【ローマIDN=ロベルト・サビオ】
しかし、移住がもたらすポジティブな影響は枚挙に暇がない。フランス国立科学研究センター(CNRS)が欧州15カ国(2015年にシリア、イラク、アフガニスタンから多数の移民が欧州に流入した際、難民申請の89%を受入れた国々)における30年に及ぶ移住者受入動向を研究した調査報告書が参考になるだろう。
それから4年が経過し、GNPは0.32%上昇した。報告書の著者の一人であるヒポリト・ダルビス教授は、移民の受入れと財政の関連について、「もちろん移民を受け入れた当初は費用がかかりますが、この公的支出は社会に対する再投資となるのです。つまり10年も経過すると元移民は一般住民よりもより多くの富を築いており、こうした貢献は一般の統計にとけ込んでいるのです。」と記している。
飢餓と戦乱を逃れて欧州にきた人々の夢が、少なくとも10年の間は、一刻も早く仕事を見つけ、税金を支払い、生活の安定と将来を確保するために一生懸命働くというのは明らかである。
移民受入国における新右翼(オルタナ右翼)とかつての右翼の違いは興味深い。旧右翼は、移民が低賃金労働を担っていることから、反移民ではなかった。彼らは国粋主義的な傾向があるが、決して外国人嫌い(反ユダヤ主義はさておき)ではなかった。ところがオルタナ右翼は、統計や経済に関心を持たず、ひたすら恐怖を駆り立て権力を掌握することに関心を示している。
それが現実となっている事例がフェイクニュースである。トランプ大統領は、自身の英国訪問に反対しロンドン中心部を占拠した25万人に及ぶデモ参加者を、実は自身の支持者だったと主張した。ここまで主張するには、単なるナルシストというのでは不十分で、現実を反転させる必要がある。
問題は、こうしたフェイクニュースを受け取る側の人々である。かつてなら、トランプ大統領が25万人に及ぶデモ参加者の意図を捻じ曲げたことは、失笑を買っただろう。しかし今日では、トランプ支持者にとって、彼のツィッター投稿内容は、議論の余地がない真実なのだ。
トランプ大統領の金正恩北朝鮮最高指導者との会談は、なんら明確な結果を生み出すことはなかった。トランプ大統領はまた、多国間の合意がなされているにも関わらず、問題の解決になっていないとして、イランとの核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)からの一方的な離脱を表明した。また、7月にブリュッセルで開催された北大西洋条約機構(NATO)サミットでは、全加盟国の現状を非難したうえで、加盟各国による防衛費の支出を国内総生産(GDP)比4%(現在の目標値の倍)に引き上げるよう要請した(米国の国防費はGDP比3.6%)。さらに、英国を訪問した際には(EUとの関係を重視する穏健な離脱方針を示した)テレサ・メイ首相に注文を入れる一方で、最近辞任した離脱推進派のボリス・ジョンソン氏を称賛した。トランプ大統領はメイ首相に対して、交渉しにきたのではなく要求を通すためにきたと語っている。
トランプ大統領は続いてロシアのウラジーミル・プーチン大統領とヘルシンキで会談した際、2国間関係が悪化した原因は米国にあり、2016年の米国大統領選挙におけるロシアの干渉疑惑を否定するプーチン大統領の主張を信じると述べた。さらにトランプ大統領は、米諜報当局、法務省、ロバート・ムラ―特別検察官による同ロシア疑惑に関する調査は米国にとって不名誉なものだと語った。
米国の歴史の中で、大統領が同盟国の指導者を叱りつけ、敵対国の指導者を称賛しても、共和党の有権者(熱烈なトランプ支持者)が眉をひそめさえしなかったことが、かつてあっただろうか。
事実、ヴァラエティーオブデモクラシー (V-Dem)が昨年6月に発表した世論調査によると、民主主義の概念そのものが危機に直面している。
その世論調査では、3000人以上の学者や専門家に178カ国の民主主義の基本要素について質的な現状を査定するよう依頼した。これによると、2016年末現在、ほとんどの人々が民主主義的な社会に暮らしていたが、それ以来、全体の3分の1にあたる約25億人の人々が、政治指導者或いは政治指導者らが民主主義的な特性に制限をかけたり次第に一方的な支配に偏ったりしていく「独裁的傾向」を目の当たりにしてきた。
最も人口が多いインド、ロシア、ブラジル、米国において、こうした独裁的傾向がみられる。その他、過去10年間に民主主義が後退した大国としてはコンゴ、トルコ、ウクライナ、ポーランドがある。
米国は2年間で順位を7位から31位に下げている。米国議会は大統領の権限を抑えようとはせず、野党は与党に対して影響力を及ぼせないでいる。そして司法が3権分立のバランス作用というよりも、むしろ党派色を強めている。米国最高裁は、かつて行政に対する対抗勢力みられていたが、今やそのランキングは48位に低下している。
マッキンゼーグローバル研究所が行った世論調査によると、米国人の41%が、もし自分が支持する政治指導者が憲法の規定を超えて政権の座に留まるとしたら、民主主義体制のもとで暮らしていなくてもかなわないと、回答している。
民衆は、自身が支持する人物を投票で選ぶものだ。従って、いかなる国にも、プーチン、エルドアン、オルバン、トランプ等、有権者が選んだ指導者がいる。…これは前世紀のムッソリーニやヒトラーも同じである。もし民衆が、神が遣わした、しかし現実を顧みない救世主の声に耳を傾けたいならば、それは有権者の権利でもある。私たちにできることは、夢遊病者になる人々が増えている現状を嘆くのみだ。
しかし深刻な問題は、このような世界観は近い将来に必ず大惨事を引き起こす点である。例えば、工業先進国が世界的に競争力を維持したいのならば、早急に適切な移民対策を講じて必要な人材を受け入れられる基準を作成しなければならない。
しかし、現実をよそに全ての移民が脅威として喧伝されている今日の状況では、これは現実には起こらないだろう。アフリカ大陸の人口は、向こう数十年で2倍に増加する。ナイジェリアは、現在の欧州全体の人口にあたる4億人に到達するだろう。現在、アフリカの人口の6割が25歳以下だ。一方、米国の場合25歳以下は全人口の32%、欧州の場合は27%である。
はたして欧州の人々は、(一部の外国人嫌いが求めているように)移民を徹底的に排除して、年金や社会保険がない(或いはあっても僅かな)老人たちが暮らす一地域へと衰退していくのだろうか。欧州はまた、独自のアイデンティティーや、欧州憲法のみならず各国レベルの憲法に謳われている価値観を喪失していくのだろうか。
フランス議会は憲法の条文から「人種」の文言を削除したし、ポルトガル政府は、安定した職に1年以上就業した移民に同国の市民権を付与する意向だ。
一方、オランダ政府は、イスラム過激派組織ISISに加入したオランダ人の子どもについて、憎しみと暴力に満ちた生育環境がオランダ社会に対する脅威になるとして、議会の支持を得て、同国への入国を拒否する決定を下した。
かつてオランダは、寛容のシンボルとして数世紀にわたって宗教や政治上の迫害を逃れる難民を受入れてきた。今日、オランダは高い生活水準を享受する1720万の人口を擁する国だ。それでは問題となっている元ISIS関係者の親を持つ子供がどれだけいるというのだろう。驚くべきことに僅か145人である。今日置かれている状況に対して何の責任もない子供たちが、恐怖の記憶を拭い去り国際法で不可侵の権利とされている自らの国籍に伴う利点を享受できる受け入れ先家庭を見つけることは、不可能なのだろうか。一方、米国政府は5000人以上の子どもを移民の両親から引き離している。
西側社会はかつてない横顔を見せてきているが、このような新しい欧州や米国の現実は、はたして市民が本当に求めているものなのだろうか。(前編へ)(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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