【ダルエスサラームIPS=アグネス・オジャンボ】
「おまえはもう学校に行ってはいけない。この男性が既におまえの持参金を払っているので、結婚しなければならないんだよ。」と、ある日マチルダ.Tは父親に告げられた。彼女は当時14歳で、小学校(タンザニアの義務教育は小学校の7年間。中学校は義務教育ではない:IPS)の卒業試験に合格し公立中学校への入学が認められたばかりだった。彼女は父親に勉強を続けさせてほしいと懇願したが、聞き入れられなかった。
結局、マチルダ.Tは34歳になる既に妻が一人いる男性と無理やり結婚させられた。彼女の家族は既に婿側から4頭の牛と70万タンザニアシリング(約435ドル)を受け取っていたのだ。
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の調査に対してマチルダ.Tは、「学校に行けなくなり、とても悲しかったわ。」「母はなんとか結婚をやめさせようと村の長老達に助けを求めてくれたのだけど、長老達はむしろ私が結婚すべきだとする父の決定を支持したのです。」と語った。しかしマチルダ.Tの夫は、彼女を肉体的・性的に虐待したうえに、結局彼女を養う余裕もない人物だった。
HRWの新報告書「追いつめられて:タンザニアにおける児童婚と人権侵害」は、タンザニア大陸部(同国は大陸部と島嶼部からなる連合共和国:IPSJ)における児童婚の実態を綿密に調査したものである。タンザニアでは10人に4人の少女が18歳の誕生日を迎える前に結婚している。国際連合はタンザニアを児童婚率が最も高い(=全体の3割を超える)41カ国の一つに指定している。
HRWはこの報告書の中で、児童婚がいかに少女や女性を夫の性暴力や女性器切除(FGM)といった搾取や暴力、さらには、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)のリスクに晒しているかを記録している。とりわけ、児童婚と教育へのアクセスが制限された環境との間の因果関係に着目している。
タンザニアでは、少女らは教育を受けるうえでいくつかの深刻な障害に直面している。つまり、マチルダ.Tが経験したような女性に教育を与える価値に関する社会の固定観念に加えて、少女の教育へのアクセスを阻害し未成年の結婚を促進するような政府の差別的な政策や運用がまかり通っているのである。
タンザニアでは、結婚は少女にとって教育機会の終わりを意味する。また、結婚していたり妊娠していることが判明した生徒は、学校から締め出されている。
またタンザニアの学校は、定期的に妊娠検査を女生徒に義務付けており、該当者を随時退学処分にしている。HRWは妊娠が発覚して学校を追われた数人の少女に聞き取り調査を行った。また中には、女生徒が自身の妊娠を知り、学校で処罰されることを恐れて自主的に登校を止めたものもいた。
そのような経験をしたシャロン.J(19歳)は、小学校の最終学年時に退学処分になった時のことを回想して、「校長先生は私が妊娠していることを知ると校長室に呼び出し、『君は妊娠しているから今すぐこの学校から出ていきなさい。』と言いました。」と語った。
教育・職業訓練省による2013年度指導要綱は、十代の妊娠を抑制する手段として、引き続き学校に定期的な妊娠テストの実施を義務付けるよう勧告している。2014年6月に内閣の決議を得た新たな教育・職業訓練政策には、退学後の出産や「その他の理由」による復学に関する規定が設けられているが、既婚女性がそのまま通学できるか否かについては、残念ながら何も明記されていない。
現在政府が採用している初等教育修了者学力試験(PSLE)制度は、貧しい家庭出身の子どもたちに不相応な影響を及ぼし、少女らを児童婚のリスクに追いやっている。タンザニア政府は、同学力試験を評価ツールというよりもむしろ、どの生徒を中学校に進学させるかを選別するためのツールとして活用している。この試験で不合格となった生徒には再試験のチャンスは与えられず、事実上、公立中学校への進学の道が閉ざされることになる。
ただしこの試験に失敗しても裕福な家庭の子どもには私立の中学校への進学する選択肢が残されている。しかし不合格となった娘を私立学校に進学させる余裕がない両親は、娘の結婚を次の実行可能な代案と考えるのである。
19歳になるサリア.Jは、初等教育修了者学力試験に失敗したあと、15歳の時に無理やり結婚させられた。
「卒業試験に失敗した私は、私立の中学校に進学する以外に選択肢はないと思っていました。しかし私の家庭は貧しかったので、結局家でなにもしないでいた私を見かねた父が、ある男性と結婚させる決断をしたのです。」とサリア.JはHIRWの聞き取り調査に対して語った。
教育機会を奪われた少女らは様々な機会や、自身の人生について十分な情報を得たうえで判断する能力も制限されることになる。しかしこうした事態が放置されれば、最終的には、少女の家族やコミュニティーもその代償を払わされることになるのである。
タンザニア政府は、高い児童婚率を抑制しその影響を緩和する包括的な計画を早急に策定し実施すべきである。そして、そうした計画には、少女を児童婚のリスクに晒している教育システムの課題に取り組むための、目標を絞った政策や計画的な対策が含まれるべきである。
またタンザニア政府は、現在全ての女生徒に義務付けている妊娠検査や、婚姻や妊娠が発覚した女生徒を強制的に退学させる政策を直ちに中止すべきである。そして同政府は、少女らを学校に通わせるるとともに、既婚や妊娠した少女が学校に残れるよう地域コミュニティーに協力を促す計画を策定すべきである。
HRWが聞き取り調査した少女たちの多くは、教育課程を修了できなかったことを後悔しており、在学中に妊娠したり結婚した少女らが学校教育を拒否されないよう政府が対策を講じてほしいと願っていた。タンザニア政府は現行の教育制度の問題点を一番よく知っている者たち、つまり少女達自身の声に耳を傾けるべきだ。(原文へ)
長い目で見れば、タンザニア政府は、初等教育修了者学力試験の結果に関わらず全ての子どもたちが中学校に入学できるようあらゆる手段を講じることで、初等後教育へのアクセスを増やす措置を取るべきである。
*この記事で表明されている見解は著者個人のものであり、IPSの編集方針を反映するものではない。
翻訳=IPS Japan
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