【国連IPS=ゲオルグ・ケル】
相当多数の企業がより良い世界のために投資を行っているような時代を、私たちは想像することができるだろうか? つまり企業が、経済的な意味合いだけではなく、社会的にも、環境的にも、倫理的にも、長期的な価値に奉仕するような世界を―。10年以上前ならそうした世界を想像することすらできなかったが、今は世界的な運動が進行中だと自信を持って言える。
1990年代末までに、なんらかの行動をとる必要性は明白だった。多くの意味において、世界の多くの地域が、国際投資・貿易の急拡大に伴う成長と機会から取り残されているようだった。コフィ・アナン国連事務総長が1999年のダボス会議で財界指導者らに対して「グローバル市場に人間の顔を与えるための、共有された価値と原則のひとつのグローバルな協定」を国連との間に結ぶよう提案した背景には、このようにグローバル化の進展によって企業と社会の間の関係が脆弱になり様々な危険を孕んでいた現実があった。
2000年の立ち上げ時には40企業で始まった「国連グローバル・コンパクト」は、今日では140か国から・8000の企業(先進国と途上国双方の企業で、ほぼ全ての産業部門・産業規模にまたがり、従業員数は約5000万人におよぶ)の署名にまで膨らんでいる。
各参加企業は人権を尊重・支援し、適正な労働環境を確保し、環境を保護・回復し、良質のコーポレート・ガバナンスを実施することを公約したうえで、その進捗状況を公開している。これに加えて、4000におよぶ市民社会からの参加団体は、企業に公約内容に関する説明責任を求めたり、共通の目的のために企業とパートナーを組むといった重要な役割を担っている。
今日、「国連グローバル・コンパクト」には100の国別ネットワークがあり、同じような考えを持つ企業を集めて現場で行動を促進したり、普遍的な原則と責任ある企業行動を定着させる取り組みを進めている。このネットワークは、グローバルな規範や問題のプラットフォーム、国別の枠組みにおけるキャンペーンを根付かせるために重要な役割を果たし、地域の活動や意識を加速させるための重要な基盤を提供している。
世界中の企業が、持続可能性をますます重要視していることは明らかだ。現実には、環境、社会、ガバナンス面での問題が最終的な収益に影響を及ぼしている。つまり、市場の混乱、社会不安、自然環境破壊は、サプライチェーンや資本の流れ、従業員の生産性を通じて、ビジネスに大きな影響をもたらしている。
私たちはまた、一般民衆がかつてないほど政府や民間部門にその行動に対する説明責任を負わせる力を身に着けた、高度な透明性が要求される世界に住んでいる。単にリスクを軽減するだけでは不十分であり、ビジネスを展開している地元コミュニティに対して積極的に貢献するよう求められていると企業が認識するようになるなど、根本的な変化が起きている。
リスクよりも企業の行動を促しているのは、グローバル化することによって生まれる機会の方である。経済成長の主軸が「西」から「東」へ、そして「北」から「南」へと移行するにつれ、益々多くの企業が、従来の資源の利用者から市場の構築者へと変貌を遂げてきている。
責任ある企業は、極端な貧困や、教育の不足、ジェンダー不平等、環境の劣化といった複雑な問題に直面すると、破綻した社会では繁栄できないと考え、自らを長期的には対等の利害関係者であると見なす。これが、企業と社会の共有の価値を創り出す解決策に寄り添い、ともに投資する企業行動を促している。
また、企業と社会の相互依存性も高まっている。企業は、保健や教育から、地域投資や環境保護にいたるまで、かつては公的部門の限られた仕事だと見なされていたような領域において、より積極的に貢献するよう期待されている。実際、最高経営責任者(CEO)の6人のうち5人は、世界的に優先順位の高い問題について企業が主導的な役割を果たすべきだと考えている。これはきわめて望ましい動きだ。
これまでに大きな進展がみられるが、取組むべき課題は未だに山積している。どこの企業も、持続可能なことに対しては一層の貢献が求められる一方で、持続可能でないことはやめるよう求められている。持続可能性が企業文化や企業活動のDNAとならなければならない。重要なのは、まだ行動していない企業、とりわけ変化に対して積極的に反対している企業に働きかけることである。
このイニシアチブを本格的に稼働させるためには、企業インセンティブ構造に持続可能性の価値を取り込むようにしなくてはならない。諸政府は、企業に好意的な環境を作り、責任ある企業行動にインセンティブを与えねばならない。金融市場は短期的投資をやめ、投資行動において長期的なリターンが根本的な基準となるように変わらねばならない。企業によるよい環境、社会、ガバナンスのパフォーマンスが支持され、利益を生むとの明確なシグナルが必要だ。
今年、諸政府と国連が2015年までに持続可能な開発目標の策定を進める中、企業には、社会に対する誓約に関して「義務を果たす」大きな機会が待っている。この2015年以後の開発アジェンダには、すべての主要なアクターを行動に駆り立てる力がある。民間部門がその中で果たす役割は大きい。
これらの開発目標やターゲットは、企業が自らの持続可能性に関する進展具合を評価し、グローバルな優先事項と関連した企業の目標を打ち立てるような枠組みにつながるかもしれない。この機会は、企業にとっての価値のみならず、公共の利益を作り出すうえでも重要である。
将来はどのようなものになるであろうか? 持続可能性の新たな時代を達成するための下地はできている。よいニュースは、グローバル市場の大多数を占める見識ある企業が、問題解決の一部であろうとする意志を持ち前進していることである。持続可能性を追求するとの企業指導者の決定は、状況を一変させることができる。私たちは漸進的ではなく革新的な変化へと進むことができる。そのなかで、責任ある企業は善を生み出す力となることが示されるだろう。(原文へ)
※ゲオルグ・ケルは、企業よる自発的な持続可能性に対する取り組み機関としては世界最大の「国連グローバル・コンパクト」事務所長。
翻訳=IPS Japan
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