ニュース視点・論点|視点|核時代の“終焉の始まり”となるか?(池田大作 創価学会インタナショナル会長)

|視点|核時代の“終焉の始まり”となるか?(池田大作 創価学会インタナショナル会長)

【東京IDN=池田大作

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

昨年に開催されたNPT再検討会議は、核保有国と非保有国との溝が埋まらないまま、閉幕しました。広島と長崎への原爆投下から70年を迎えた節目に、NPT加盟国の総意としての最終合意が実らなかったことは、極めて残念に思います。

それでも、希望が完全に失われたわけではありません。重要な動きがさまざまな形で起こっているからです。その動きとは、①核問題を解決するための連帯を誓う「人道の誓約」の賛同国が拡大していること、②昨年末の国連総会で事態の打開を求める意欲的な決議がいくつも採択されたこと、③市民社会で核兵器の禁止と廃絶を求める声が高まっていること、です。

昨年の国連総会では、核兵器のない世界を実現し維持するための、効果的な法的措置について実質的な議論をする、「公開作業部会」の開催を求める決議が採択されました。

決議では、公開作業部会を「国際機関や市民社会の参加と貢献を伴って招集すること」と併せ、「全般的な合意に到達するための最善の努力を払うこと」が明記されています。

先月、ジュネーブで初めてこの公開作業部会が開催され、重要な議論が交わされました。今後、5月と8月の会合でも建設的な議論が積み重ねられ 公開作業部会が「核兵器のない世界の達成と維持」のために必要となる効果的な措置をリストアップし、国連のすべての加盟国が取り組むべき、共同作業の青写真を浮かび上がらせることができるよう、切に希望するものです。

核兵器の威嚇と使用に関する違法性が問われた国際司法裁判所の勧告的意見において、NPT第6条の規定を踏まえ、「すべての側面での核軍縮に導く交渉を誠実に行い、かつ完結させる義務が存在する」との見解が示されてから、今年で20年を迎えます。にもかかわらず、すべての保有国が参加する形での誠実な交渉が始まっていない現状は、極めて深刻であるといえましょう。3回にわたる国連の公開作業部会での議論を機に、核兵器禁止条約の締結に向けた機運を本格的に高めていくべきです。

International Court of Justice; originally uploaded by Yeu Ninje at en.wikipedia
International Court of Justice; originally uploaded by Yeu Ninje at en.wikipedia

いまだ世界には、維持するだけで年間1000億ドル以上を費やす、1万5千発以上もの核兵器が存在します。それらは、貧困や飢餓の克服、気候変動への対応など、山積する地球的な課題に対しどれだけ努力を尽くしていったとしても、すべて一瞬にして無に帰してしまう元凶となりかねません。どの地域であれ、たった一発が爆発するだけで、その影響は想像を超えたものです。

こうした破滅的な末路が避けられず、計り知れない犠牲を世界中に強いることになったとしてもなお、核兵器によって担保しなければならない国家の安全保障とは一体何でしょうか。国を守るといっても、多くの人々に取り返しのつかない被害を及ぼす結果を前提に組み上げるほかない安全保障とは、そもそも何を守るために存在するのでしょうか。それはつまるところ、本来守るべき民衆の存在を捨象した安全保障になりはしないでしょうか。

残念ながら、地球上に核兵器が存在する限り、核抑止力を保持し続けるしかないといった考え方が、核保有国やその同盟国の間に、いまだ根強くあります。

しかし、核抑止力によって状況の主導権を握っているようでも、偶発的な事故による爆発や誤射の危険性は、核兵器を配備している国の数だけ存在するのが現実であるといってよい。その脅威の本質から見れば、核兵器の保有が実質的に招いているのは、自国はおろか、人類全体の運命までもが〝核兵器によって保有されている〟状態ではないでしょうか。

核問題の解決は、核兵器に基づく安全保障の奥底にある、「目的のためには手段を選ばない」「他国の民衆の犠牲の上に安全や国益を追い求める」「将来への影響を顧みず、行動をとり続ける」といった現代文明に深く巣食う考え方を乗り越える挑戦でもある、と私は考えてきました。

私どもSGIは、昨年のNPT再検討会議で発表された「核兵器の人道的結末に対する信仰コミュニティーの懸念」と題する共同声明に加わり、キリスト教、ユダヤ教、イスラムなどの人々とともに、次のようなメッセージを発信しました。

「核兵器は、安全と尊厳の中で人類が生きる権利、良心と正義の要請、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感といった、それぞれの宗教的伝統が掲げる価値観と相容れるものではない」

この共同声明と響き合うのが、昨年のNPT再検討会議への提出以来、賛同国が広がっている「人道の誓約」です。「核兵器を忌むべきものとし、禁止し、廃絶する努力」を、国際機関や市民社会などと協力して進める決意を明記した誓約には参加国数は、国連加盟国の半数を優に超える126か国が参加するまでになっています。

Dr. Emily Welty from WCC delivers the interfaith joint statement at the NPT Review Conference. Credit: Kimiaki Kawai/ SGI
Dr. Emily Welty from WCC delivers the interfaith joint statement at the NPT Review Conference. Credit: Kimiaki Kawai/ SGI

核兵器は過ぎ去った時代の遺物であるのみならず、核態勢の維持のために、莫大な経済資源や人的資源を費やし続けているという意味で、“地球社会の歪み“を半ば固定化してしまう要因となっているともいえるものです。

今回、ジュネーブで交わされた議論を、核時代の“終焉の始まり”とするために、市民社会は「人道の誓約」に賛同する国々とともに声を合わせ、平和と人道の新しい潮流を地球的広がりとするべき時が来ているのです。(原文へ

池田大作(1928—)は、仏教団体・創価学会インタナショナル(SGI)会長であり、戸田記念国際平和研究所の創立者。30年以上前から毎年、平和提言を発表し、核兵器の廃絶などを訴えている。

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