【コロンボIPS=パリサ・コホナ】
国際連合が創設されて70周年を迎える今年、この組織がこれまで成功を収めてきたかどうかを問うのは当然のことだろう。長年にわたってメディア、とりわけ欧米先進国のメディアには、国連の失敗をあげつらう傾向がある。
未解決の朝鮮半島問題、コンゴ内戦の泥沼、ベトナム戦争時の無力、冷戦の大部分の時期における国連の無能力、ルワンダ虐殺時の機能不全、イスラエル・パレスチナ紛争を終結に導く能力のなさ等、不快な例の多くがヘッドラインを占めてきた。
しかし、ダグ・ハマーショルド事務総長(当時)が簡潔に述べたように、国連は人類を天国へ連れて行くためでなく地獄から救うために創られた機関である。同じように、もし国連が存在しなかったらそれに代わるものが創設されなければならなかったであろうとも言われている。
疑心暗鬼と敵対意識が世界に広がっている現在の実情を考えると、今日、国連を一から創設できるとはとても思えない。失敗を指摘する様々な批判はあるものの、国連はこの70年で多くのことを成し遂げてきた。むしろ、これまで存在した中で、最も成功した真にグローバルな政治組織であるとさえ言えるかもしれない。
壊滅的な第二次世界大戦の灰のなかから立ちあがった国連の主要目標のひとつは、世界大戦の再発を防止することにあった。その意味では国連は成功を収めたと言えるだろう。戦後70年間、大国間の軍事衝突は起きていない。地域規模、二国間、国内における紛争や代理戦争は数多く起き、多数の死者と推定不能な経済的被害を引きおこしたが、第三次世界大戦の勃発は避けられてきた。
一方国連は、会員制の私的なクラブのようなものだと言われてきた。そのメンバーが、クラブが何をすべきか決定するからである。世界全体ではもっと高次元の期待を抱いているかもしれないが、国連自体は、その加盟国と憲章が認める範囲内の活動しかできないのである。最も効果的な成果は、全会一致が達成された際に得られる。
その憲法(国連憲章)が制定された経緯によって、国連の権力は厳格に制限されている(この点については詳しく後述する)。同時に、第二次世界大戦の勝者(=当時の連合国)の権利と特権が露骨に非民主的な形で確保されているため、政治的、経済的、社会的力の中心が戦後かなりシフトした今日の世界においては、このことが国連に幻滅を感じさせる主要因となっている。
その設立の経緯、そして、安全保障理事会の5大国に与えられた拒否権によって、国連の行動の自由は、拒否権を保持する5大国が認める状況のみに限定されている。従って冷戦時代は(米ソが拒否権を連発したために)国連の機能は相当に麻痺し、東西対立の危険な時代に身動きがとれない事態が続いた。
その後冷戦が終結し、国連が多くの場面において有益な前進をもたらすのではないかとの期待が高まった。しかし、まもなく大国間の対立が再燃したため、国際社会は新たな不確実性の時代に入り込んでしまっている。
同様に、南北関係も植民地時代にまで遡る疑念から、常に緊張関係を孕んできた。旧宗主国(=西側先進国)に対する不信感は、開発途上国の人々の先進国に対する態度に影響を与え続け、一方で西側先進国の人々が示す「我々こそが一番よく知っている」という横柄な態度が、関係をさらに複雑にしてきた。G77は、もともとは開発途上国の経済・社会の発展を推進するプラットフォームとなることが意図された連合組織だが、もはや77か国に収まらなくなっており、(安保理5大国の一員である)中国を入れれば、今日134か国にまで拡大されている。そしてその構成メンバー全てが、もはや必ずしも(かつてのような)貧しい途上国ではなくなっている。
また同様に、冷戦期に東側にも西側にもつかない勢力であることをもともと目指していた非同盟運動は、非同盟勢力としての一貫した焦点を持てず、近年様々な方向に引っ張られている傾向があり、その結果、グループから離脱する国もでてきている。さらに近年安保理が、本来なら国連総会の責任範囲に属する問題についてまで、全ての国連加盟国を拘束する決定を下す傾向を強めてきており、これに対する批判も高まってきている。
5大国が支配する安保理は、一定の状況下において国際社会全体に対する立法措置をとる任務を自らに課し、圧倒的多数の国連加盟国がそうした法形成に影響力を行使する機会を奪ってきた。
一方で積極的な面を見れば、世界の人権、社会的・経済的権利の基準が、国連の活動によって相当に改善してきた。国連は、1948年の世界人権宣言以来、市民的・政治的権利、社会的・経済的・文化的権利、女性の権利、子どもの権利、先住民族の権利、障害者の権利、人種差別[の撤廃]などについて基準を設定する数多くの多国間条約を次々に採択してきた。
これらの世界的に合意された基準を手にした世界は、1945年よりも確実によい場所になっている。確かに、多国間条約の締結や、条約の加盟国になることが、それ自体で個人が置かれている状況を改善するわけではない。しかし、これらの普遍的に受け入れられた基準の存在そのものが、ときとしてさらなる圧力を生み、さらに高い目標に向けて努力するインセンティブを生み出すのである。
国連はまた、国際的な「法の支配」をかつてないほど発展させてきた。事務総長の執務室には550以上の多国間条約が寄託されているが、その大部分は国連の下で交渉されたものである。それらは、環境、海洋、航空、人権、軍縮、テロ、組織犯罪、宇宙空間、海運、交通規則など、人間関係のほぼあらゆる側面を網羅している。
