【ワシントンIDN=キャロライン・ムワンガ】
新型コロナウィルスのパンデミック(世界的な大流行)によって影響を受けた経済の立て直しを図りつつも、環境にやさしく、強靭で、包摂的な将来の基礎を築くことはできる。これは、世界銀行・国際通貨基金(IMF)グループが4月5日から11日にかけて開いたオンライン会議でのメッセージである。世銀のデイビッド・マルパス総裁が、新型コロナや気候変動、拡大する貧困や不平等、強まる不安定感や暴力など、世界が直面している大きな問題について、『経済復興:環境にやさしく、強靭で、包摂的な将来に向けて』の中で述べている。
米国のジャネット・イエレン財務長官は、世界の復興を支援し続けるよう先進国に求めた。また、開発目標に加えて、気候関連の目標に途上国が達することができるような支援の重要性を強調し、グリーンファイナンスが利用可能であるかどうかがカギを握ると述べた。
IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事もマルパス総裁、イエレン財務長官との議論に加わり、気候リスクは世界のマクロ経済と金融の安定性にとって大きな脅威になりつつあると指摘した。
持続可能性やイノベーション、包摂といったテーマについて議論した他の発言者には、カンボジアやエジプトの閣僚、若者代表、企業経営者、市民社会代表などがいた。メリンダ・ゲーツ氏は、女性を復興の中心に据えるよう呼びかけ、グラミー賞を受賞した歌手のソミが「チェンジング・インスピレーション」を歌って、イベントは幕を閉じた。
世銀のマルパス総裁は、非正規労働者や社会的弱者に打撃を与えたコロナ禍の直接的な影響のなかに、不平等の問題が最もよく見て取れると語った。不平等は、新型コロナワクチンの接種や富の集中、財政刺激策や資産購入の不平等な影響、とりわけ最貧国における人々の債務者・債権者関係の不均衡に現れている。
「世銀グループは、これらの問題に対応すべく、前向きの取り組みを進める」とマルパス総裁は約束した。世銀は、コロナ禍に対応して、広範かつ迅速な行動を取り、途上国向けの100件以上の支援活動を即座に実行に移した。2020年のコミットメントは前年から65%伸びた。
世銀グループは、ワクチン開発以前からGAVIアライアンスや世界保健機構(WHO)、国際連合児童基金と緊密に協力して、100件以上の能力アセスメントを行ってきた。現在は、複数の国々に関して新型コロナワクチン供給のための融資について理事会で審査を行っている。すでに10件が承認され、4月にさらに10件、5月・6月に約30件が予定されており、総融資額は50カ国で約40億ドルとなる。
これらの国々は、COVAXアライアンスと製薬会社から新型コロナワクチンが正しく供給されるかどうかという問題を抱えている。多くの途上国が、持続不可能なレベルの債務を抱えた状態でコロナ禍に見舞われた。「世銀は、利子支払い猶予の取り組みを進め、債務契約における透明性の向上を図っている。」と、マルパス総裁は語った。
明らかに、双方の施策が意味を持つことになる。例えば、世銀は、人々が利用可能な資源を最大化することを視野に入れて、「債務返済猶予イニシアティブ」(DSSI)の対象国への無償資金協力や融資を増強している。
また、世銀とIMFは緊密に協力して、G20が「DSSIを超えた債務取扱いに向けた共通枠組み」を実行できるよう支援している。これは、公的債務問題への対処を狙った新たな枠組みである。マルパス総裁は、「我々はチャドへの要請を強めており、世銀は、急速に資源を配分することができるようにと望んでいる。」また、「世銀は、この2年間の気候関連金融の実績を考慮して、融資枠の大幅拡大を含む新たな気候変動行動計画を纏めつつある。気候関連と開発関連を統合したプログラムの一環として、諸国に新たに分析支援を行うことも含む。」と語った。
同計画では、適応と緩和の双方に焦点を当てて、活動の優先順位を定めていく。また、石炭利用からの適切な移行が特に強調されている。世銀はまた、気候変動に関する法的拘束力のある国際条約である「パリ協定」(2016年11月4日発効)の目的に融資の流れを合わせる取り組みも進めている。同協定は、2015年12月12日にパリで開催された第21回締約国会議(COP21)で196カ国によって採択されたもので、その目標は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満、望むべくは1.5度未満を目指すものである。
米国のイエレン財務長官は、「米国経済のより力強い成長が、世界全体の状況に対してプラスの波及効果を持つことになるだろう。『すぐに支援を取り下げるな』という金融危機の教訓を我々は慎重に学ぶことになるだろう。」と述べ、米国が国内で進めている施策が世界全体に対しても有益であることを望んでいると表明した。
イエレン財務長官はまた、「米国はすべての先進国に対して、財政政策と通貨政策を用いて、グローバル経済全体の成長に向けた世界の復興を下支えし続けるよう求めるだろう。」と強調した。
IMFのゲオルギエバ専務理事は、米経済の復活に向けて同国が取っている行動は世界全体のためになると強調した。IMFは今年の予想を立てつつあるが、それぞれの国内、及び国家間において、危険なほどに経済的な富が偏在するようになっている。
「今回の会合において、誰もが公正に取り扱われるべきだと強調しているのはこのためだ。どこにおいても公正な取り扱いをすることで、このパンデミックを安全に終結まで導き、持続可能な回復の下支えとすることができよう。そしてまたこれは、脆弱な立場にある人々や国々の生活水準を向上させる機会を与える公正な取り扱いなのである。」と、ゲオルギエバ専務理事は語った。
2021年春の世銀グループ・IMF会合が終わりに近づく中、世銀総裁は、全ての利害関係者、G7、G20、世銀開発委員会が、気候や債務、ワクチン、その他の開発問題に関して強力な支援を行っていることに「非常に満足している」と語った。
世界銀行・IMF開発委員会のコミュニケは、世銀による「この2年間における気候ファイナンスの拡大、途上国における最大の多国間気候投資源としての役割、生物多様性の強調、適応・緩和・強靭化に向けた技術的・金融的支援」を称賛した。
コミュニケは、「2021~25年に向けた世銀気候変動行動計画」を見据えて、災害リスク管理や災害対策準備、災害対応におけるその活動を認識した。「我々は、今年後半に行われる、生物多様性条約第15回締約国会議、国連砂漠化対処条約第15回締約国会議、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議の準備における世銀グループおよびIMFの重要な役割を支持する。」さらに「我々は、最貧国の新型コロナウィルス危機への足元の対応を支援するため、IDA 第 19次増資の資金を2023年度から2022年度に前倒しすることを支持する。また、我々は、IDA 第20次増資の 1 年前倒しを歓迎する。」と述べている。
国際開発協会(IDA)は、世界の最貧国を支援する世銀の一組織である。173の関係国が管理するIDAは、経済成長を加速し、不平等を減らし、民衆の生活水準を向上させるゼロもしくは低金利の融資(「クレジット」と呼ばれる)と無償資金協力の提供によって貧困を削減することを目的としている。
2021年12月までに合意される野心的かつ成功裏の IDA 増資は、強固な政策枠組みのもと、パンデミックの短期及び長期的な影響に対応するIDA対象国の、環境にやさしくかつ強靭で包摂的な回復を支えるであろう、とコミュニケは述べている。(原文へ)
INPS Japan
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