提出国が主催して、中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議を核兵器国からの全面的な支援と関与を得て2012年に開催するという了解を2010年NPT再検討会議が是認したことで、出口が開かれたかに見えた。

国連事務総長と1995年中東決議の共同提出国は、中東諸国の協力を得て、同決議の履行を支援する任務を与えられたファシリテーターを任命することになっていた。ファシリテーターは、2015年NPT再検討会議とその準備委員会会合に報告することになっていた。さらに、2012年会議のホスト国が指名されることになっていた。

これに従って、国連の潘基文事務総長は1995年中東決議の3つの共同提出国及びその他の関連各国と協議を行い、フィンランドの外交官ヤッコ・ヤーラバ氏をファシリテーターに指名した。その後数年にわたってヤーラバ氏は、イスラエルやその他の中東諸国と協議を行ったが、進展ははかばかしくなかった。

2015年NPT再検討会議では新たな努力がなされたが、2016年までに中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議を開くとの議長提案を米国・英国・カナダが受け入れなかった。これらの国々は、この提案は「コンセンサスと平等」の原則に則っておらず、「実現しえない条件」と「恣意的な期限」を含んでいると主張した。こうして2015年の再検討会議は実質的な最終文書の採択に失敗した。

中東諸国には失望が広がり、2018年会期の国連総会では別の戦略が採られた。国連総会では、NPT再検討会議のような全会一致原則とは異なり、多数決で決定がなされる。そこでエジプトが、中東非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議を、2019年と、同非大量破壊兵器地帯が達成されるまで毎年招集することを国連事務総長に義務づける決議を、国連総会第一委員会に提出したのである。

決議は、賛成88、反対4(イスラエル・リベリア・ミクロネシア・米国)、棄権75で採択された。

これに従って、アントニオ・グテーレス事務総長は中東非核・非大量破壊兵器地帯化に関する会議を招集した。この第一会期は、ヨルダンのシーマ・バホウス大使が議長を務める形で、今年11月18日から22日にかけてニューヨークの国連本部で開かれた。

中東地域からは23カ国が参加した。NPT上の5つの核兵器国はオブザーバーとして招待された。中国・フランス・ロシア・英国は招待を受諾した。参加者らは、手続規則に関する合意がなされるまでの間、手続き的・実質的内容について全会一致で議論をすすめることで合意した。手続規則は、会期の間に協議が継続することになっている。

Conference on the Establishment of a Middle East Zone Free of Nuclear Weapons and Other Weapons of Mass Destruction by UNODA
Conference on the Establishment of a Middle East Zone Free of Nuclear Weapons and Other Weapons of Mass Destruction by UNODA

テーマ別討論は、原則と目標、核兵器に関する一般的義務、他の大量破壊兵器に関する一般的義務、平和利用、国際協力、制度整備、その他の側面について話し合いがなされた。来年の第二会期に先立ち、既存の非核兵器地帯の加盟国の代表が招待され、これまでの経験と教訓を共有することになっている。

会議が採択した政治宣言は、核兵器とその他の大量破壊兵器のない地帯を検証可能な形で創設出来れば、中東地域及び国際の平和と安全に寄与する部分が大きいという参加各国の見解について述べ、中東諸国の自由意思による取り決めを基礎とした法的拘束力のある条約の策定を、オープンかつ包摂的に追求する意図を確認した。

そうした考えから、同会議は、この政治宣言を支持しプロセスに参加するよう、すべての国々に呼びかけた。参加諸国はまた、政治宣言と同会議の成果に対するフォローアップを行うことを公約した。次の会期は、ニューヨークの国連本部で2020年11月16日から20日にかけて開かれる。

中東非大量破壊兵器地帯の実現を目指した国際社会のこれまでの取り組みの歴史と、今日の中東地域の政治状況や緊張状態を考慮に入れるならば、今回の会議の最終成果は、まずまずの成功と言って差し支えないだろう。なぜなら、短期的な目標は、後に進展をもたらしうるプロセスを確立することにあると言えるからだ。

Sergio Duarte
Sergio Duarte

会議にイスラエルと米国が参加しなかったことは織り込み済みだが、会議が予定通り開かれることを妨げるものではなかった。両国が近い将来に立場を変えないことは明らかだろう。中東地域の国々がこの目的の下に団結し、落とし穴を避け得たことは特筆に値する。

しかし、安全保障環境に関する多様な見方を今後のプロセスのなかで調整していかなければならない。今後の会期のなかで、意思決定方法が引き続き主要な議論の対象になり続けることだろう。一部の国々が、他の方法よりも全会一致方式が望ましいとしているからだ。採られるべき次のステップに関する会期間の議論が重要になってくる。

中東諸国や関連主体、わけても核兵器国の強い意志と外交的スキル、創造性、とりわけ政治的意志が、中東を核兵器とその他の大量破壊兵器のない地帯にする道筋を進むうえで必要となる。国際社会は、この取り組みに対して全面的に支援すべきだ。(原文へ

INPS Japan

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