これらの条約に含まれている複雑なルールのネットワークは、かつてなかったほど、個別国家の行動基準を定めてきた。こうして定められた国際的な「法の支配」は国家のレベルにまで徐々に浸透していき、多くの領域において各国内の法の支配の発展に影響を及ぼしてきた。
国連及び国連諸機関は、共通の利益がある様々な課題に関して国際社会を動員することに成功してきた。国境を越えてテロが跋扈し、多くの国にとって脅威になるなかで、国連はこの脅威に対処するために諸国家と資源を動員することに成功している。
専門知識が結集され、資源が動員され、必要とする国家に訓練が提供され、テロの脅威に対する市民の意識が高められた。国連及び諸機関が存在しなければ、これらの前進が達成されたかどうかは疑わしい。もちろん、さらにすべきことはたくさんある。
同様に、大被害を引き起こす可能性があったエイズの拡大や豚インフルエンザ、鳥インフルエンザなどの健康上の脅威、そして最近のエボラ出血熱問題などに対する世界的な対応も、国連やその関連機関を中心に回ってきた。この種の脅威に対して、人々の意識を急速に高め、加盟国を動員して迅速に対応させた国連の能力は印象的なものであった。
国連の天災・人災への対応によって、数多くの命が救われ、被害は緩和された。環境や海洋、持続可能な開発といった領域での国連の継続的な取組みによって、人類にはさらなる利益がもたらされることだろう。
国連は、これまで語られていない暴力や悲劇を産み続ける可能性のあるグローバルな状況を正常化することに成功してきた。カンボジアは、国連が仲介した和平工作やその後の平和維持活動の結果として、数十年に及ぶ紛争を経て、安定し、ますます繁栄する国となってきた。
四半世紀に及ぶ紛争を経験した東ティモールは、国際社会の平和的一員として自らを確立してきた。国連はまた、モザンビークとアンゴラをなだめすかしながら、平和の新時代をもたらした。
南アフリカのアパルトヘイトから民主主義と多数決原理への移行は、国連に血のにじむような努力によって促進されたものだ。旧ユーゴスラビアの継承諸国家を、当初の爆発的な暴力の時代を経て平和へと導いた国連の役割にも、やはり小さからぬものがあった。国家継承という複雑な法的問題に対しても、国連の想像力に富んだ対処がなされた。
このことは、国連活動の死活的で拡大する領域へと私たちを導く。すなわち、平和維持活動である。イスラエル国境、及びインド・パキスタン国境における最初の平和維持活動以来、国連の役割は大きく拡大し、その平和維持部隊には複数の次元にわたる任務が与えられてきた。
現在、国連は16か国において平和維持活動を実施している。民生、警察、軍事部門などさまざまな領域で12万2000人の職員が従事し、122か国が自発的にこれを支えている。
平和維持活動のコストは71億ドルを超え、国連の活動全体の中でもっとも高コストの部門となっている。国連の平和維持活動は、今では、民間人の保護など、その任務を果たすために攻勢的な役割を担うことが許可される場合もある。
平和維持活動に関しては印象的なサクセス・ストーリーがある一方で、批判も少なくない。もし国連平和維持活動の任務が、現場発の質のよい情報と、受入国政府を含めたより構造化された協議の後に構成されているならば、もし任務が明確に定義され、軍事部門によく説明がなされ、適切な装備が与えられ、経験と訓練度に基づいて隊員が選抜されていたならば、もし活動が定期的に再検討され出口戦略がよく描かれていたならば、平和維持活動はもっと成功しているかもしれない。残念なことに、一部のミッションは半永久的に継続される傾向がある。
時代が進むにつれ、現在の政治的・経済的状況を反映するように国連を改革すべきだとの声が強まってきている。もっとも困難な課題は、第二次世界大戦後の世界の権力構造を反映した安保理(常任理事国5か国と非常任理事国10か国で構成)の改革であろう。拒否権を有する5つの常任理事国のうち2つは欧州の国であり、欧州連合(EU)の加盟国でもある。また、選出される非常任理事国についても(地域グループから候補を選ぶため)2か国はEUの加盟国になる可能性が高い。
現在のところ、安保理15カ国のうち、西欧・その他グループはニュージーランドを含む6か国、アフリカは3つの非常任理事国、ラテンアメリカ・カリブ海地域は2か国、東欧が1カ国、そしてアジアは非常任理事国2か国と常任理事国(中国)である。
安保理の構造におけるこのような不均衡は維持できるものではない。もっとも、70年前の戦争の勝者に特権を与えるような制度が、あらたな戦争によって修正されることがあってはならない。しかし、急激に変化した世界の社会的・経済的現実が、国連に改革を導入する呼び水となるかもしれない。
国連の官僚機構を真に効果的なものにすることがもう一つの課題である。大口拠出国からの批判に常に晒されながらも、国連は70年間なんとか歩みを進めてきた。歴代の事務総長の下で、国連をよりダイナミックで、現代のニーズにより迅速に応えられる組織に改革しようとの試みが断続的になされてきたが、今こそ、この問題に包括的に取り組むときではないだろうか。国連は、任務に対して加盟国が満足いくように効率的に成果を出せなければならない。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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