【国連IPS=タリフ・ディーン】
核兵器の廃絶と、この恐ろしい兵器の拡散をいかに阻止するかということが、5月3日から約1カ月に亘って国連を舞台に開催される核不拡散条約(NPT)運用検討会議における主な協議事項となっている。
5年に一度開催されるこの会議は、米国のバラク・オバマ政権が「核兵器のない世界」を目指すとする不可能に近い公約が行われた中で開催されることとなった。
体制内外の核保有国が、少なくとも何の前提条件もなしに自国の核兵器を廃絶したり放棄したりする意思を示していない中、オバマ大統領の公約は実現には至らないかもしれない。
ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長は、「市民社会は1980年代以来最大規模となる運動を展開し、世界規模の核廃絶合意を目指した協議を求める嘆願書に1000万人を超える署名を集めました。」と語った。
しかしバローズ氏は、5月3日から28日まで開催予定のNPT運用検討会議は「イランの核開発プログラムを巡る対立を解決したり、北朝鮮による核兵器取得の流れを転換したりする場にはならないだろう。」と警告する。
タリフ・ディーンIPS国連総局長のインタビューに応じたバローズ氏は、「NPT運用検討会議が望ましい結論を導き出す要素は確かにあります。」と語った。
「それは世界の大半の国々がNPT体制崩壊へと進んできたこの10年の流れを逆転したいと決意していることです。」と。バローズ氏は語った。
バローズ氏は、「オバマ大統領は核兵器の危険性について雄弁に説明し、『核兵器なき世界』というビジョンを明確に示したうえで、その目標に向けた一連の動きを開始しました。とりわけ、米露両国は4月8日に新戦略兵器削減条約を締結し、長距離核弾頭の削減状況を相互に検証するシステムを復活させました。」と語った。しかしバローズ氏は同時に、「もっとも、削減規模は世界の国家社会を滅亡させる破壊力を維持したままの小規模なものにとどまっていますし、米国はその一方で武器製造能力の向上に予算増強を図っています。」と、依然として山積する課題についても指摘した。
以下にインタビューの抜粋を紹介する。
IPS:NPT運用検討会議はほぼ一カ月に亘って開催されるわけですが、今回の会議に何を期待されていますか?また、会議を成功と判断する基準をどこに置いていますか?
バローズ:もし今までの主な合意事項が再確認され、核兵器の削減・廃絶への具体的な方策について(米露のみならず他の)核保有国間の合意がなされ、追加議定書(各非核保有国が自国の核関連活動への査察アクセスと透明性を高めることに合意する)のような核不拡散体制強化措置への支援が表明されれば、会議は成功だと思います。
しかし、交渉は3つの議論が争われている分野で、激しく困難なやり取りが行われるでしょう。一つ目の争点は、核軍縮に向けた行動計画に関してです。おそらく、1995年及び2000年のNPT運用検討会議における合意内容の改訂版を今回の会議で認めることは、それほど困難なことではないでしょう。そうした合意内容には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、核兵器用核分裂物質の生産禁止に関する交渉の開始、核兵器削減への不可逆性の原則の適用、安全保障政策における核兵器の役割低減が含まれています。
IPS:会議成功への障害は他にどのようなものがあるでしょうか?
バローズ:2つ目の争点は、核兵器の拡散防止強化に関する分野です。具体的には、追加議定書の適用を通じた国際原子力機関(IAEA)の査察権限の強化、核施設用燃料の生産と供給を多国間の管理下に置く仕組み、NPT脱退に関する制限の追加、等が含まれています。
こうした追加措置に対しては、多くの非核保有国が、NPTに加盟し規則順守を通じて既に十分な貢献を行ってきたとして、受入れに難色を示しています。ただし、例えば「追加議定書」の締結を各国に促すといった、より緩やかな公約については合意にたどり着ける可能性は十分あります。
3つ目の争点は、1995年のNPT運用検討会議で採択された「中東に関する決議」、すなわち、中東大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)フリーゾーン構想の実現に向けて前進を図ることができるかどうかという点です。これはアラブ諸国にとって非常に重要な点であると同時に、イランの核兵器開発疑惑を巡る論争解決の一助ともなり得る可能性を秘めています。この点については、1~2年後にこのテーマについて協議する国際会議を招集することで合意がなされる可能性がでてきています。
IPS:その他にもNPT運用検討会議中に障害として浮上してくるものがあると思いますか?
バローズ:核兵器の削減プロセスに、米露以外の核保有国を組み込んでいく多国間核軍縮交渉も複雑な課題です。オバマ政権は、原則的にこのアプローチを支持していますが、近い将来における具体的な方策はなにも提示していません。もしかするとそのあたりで進展があるかもしれません。
IPS:2005年の運用検討会議は実質的内容のある「最終文書」を不採択で閉幕しましたが、今回の会議では「最終文書」の採択に成功するでしょうか?
バローズ:今回の会議で「最終文書」採択に至るためには、各国がこれらの争点について合意することに加えて、独自の目的から協議結果を妨害したい国が現れないことが条件となります。たとえ、各国のコンセンサスが確保できなかったとしても、「最終文書」以外の方法で、幅広い合意がなされていることを示す方法を見出すことができるでしょう。
IPS:米国や西欧諸国が、核兵器開発疑惑で(NPT加盟国の)イランに対して制裁を求める一方で、インド、パキスタン、イスラエルといったNPT未署名の核保有国に対しては異なった対応をしていることから、これを偽善でダブルスタンダード(二重基準)だとする見方もありますが?
バローズ:核不拡散体制は二重基準というよりも実に三重基準という根本的な問題を抱えています。NPTそのものは2階建て構造で、核兵器廃絶に向けた交渉義務を有する核保有を認められた国々と、核兵器を取得していないことを証明するため査察の受け入れを義務付けられている非核保有国から構成されています。そしてそれらの国々の他に、NPT未加盟で事実上核兵器を保有している国々-インド、パキスタン、イスラエル、(そして最近は)北朝鮮-があるのです。
このことは、核兵器の取得が禁じられているNPT加盟国の間に不公平感を呼び起こしています。また原子力供給国グループ(NSG)が、米国の圧力でインドを例外扱いしたことは、こうした不公平感にさらなる拍車をかけることとなりました。それはNSGが、NPT加盟の核保有国に課されている核軍縮義務や約束を公式に認めてさえいない国に対して核関連の商取引を認めたからです。
一方で、NPT加盟の非核保有国であるイランが核兵器製造能力を得ようとしているとする疑惑から検査、制裁の対象になっています。こうした三重基準の問題を解決する方法は一つしかありません。それはすなわち、「核兵器の保有を認めない」とする単一の規則を全ての国々に適用する全地球的な体制を創出することです。
この体制をいつどのように達成するかについては多くの意見がありますが、この基本的なポイントは、エリートと一般大衆、先進国と途上国、平和活動家と安全保障専門家の違いを問わず、ますます多くの方面で受け入れられてきているのです。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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