視点・論点セルジオ・ドゥアルテ|視点|国際的軍備管理体制の崩壊(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

|視点|国際的軍備管理体制の崩壊(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

核兵器が国際的な場面に登場したのは、国際連合憲章の署名から21日後のことである。そのため、国連憲章は核兵器について触れていない。

それにも関わらず、広島・長崎への原爆投下が世界にもたらした衝撃と恐怖ゆえに、国連総会は1946年1月に採択した創設後初の決議で、原子兵器を国家の戦力から廃棄する提案をさせる目的で委員会を立ち上げることになった。その年の後半、同総会は、核兵器や、大量破壊に応用できるその他の兵器を禁止・廃絶する喫緊の必要があることを認めた。

Photo: Sergio Duarte speaks at the August 2017 Pugwash Conference on Science and World Affairs held in Astana, Kazakhstan. Credit: Pugwash.
Photo: Sergio Duarte speaks at the August 2017 Pugwash Conference on Science and World Affairs held in Astana, Kazakhstan. Credit: Pugwash.

これが77年前の出来事である。決議第1号で創設された委員会はすぐに解散となり、関心は廃絶から核分野における「部分的措置」へと移った。この措置によって、さらなる進展への基礎が提供されるはずであった。その数十年の間に、核兵器の拡散を防止することを目的とした多国間協定が採択され、核兵器を制限する措置が合意された。

化学兵器と生物兵器という2種類の大量破壊兵器は、多国間条約によって禁止されている。 しかし、核兵器は依然として人類を悩ませている。実際、核兵器を保有する9カ国は、その速度、射程距離、破壊力を高める新技術を取り入れることで、核兵器の改良に余念がない。「技術的拡散」とでも呼ぶべき状況だ。

一国単独での決定、あるいは二国間協定によって、冷戦最盛期に存在した途方もない量の核兵器を削減することに成功した。しかし、それだけの削減があっても、依然として世界には推定1万3000発以上の核兵器が存在している。現在、米国・ロシア間の核兵器制限協定のほとんどが失効したか、放置されている。唯一残っているのは、2010年に締結された新戦略兵器削減条約(新START)であるが、ロシアが一方的に効力停止にしている。

現在、この二国間にも、またどの核兵器国に関しても、合意された核兵器制限協定というものはない。核兵器とその運搬手段の廃絶は、核兵器保有国にとっては、せいぜい遠い目標にすぎない。

2008年に採択された国連安全保障理事会決議1887は、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散は国際の平和及び安全への脅威であることを再確認した。誰も否定しえない内容ではあるが、核兵器の存在そのものが、世界の安全への重大な脅威であることにほとんどの人が同意するのではないか。

多国間条約によって核兵器が廃棄・解体された例はない。対照的に、南極条約(1961年)、宇宙条約(1967年)、海底条約(1972年)は、核兵器が存在しない場所での核兵器を禁止した。ラテンアメリカとカリブ海諸国は、自国の領土でそのような兵器を禁止する条約を交渉することに成功した。この先駆的な取り組みは、後に113カ国が他の4つの地域(南太平洋、東南アジア、中央アジア、アフリカ大陸)とモンゴルで非核兵器地帯が創設される成果へと繋がった。

Image: Nuclear-Weapon-Free Zones (Blue); Nuclear weapons states (Red); Nuclear sharing (Orange); Neither, but NPT (Lime green). CC BY-SA 3.0
Image: Nuclear-Weapon-Free Zones (Blue); Nuclear weapons states (Red); Nuclear sharing (Orange); Neither, but NPT (Lime green). CC BY-SA 3.0

1960年代、2つの核大国は条約案の主な内容を協議し、18カ国軍縮委員会(ENDC)に提示した。委員会では最終合意に至らなかったが、国連総会がそれを採択し、核不拡散条約(NPT)となった。条約は1970年に発効した。

その後約20年ほどで多くの国々が当初の留保を撤回して、1990年代末までには大多数の国々がNPTに加入した。NPTは「不拡散体制の要」とみなされている。NPTを批准していない国は4カ国しかなく、その内、インド・パキスタン・イスラエルは核兵器国である。

NPTは、非核兵器国による核兵器取得・開発の予防に力を発揮してきた。一部の非核兵器国が条約上の義務に実際に従わなかったり、その疑いを持たれたりしたこともあったが、そうしたケースのほとんどが、国連安保理による制裁を含めた政治的・経済的圧力と外交手段の組み合わせによって解決されてきた。

しかし、NPT締約国の間には依然として深い見解の相違がある。非核保有国の多くは、核保有国がNPT第6条を履行し、核兵器廃絶に向けて断固とした行動をとることに関心がないと見ている。不満は何度も噴出し、核不拡散と軍備管理の枠組みを崩壊させる恐れもある。

10度のNPT再検討会議のうち6回までも、最終文書の採択に合意できなかった。直近の2回、2015年と2022年の会議でもそうであった。この状況は核不拡散体制の権威と信頼性にとってはマイナスであり、次の2026年再検討会議にも暗い影を投げかけている。

