【IPSコラム=ニコール・キッドマン】
女性の3人に1人は、虐待や暴力を耐え忍んで暮らしています。これは広く行われている恐ろしい人権侵害ですが、目に見えない、認識の薄い現代の‘疫病’の1つとなっています。考えてみてください。女性あるいは少女であることで危険に晒されるのです。更に驚くのは、多くの人々、社会の中枢あるいは政府の回廊にいる人々までもが、女性に対する暴力は避けられないと思っている事実です。
私たちはこの精神構造を変える必要があります。女性に対する暴力を認識し、人権侵害として対応することが重要です。家庭内暴力であれ戦時下の暴行であれ、女性性器切除や強制結婚あるいは若年結婚といった慣習であれ、女性に対する暴力は許されない犯罪です。女性に対する暴力は、何処で起ころうとも法的裁きを受けるべきです。
私は、暴力や虐待に晒されてきた女性や少女の声を広く伝えるため、国連女性開発基金(UNIFEM)の親善大使となりました。より多くの国で、女性たちは無抵抗の犠牲者となることを拒否しています。彼女たちは団結し、声を上げ、責任と処罰を要求し、女性あるいは少女であるために暴力に晒されることにノーと言っています。
女性に対する暴力を終わらせるのは私たちの努めです。そのため、UNIFEMは、2007年11月の「女性に対する暴力撤廃国際デー」に「女性に対する暴力にノーと言おう」というインターネット・キャンペーンを開始して、世界の人々に対し発言を呼びかけると共に、この広がり行く運動に署名するよう呼びかけたのです。
それから1年近く経ち、このキャンペーンに応え世界各地から数10万の投書、署名が集まりました。200を超える組織が参加しました。50以上の国々の首脳、大臣が立ち上がり、同キャンペーンを通じて(問題解決への)コミットメントを公表しました。
最近のニューヨーク訪問に際し、私は声高らかにノーと言い、性差に基づく暴力に勝利した2人のヒロインに会いました。強制結婚を逃れイエメンからきた10歳の少女ヌジョード・アリと少女の自由を守るため尽力した弁護士のシャダ・ナッセールです。9歳で結婚したヌジュードは度重なる殴打、暴行を受け、助けを求めて裁判所に駆け込みました。若年結婚の被害に耐えている数万の少女と異なるヌジョードの勇気は、人権弁護士のシャダの中にも見てとれます。シャダの尽力により、ナジュードは4月に離婚だけでなく勇気の勝利そして少女や女性の人権に勝利を勝ち取ったのです。ナジュードは現在復学し、将来は弁護士になりたいと語っています。
またコソボでは、紛争に巻き込まれ、兵士による酷い性的暴力を経験した多くの女性たちの声を聞きました。彼女たちの話は、まさに新聞の大見出しから抜き出したようでした。性的暴力は戦争の武器であり、人々の生活を震撼させ、コミュニティーを崩壊させ、女性を家庭から逃げ出させる恐怖の道具です。それにも拘わらず、戦時下の性的暴力は長い間歴史の沈黙に覆い隠されて来たのです。
2008年6月20日、国連安全保障理事会は満場一致で決議1820号を採択することでこれまでの沈黙を破り、コミュニティーが性的恐怖の陰で暮らす限り平和も安全保障もあり得ないことを明確にしたのです。決議は、紛争関係者全員が女性や少女を攻撃から守る努力を強化するよう求めています。今や、女性に対する暴力の撤廃が、各国政府および国連を始めとする重要機関にとっての優先課題となっています。
UNIFEMは、国連安全保障理事会と協力し、女性に対する暴力の撤廃を目的に国連基金への支援大幅拡大を呼びかけています。問題の実質的、直接的解決を行うため、基金を通じて途上国の現場組織に資源の提供を行います。国連資金受給者は、ウクライナの人身売買防止、ハイチの家庭内暴力犠牲者への支援、戦争に引き裂かれたリベリアにおける暴行防止法の施行支援を行って来ました。
これらのプロジェクトそして世界中の多くの努力により、対女性暴力という大問題も解決可能であることが証明されています。コミットメントそして資源があれば、効果をもたらす変革の可能性が広がります。政策の修正、サービスの確立、裁判官や警察官の訓練も可能となるのです。
ですから、我々は、各国政府にはコミットメントの実行を、市民の方々には女性に対する暴力の撤廃を目指すコミュニティー活動に参加し、政府担当官に暴力撤廃政策の実施がいかに重要であるかを訴えて頂きたいのです。なぜなら、暴力からの解放はあらゆる女性の権利だからです。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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