【東京IDN=相島智彦】
この夏に開かれた核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議では、最終文書の採択には至らなかったが、核兵器使用のリスクを減らすための議論が繰り返されたことは、わずかではあるが希望となった。核兵器の先制不使用(NFU)の方針が、会議の歴史で初めて最終文書案の中で言及されたのである。
核軍縮の進展が止まったこの最も激動の年に、核リスク低減に関する多国間での進展があったことを認識することができる。
第一委員会の一般討論の初日(10月3日)、中満泉・国連軍縮担当上級代表は次のように述べた。「私はすべての核兵器保有国に対し、人類を絶滅の危機から救うための緊急措置として、いかなる核兵器についても先制不使用を約束するよう緊急に訴える」。この呼びかけは、8月のNPT再検討会議において、多くの非核保有国や市民社会の代表が上げた深い懸念の声と完全に調和している。
池田大作SGI会長は、NPTの核兵器国5カ国(P5)に対し、1月の核戦争防止に関する共同声明を順守し、「先制不使用」の原則を直ちに宣言するよう促した。また、核兵器を保有するすべての国や核依存国の安全保障政策として普遍化するよう求めた。
第一委員会の討議に参加した国の発言には、この文脈で重要なものがいくつもある。まず、すでにNFUを宣言しているインドと中国の2つの核保有国が、この政策を世界の理想像として推進していることである。そして、中国は、核保有国は核兵器の先制不使用を約束すべきであるとし、P5に対して、核兵器の相互先制不使用に関する条約を制定することを促した。
また、米国は、核政策においてリスク低減の追求を優先させるとしている。これに対してロシアは、自国の核抑止政策は純粋な防衛的性格のものであると宣言している。また、英仏は、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」とした1月の共同声明に引き続きコミットすることを表明している。これは核軍縮の努力を長年支えてきた精神であり、国際社会が厳粛に見守る中で行われたこれらの声明に見合った行動をとることが肝要である。
リスクの低減は軍縮と同じではないが、「先制不使用」の姿勢を貫くことで、安全保障政策における核兵器の役割を低減することができる。これは、世界的なイデオロギーの闘争によって高められた緊張を和らげ、すべての当事者が崖っぷちから一歩下がり、恐怖と不信による自縄自縛の連鎖を断ち切って、核軍縮に向けた有意義な交渉を再開させるための条件を整えることができるだろう。
釈尊が水利権をめぐる2つのコミュニティーの対立を調停したときの言葉は次のようなものである。「殺そうと争闘する人々を見よ。武器を執って打とうとしたことから恐怖が生じたのである」(『ブッダのことば』中村元訳、岩波文庫)。
この言葉は、軍備を増強することで、真の意味で持続的な安全保障を実現することはできず、むしろ恐怖感や相互不信、危険性を増大させるという現実を証明している。中満氏が指摘するように、核兵器の場合、その危険性は人類の存亡に関わるものである。
この機会を捉えて、すべての国が核保有国の先制不使用を求め、この原則を支持することで、消極的安全保障をすべての非核兵器国に事実上、拡大することが必要である。
核兵器のない世界の実現は、人類社会のすべての構成員に固有の生存権を保障するために、実現しなければならない重要な目標であることは言うまでもない。核兵器は決して使われてはならず、この悲惨な事態を防ぐために有効な手段を講じるという明確な認識こそが、この目標への道筋を支えるのである。(原文へ)
INPS Japan
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