この冷徹な現実に、さらに不安をあおるような要素が折り重なる。あらゆる状況での核爆発実験を禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)は、条約14条で言及された44カ国のうち8カ国が未署名あるいは未批准であるために、まだ発効していない。署名・批准に向けた国内手続きを完了させる動きがこの8カ国内部には乏しく、この条約が意図した普遍的な禁止措置の有効性に対する信頼を低下させている。

別の不安要素は、第1回国連軍縮特別総会が権限を委託した多国間機関が依然として役割を果たせていないという点だ。1990年半ば以降、国連や軍縮委員会、国連総会第一委員会の場において、多国間で実質的な合意はなされていない。さらに、1990年代以降、ジュネーブ軍縮会議は作業内容にすら合意できていない。

国際連合憲章に基づき、過去78年にわたって構築されてきた国際安全保障システムは、世界の多くの地域で紛争予防に失敗してきた。侵略と平和の侵害は、特に発展途上地域において死と破壊を引き起こし続け、巨大な人道危機と大規模な人口移動を引き起こし、先進国における排外主義的反応を助長し、不平等を拡大させている。

安全保障理事会は、国際の平和と安全の維持に第一義的な責任を負っているが、常任理事国の特殊利害が絡む状況においては行動することができず、その結果、常任理事国が同意しないいかなる措置からも、そのような国々を事実上遠ざけてきた。実際、安保理の構成は、今日の世界の地政学的現実と1945年以降の安全保障に関する認識の変化をもはや反映していない。 国連安保理の改革は待ったなしである。

主要な核保有国の間でも、また地域的なライバルの間でも、繰り返される緊張が安定と国際の平和と安全の維持を脅かしている。核保有国は、必要と思われる状況下で核兵器を使用することを想定した軍事ドクトリンを堅持している。 つい最近まで、これらの国は、第二次世界大戦後欧州で戦争が起こらなかったのは核兵器の存在によるものだと主張していた。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、このような主張はもはや維持できなくなった。片方が核保有国である2つの欧州の国が交戦状態にあり、3つの核保有国に加えて「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)もこれに関与している。核兵器使用の恫喝が交戦当初からなされており、その問題を過小化すべきではない。

もし核紛争が勃発すれば、軍備管理、核不拡散、軍縮に関する国際的な制度全体が存続できなくなり、国際連合憲章が確立した秩序そのものが危うくなる可能性がある。

2010年NPT再検討会議以来の重要な動きは、多くの国々が、あらゆる核兵器使用がもたらす壊滅的な帰結について真剣に考える必要性を多くの国が強調し始めたことだ。2012年と14年の国際会議は、核兵器に伴った人道的な危機とリスクについて討論し、核兵器使用が人間にもたらす影響に効果的に対処できる国や集団は存在しないとの結論が導かれた。

これらの会議ではまた、かつての想定よりもこうしたリスクははるかに大きく広範なものであり、こうしたリスクに対抗することが、核軍縮や不拡散に関連した世界的な取り組みの中心に据えられるべきだとの結論が導かれた。

現在までのところ、こうした取り組みの最も重要な成果は、核兵器禁止条約(TPNW)の交渉と採択である。TPNWは、核軍縮に関する効果的な措置について交渉を進めるよう各締約国に求めるNPT第6条の規定に直接由来するものだ。。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

これこそ、まさに実行されたことである。この条約は、世界規模で核兵器を禁止することを目的とした、法的拘束力のある最初の国際法である。 TPNWは、核兵器の使用や使用の威嚇を禁止するだけでなく、核兵器の開発、生産、移転、保有、備蓄、第三国への配備も禁止している。

TPNWはまた、核兵器の使用や核実験の被害者に対する支援義務や、その結果汚染された地域における環境破壊の修復措置(第6条)、さらにそのための国際協力(第7条)についても定めている。大多数の非核保有国、理想的にはすべての非核保有国が、TPNWを遵守することによって、核兵器拒否を明確に示すことが不可欠である。今のところ、この条約には95カ国が署名し、そのうち68カ国がすでに批准している。

核軍縮に関する国際的な制度や協定の枠組みが危機に瀕していることは、条約がすべての当事者の利益になると認識される限り、条約が効果的で永続的なものであることを明らかにしている。信頼と信用は、国家間あるいは国家グループ間の協定を成功させるために不可欠な要素である。

軍縮枠組みのさらなる崩壊は、すべての国の安全を脅かすものであり、国際社会全体の正当な利益を考慮した協力と交渉によって阻止されなければならない。真の安全保障は、人類文明の破壊という脅威の上に成り立つものではない。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

カザフスタンの不朽の遺産: 核実験場から軍縮のリーダーへ

|視点|危機を打開する“希望への処方箋”を(池田大作創価学会インタナショナル会長)

|視点|戦時のNPT再検討プロセス(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken