【ベルリン/カンヌ/ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
国連事務総長の任期10年を終えるまであと半年の潘基文氏が、企業経営者や起業家を「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」に関与させようとの粘り強い取り組みを進め、1月以降、効果を上げ始めている。
6月24日に第63回「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」で発言した潘事務総長は、世界の6大広告・マーケティング企業である電通、ハバス、IPG、オムニコム、パブリシス、WPPが、史上初の取り組み『Common Ground(共通の立場)』の立ち上げに合意した、と語った。
このイニシアチブは、2015年9月に国連に加盟する全ての国が全会一致で採択した2030アジェンダの達成に向け、6大広告主がライバル関係を超え、世界が抱える深刻な諸課題(貧困、不平等、不正等)をなくすために連携・協業するというものである。
「2030アジェンダを達成するためには、人類のための真剣なパートナーシップが必要です。今日の世界において国連持続可能な開発目標(SDGs)の『リング(=輪)』以上に重要な目的を持ったブランドはおそらく存在しないでしょう。」と潘事務総長は語った。
「オリンピックのリング(=5色の輪)は、スポーツにおける最高の基準を表しています。一方SDGsのリングは、社会的公約や人間の幸福、グローバルな連帯における最高の基準を表しているのです。」と潘事務総長は付け加えた。
「世界の6大広告・マーケティング企業は、一部ではありえないと言われていた試練にあえて立ち上がってくださいました。つまりこれらの企業は、『持続可能な開発のための2030アジェンダ』とSDGsを前進させるためのユニークで刺激的な共同の取り組みを支持するために、立場の違いを乗り越えることに合意したのです。」と潘事務総長は語った。
「短期的には、2030アジェンダを20億人に浸透させることを目指しています。そして、100万人を変革の主体として動かしていきたい。皆さんにはこの取り組みに是非手を貸して頂きたい。」と国連事務総長は、広告・マーケティング・革新的な広報の分野で働く専門家が集う「国際クリエイティビティ・フェスティバル」の場で語った。
「ここはカンヌですから、私は強い思いで参りました。皆さんは、まさにプロの語り手であり、世論を形成する大きな力があると思っています。皆さんには、人類のための史上最大のキャンペーンを創出する手助けをして頂きたいのです。」
「17項目のSDGsを含む『2030アジェンダ』は、国連がこれまでに採択した最大の人間・地球及び繁栄のための行動計画であり、世界中の場所を問わず全ての人々のためのものなのです。」と潘事務総長は説明した。
「もし(SDGsに)スローガンを付けるとしたらこんな感じになるだろう。『私たちは世界的な貧困を終わらせることができる最初の世代であると当時に、温暖化の影響に対処できる最後の世代です。』」と潘事務総長は述べ、「誰も単独でSDGsを達成することなどできない。」と強調した。
潘事務総長は、「SDGsがすべての業種に関わるということ、つまりSDGsは全ての人々に関わる問題であり、とりわけ若者や女性に力を与え、世界が抱える深刻な諸課題を広く知らしめる最良の方法を見出す手助けをしてください。」と会場の参加者らに呼びかけた。
「皆さんの創造力、革新性、そして訴える力は、かけがえのないものです。複雑で抽象的なアジェンダを、私たちがどのようにしたらより良い世界を創出できるかについて個人的で情感的なストーリーに変換して頂きたい。」と潘事務総長は語った。
潘基文事務総長はまた、「この種のイノベーションの機は熟しています。…今年は、(2030アジェンダという)15年計画を履行する1年目にあたります。最終的に目標を達成するためには、最初が肝心です。広告業界はそのクリエイティビティーと活力に定評があります。国連は、地球と人類が直面する最大の課題への取り組みに、このダイナミズムを動員することを全面的に支持します。」と語った。
「共通の立場」というこの新たな協力関係は、①SDGs実現に向けた取り組みに総力を結集すること、そして、②他業界にもこれに追随し、それぞれの共通の立場を見出すよう促すこと、という2つの目的を掲げ、直ちにスタートすることになっている。
「共通の立場」イニシアチブはまず、グローバルな広告キャンペーンから始まることとなっており、主要企業やソートリーダーシップ(thought-leadership)関連の刊行物が広告スペースを無料で提供する予定である。
さらに、大手広告6グループは、SDGsをテーマとした今年のカンヌ・ヤングライオンズの各受賞アイデアにつき、開発資金を提供することに合意した。今年の賞は、SDGs関連だけを対象としている。ヤングライオンズ・コンペティションに対して初めて提供されるこの資金は、受賞コンセプトをさらに発展させ、これを実用化できるチャンスを最大限に高めるために用いられることになっている。
電通の社長兼CEOの石井直氏、ハバスの会長兼CEOのヤニック・ボロレ氏、IPGの会長兼CEOのマイケル・ロス氏、オムニコムの社長兼CEOのジョン・レン氏、パブリシスグループの会長兼CEOのモーリス・レヴィー氏、WPPの創設者兼CEOのマーティン・ソレル氏は、共同声明の中で、「広告キャンペーン『共通の立場』は、国連が示したグローバルな諸課題は、企業間の競争を超えるものだと認識している」と述べている。
大手広告6グループは、SDGsの達成に向けてパートナーシップを組むことで、熾烈な競争関係にあっても、広い共通課題のために連携・協業できることを示したいと考えている。同共同声明では、「他の業界・企業においても、同じような取り組みや関係性が生まれることを期待しています。」と述べている。
「共通の立場」イニシアチブ発表の2日前、潘事務総長はニューヨークで開催されたサミットに集った企業経営者らに対して演説を行った。責任ある実践、変革的なパートナーシップ、画期的イノベーション、目標を定めた投資など、持続可能性の新たな時代に到達するために必要な主要領域に焦点を当てることがサミットの目的であった。
「2016年国連グローバルコンパクト・リーダーサミット」への演説で潘事務総長は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の目的を達成するには、世界中の数多くの人々の苦しみや差別、機会の欠如を終わらせるような、新たな生き方を見つけることが必要だと強調した。
潘事務総長は、同演説の中で、全てのステークホールダー(世界の指導者から、全ての部門と産業に亘る企業経営者、教育者、慈善活動家等)に対して、より広く深く連携して取り組んでいくよう呼びかけた。
世界最大の企業による持続可能性の取り組みである「国連グローバル・コンパクト」は、人権・労働・環境・腐敗防止に関する「10の原則」に沿って企業戦略や行動を調整することで、企業が責任を持ってビジネスを展開する支援を行うものである。また、国連持続可能な開発目標(SDGs)のような、より広範な社会的目標を前進させるための戦略的行動を、協調と革新をスローガンに進めていく支援も行っている。
6月22日・23日に開かれた国連グローバルコンパクト・リーダーサミットは、SDGsに関して企業行動をあらゆる場所で活性化させることを目的としていた。この目的のために、国連グローバル・コンパクトは、SDGsの2030年までの達成を支持する企業の意識改革と行動を促す複数年にわたる戦略を明らかにした。
新たな「SDGsをローカルビジネスにするための戦略」の主要要素には、毎年のリーダーサミットの開催、SDGsパイオニア・プログラムの実施、SDGs行動計画ローカルネットワーク、国連・企業パートナーシップ、インパクトレポートなどがある。
潘事務総長は、SDGsと気候変動に関するパリ協定が昨年採択されたことを想起しつつ、「持続可能な開発と気候変動の悪影響との闘いを分離することも可能だが、気候変動の悪影響と脆弱な生態系の問題を考慮に入れれば、包括的な開発モデルが民衆と地球の両方の利益になります。」と呼びかけた。
潘事務総長は、今後数年もインフラ整備に数兆ドルが投資される点を指摘したうえで、「パリ協定とSDGsが、クリーンエネルギーや、気候変動に強く持続可能な経済の創出において、かつてない機会を民間部門に与えることになります。」と語った。
潘事務総長はまた、「私たちは、持続可能で包摂的な市場へ移行する決定的な岐路に立っています。」と指摘したうえで、「その第一歩は、これまでにない規模で世界の産業界を動員することにあります。」「世界のあらゆる企業が、あらゆる場所で、世界を良くするために役割を果たすことが可能ですし、そうすべきです。それは、ビジネスを正しく行うという誠実な経済活動から始まるのです。」と強調した。(原文へ)PDF
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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