INPS Japan/ IPS UN Bureau Report|国連生誕78周年| 国連の運営上の信頼性を再考する

|国連生誕78周年| 国連の運営上の信頼性を再考する

【ニューヨークIPS=アンワルル・チョウドリ】

国連アジア多様性とインクルージョンのためのネットワーク(UN-ANDI)より、国連デーの特別な機会に基調講演のお招きをいただいたことに感謝いたします。

私は、UN-ANDIとその献身的なチームの活動、とりわけここ数年の新型コロナウィルス感染症のパンデミックの制約にもかかわらず、最近出版された「人種主義と人種差別に関する調査報告書」を心から称賛いたします。思い返せば、2019年にUN-ANDIの構想に関われたことを誇りに思っております。

国連システムにおけるアジア・太平洋地域の多様な人材が一堂に会する史上初の取り組みとして、UN-ANDIは私たちのあらゆる支援と励ましを必要としています。

自国の代表として、また国連の代表として、数十年にわたり国連に携わってきた私は、国連の活動の中で、前向きなもの、そうでないもの、精神を高揚させるもの、挫折させるもの、集中し決意するもの、混乱し政治化するものなど、様々な側面を見てきました。

しかし、創設から78年を経た国連の活動で私が最も強く感じたのは、地球上の何百万という人々の生活に前向きな変化をもたらすという国連の貢献です。

A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.
A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.

長年にわたり、国連は紛争や人道危機、貧困や困窮といった試練に幾度となく晒されされてきましたが、常に断固とした姿勢で、そして包括的な方法で、その試練に立ち向かってきました。国連は 「全人類家族のかけがえのない共同住宅」と呼ばれてきました。尊敬する世界的な平和指導者であり哲学者でもある池田大作氏は、これを 「世界の議会 」と表現しています。

注目されなくとも、国連とその諸機関や諸団体が、世界中の人々の生活のあらゆる側面を改善するために、途方もない困難を乗り越えて努力を続けていることを想起する価値はあると思います。また、国連がなす規範設定の役割は、非常に幅広い分野に及んでいることも忘れてはなりません。

私自身、1972年に母国バングラデシュが国連加盟を申請し、以来51年にわたり国連と協力してきた中で、バングラデシュの開発アーキテクチャーのあらゆる主要な側面が国連の関与を反映していることを、誇りをもって断言することができます。

10月26日の国連デーを記念して、私は多くの「国連デー」を祝うメールを受け取りました。しかし、私はそれを共に祝う気分にはなれず、現在の現実を踏まえて「国連が無力であることが明白な紛争多発の世界では、あまり嬉しくない国連デーです。」と返信しました。その無力さに今も愕然としています。

「しかし、10年前なら、イスラエル大使が『教訓を与える時が来た』として国連事務総長のビザ発給を拒否するなどという侮蔑行為を想像することさえ難しかっただろう。」と、先のガーディアン紙の社説は記しています。これは国連の地位低下を雄弁に物語っています。

Missile strikes continue through the night in Gaza. Credit: UNICEF/Eyad El Baba
Missile strikes continue through the night in Gaza. Credit: UNICEF/Eyad El Baba

英国の進歩的な新聞『ガーディアン』紙は10月26日付の社説で、「国連は火曜日に78回目の誕生日を迎えたが、祝うべきことはほとんどなかった。さらに、「同日、イスラエルは同国とハマスの戦争に関する発言をめぐり、アントニオ・グテーレス事務総長に辞任を求め、彼を『血の名誉毀損』で非難しました。

世界の良識ある人々は、私たちが今置かれている現実を認識し理解することなく、殻に閉じこもっている時ではありません。イスラエルの国連常駐代表が、安保理の公開会合で事務総長に矛先を向けたことは、外交的な礼儀を無視した、最も不躾なやり方です。

保守的な『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、前日の10月25日付の社説でさらに踏み込んで、「こうして国連は、世界的な無秩序が進行する中で、自らを位置づけてしまっている。」と述べています。

私たちは、この大切な世界機構の運営上の信頼性を再検討する必要があります。1945年に国連憲章に明記される必要があったことは、現在の現実に照らして判断されるべきだと思います。複雑化する世界と政府間の政治的麻痺という課題に対応するために、国連憲章を改正する必要があるのであれば、そうすべきだと思います。その方向に焦点を当てるべき時が来ているのではないでしょうか。現在の国連憲章の言葉を盲目的に神聖視することは、自滅的で無責任なことかもしれません。国連は、今、家を整えなければ、瓦礫の下に埋もれてしまうかもしれないのです。

私はよく、講演後の質疑応答で、国連のパフォーマンスを向上させるために何か一つ勧めるとしたら何か、とよく聞かれます。私の答えは明確で、いつも「拒否権を廃止するべき!」と答えることにしています。拒否権は非民主的で非合理的であり、国連の主権平等の原則という精神に反するものだからです。

私は2022年3月にIPSに寄稿したオピニオン記事の中で、「拒否権は安全保障理事会の決定だけでなく、国連事務総長の人選を含む国連のあらゆる業務に影響を及ぼす。」と指摘しました。

またその中で、「拒否権の廃止は、国連改革のプロセスにおいて、常任理事国を増やす安保理理事国拡大よりも優先的に注目されるべきだと思う。」と主張しました。拒否権を伴う常任理事国化は非民主的だからです。また、拒否権は 「国連の礎石」ではなく、現実には「墓石」であると指摘しました。

拒否権を廃止すれば、事務総長の選出も、拒否権を行使する常任理事国による操作から解放されます。

私はまた、事務総長の業績を評価することなく、自動的に2期目5年の任期を更新する現在の慣行とは対照的に、将来的には事務総長の任期を1期7年のみとすることを提案したいと考えています。

世界最高峰の外交官(=国連事務総長)に9 人の男性を選び続けてきた国連には、次期事務総長に女性を選出する正気と聡明さが求められると、私は強く思っています。

Ambassador Anwarul Chowdhury
Ambassador Anwarul Chowdhury

また、市民社会の正式な関与と真の協議が義務化されれば、国連の信頼性が高まるというのが私の持論です。国連指導部と加盟国は、現在開催中の総会での決定に向けて、必ずやその実現に向けて真摯に取り組むべきだと思います。

国連の予算プロセスやあらゆるレベルの人事採用には、透明性と説明責任が不可欠です。さらに精査が必要な分野は、加盟国から受け取る予算外資金と、国連による予算配分を含むコンサルタント業務です。国連の信頼性を回復し、人類全体のために有効性と効率性を高めるためには、これらの分野に特別な注意を払う必要があります。

国際社会は分かれ道にさしかかっています。一つは、効果的な多国間体制は私たちの手の届かないところにあり、それを改善するために設立された国連が危険で無秩序な世界秩序に逆戻りする可能性がある、と諦める道です。一方もう一つの道は、険しい道ではあるが、はるかに希望に満ちた道です。つまり、共有された原則、目的、コミットメントに基づく世界的連帯、人類の一体性、そして、すべての国々が真の尊敬を寄せるとともに、真に受け入れ、支持する可能性を秘めたグローバルな安全保障体制です。

最後に、私は引き続き多国間主義に対する深い信頼を堅持し、国民と地球のための最も普遍的な組織である国連に対する信念と信頼を新たにし、再確認することを申し上げて、結びとさせていただきます。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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