ニュース映画「オッペンハイマー」で核のホロコーストは回避できるか?

映画「オッペンハイマー」で核のホロコーストは回避できるか?

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

ウィーンでの核不拡散条約(NPT)2026年再検討会議第1回準備委員会会合があと数週間に近づく中、クリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」がメディアで物議をかもしている。

広島と長崎を1945年8月6日と9日にそれぞれ消し去り、12万9000人から22万6000人の死者を出した原爆の「生みの父」オッペンハイマーの伝記映画である。

2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の政策・研究インターンであるマグリッテ・ゴーダニアーは『原子科学者紀要』誌で、ニューメキシコ州ロスアラモス研究所で原爆開発の主任科学者を務めたJ・ロバート・オッペンハイマーは、原爆投下から8日後、核兵器の開発継続によって平和を維持する可能性を疑う内容の手紙を陸軍長官に送ったと記述している。

それから8年後、彼は、「利益を引き出そうとする態度によって加速した軍拡競争を引き起こすこの新兵器の潜在能力や、『核の平和』をもたらすとする神話の不安定性、これらの兵器が文明にもたらす圧倒的で継続的な脅威について」警告した。

「70年後の今、オッペンハイマーが戦後に抱いた懸念は正しかったといえるようだ。オッペンハイマーが始めた原子時代しか知らない私たちは、そのリスクにはうんざりとしている。」とゴーダニアーは説明する。

「戦略的リスク評議会」の広報責任者アンドリュー・ファシーニは、『原子科学者紀要』のノーランの記事は、核兵器が開発されると、権力ブローカーが核兵器事業を引き継ぐスピードと粘り強さを示している」と称賛した。

ファシーニによると、「実質的に敗戦した」日本だけがターゲットになったとき、オッペンハイマーはソ連との軍拡競争始まることになるのではないかとより懸念するようになった。

結局のところ、軍備管理に対する彼のコミットメントと、そのために積極的に発言する姿勢は、原爆から権力を得ようとする人々とは相容れず、彼らは組織的かつ意図的に彼を破滅させたのである。

オッペンハイマーは後年このように振り返ったとされる。「我々は世界が同じものであり続けることはないと知っていた。一部の人間は鼻で笑い、一部の人間は叫び、ほとんどの人間は沈黙を保った」。オッペンハイマーは映画の中で、「バガバッド・ギータ」の一節を引いて、「いまや私は死となり、世界の破壊者となった」と語っている。バガバッド・ギータは700節から成るヒンズー教の聖典である。

ノーベル平和賞を受賞したICANに言わせれば、今回の映画「オッペンハイマー」は、核兵器の危険性にも関わらず、核兵器に関して人々を教育し、その廃絶運動に加わらせる機会を提供するものだという。核のリスクに関する意識を喚起することで、極めて重要である前向きな姿勢と核兵器に反対する態度が拡がることになろう。

映画『オッペンハイマー』は核兵器の起源に迫っているが、核兵器禁止条約は「その廃絶に向けた道を指し示している」とICANはいう。

同条約は2017年7月7日に採択され、同年9月20日に署名開放、2021年1月22日に発効した。核兵器を包括的に禁止する初の法的拘束力ある国際条約である。

核不拡散の問題は、国連での協議を通じて早くも1957年に取り組まれ、1960年代に推進力を得た。

国際的行動の規範として核不拡散を称揚する条約の構造が1960年代半ばまでに明らかになってきた。1968年までに条約に関する合意がなされた。核拡散は禁止され、原子力平和利用のための国際協力が可能となり、核軍縮の目標が前進させられることになった。

条約第10条によると、条約発効から25年後に会議が開かれて、条約を無期限延長するか、定められた年限の延長をするか決められることになっていた。

1995年5月のNPT再検討・延長会議では、条約締約国が条約の無期限延長を無投票で決めた。

2026年NPT再検討会議第1回準備委員会会合が今年7月31日から8月11日にかけてウィーンで開かれる前に、「核兵器廃絶を目指すグローバルネットワーク」(アボリション2000)は、偶然、計算違い、危機のエスカレーション、あるいは故意によって核戦争の起きる可能性がますます高まっていると警告した。

アボリション2000はその作業文書で、ウラジーミル・プーチン大統領が核兵器使用の威嚇をするなかでロシアがウクライナに侵攻する状況下でこの集まりを持つことが重要であり、軍縮が急務だと述べた。この文書によると、ロシアが核兵器を使用する意志は、核兵器搭載可能なミサイルの実験や、隣国ベラルーシへの核兵器の前進配備の中に見て取れるという。

アボリション2000によれば、ウクライナ戦争は、ミサイルやミサイル防衛、航空機、無人飛行機、ますます複雑化する探知・通信技術、妨害的な電波戦争、サイバー戦を組み合わせた21世紀の戦争の危険性を示しており、人知を超えた領域に戦争を押し上げつつあるという。

広範囲にわたった多極的な軍拡競争が、核保有国間の敵意の増大によって加速している。ウクライナ戦争はその一つの表れに過ぎないと「核兵器廃絶を目指すグローバルネットワーク」はいう。発展を加速させる技術は、戦略的な重要性を持った非核技術を生み出し、核兵器運搬や対核兵器防衛のための新型あるいは改修型システムに組み込まれつつある。

より多くの人々に関係のあるAI技術の競争の中で、AIを兵器システムに応用しようとの誘惑及び危険につながりかねない。

さらに言えば、欧州が核保有国間の緊張が高まりつつある唯一の戦域だというわけでもない。北東アジアや南シナ海、東南アジア、中東でもそれは起こっている。(原文へ)

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