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沖縄県知事、禁止されている米核ミサイルの配備を拒否

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

沖縄県の玉城デニー知事が、中国に脅威を与えるミサイルを沖縄に配備する計画を拒否した。この計画は明らかに、中国に対抗し、沖縄から500キロ離れた台湾の重要性を引き上げようとするドナルド・トランプ大統領の方針の一環である。玉城知事は、ミサイルを沖縄に配備する計画が進むようであれば、「沖縄住民からの激しい反対にあうことは容易に予想できる。」と語った。

沖縄は台湾と本州の間、東シナ海に浮かぶ150以上の島々からなる日本最南端の県だ。熱帯の気候、広い砂浜とサンゴ礁、さらには第二次世界大戦の激戦地としても知られている。

Map of Okinawa showing locations of US Bases./ Public Domain

沖縄は、第二次世界大戦終結以来、米軍にとって戦略的に重要な位置を占めている。島には、在日米軍全体のおよそ半分にあたる約2万6000人の米兵が、32の基地と48カ所の訓練地に分かれて在留している。

最大の沖縄本島には、1945年の連合国軍による大規模な侵攻(沖縄戦)を記念する沖縄県平和祈念資料館と、ホワイトシャークとマンタがいる美ら海水族館がある。

米国が沖縄に配備することを予定しているミサイルは、米国とソ連(1991年のソ連崩壊後はロシア連邦)との間で締結された1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約で禁止されているタイプのものである。

米国のロナルド・レーガン大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長(当時)は、射程500キロから5500キロまでの範囲の核弾頭、及び通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを全廃することに合意した。

INF全廃条約は、特定のカテゴリーの兵器の全廃に合意した初めての軍備管理条約であった。加えて、同条約の2つの議定書により、互いの軍隊の装備(ミサイルの破壊状況)について、双方がオブザーバーとして査察できる前例のない手続きが確立された。

INF全廃条約によって、米ロ合計で2692基の核弾頭及び通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルが廃棄された。米国のドナルド・トランプ大統領は2019年8月2日、ロシアが条約に従っていないことを理由として、条約から脱退することを正式に表明した。米国防総省は同年8月と12月、INF全廃条約で禁止されている種類のミサイルを2基、発射実験した。

On 31 July 1991, the US President, George Bush (sitting on the left), and General Secretary of the Communist Party of the Soviet Union, Mikhail Gorbachev (sitting on the right), sign the START I Agreement for the mutual elimination of the two countries’ strategic nuclear weapons./ Public Domain

米国の条約脱退以来、オーストラリア・日本・フィリピン・韓国は、米国の地上発射型ミサイルの配備を新たに認めるよう要請されてもいないし、配備を検討することもないと公に述べている。マーク・エスパー米国防長官は、中国に対抗するために欧州と、とりわけアジアにそうしたミサイルを配備したいと示唆していた。

国防総省筋は『ロサンゼルス・タイムズ』紙の取材に対して、国防総省は「我々の同盟国の懸念には多大なる注意を払っており、こうした国々の政治的課題については認識している。」と指摘したうえで、「メディアで報じられていることが、必ずしも非公開で協議されている全てではない。」と語った。

ワシントンのシンクタンク「軍備管理協会」が6月26日に報じたように、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が6月17日、NATO防衛閣僚会議を受けて、NATOは「欧州に地上発射型核ミサイルを新たに配備する意図はない。」と語った。

Secretary of State Michael R. Pompeo meets with NATO Secretary General Jens Stoltenberg, on the margins of the NATO Ministerial, at the U.S. Department of State in Washington, D.C., on April 3, 2019. / Public Domain

中国は、アジア太平洋地域への同ミサイルの配備に激しく反発している。中国国防部の呉謙報道官は6月24日、「もし米国が配備を強行するなら、中国の戸口における挑発だとみなす。」「中国はこれを座視することなく、必要なあらゆる対抗措置を取る。」と語った。

他方、トランプ政権は、引き続き中国が米ロとともに三国間の軍備管理協定に参加すべきと主張しており、米ロの核戦力を制限している最後の軍備管理協定である2010年新戦略兵器削減条約(新START)に関する6月22日の協議(ウィーン協議)に中国が不参加であったことを非難した。

ウィーン協議の開始前、米代表団を率いたマーシャル・ビリングスリー大統領特使(軍縮担当)は、空席に中国国旗を乗せたテーブルの画像をツイッターに上げ、「ウィーン協議が間もなく開始。中国は姿を見せない…それでも、ロシアと話を進めていく。」と書き込んだ。

中国外交部の傅聡軍縮局長はこれに対して「奇妙な光景だ…新START延長をお祈りしています! 一体どれだけ減らせるだろうか。」と応答した。米ロはそれぞれ約6000発の核兵器を保有していると推定されている。これに対して中国はおよそ300発だ。

軍備管理協会によると、ウィーン協議終了後の6月23日、中国外交部の趙立堅報道官は、空席に中国の国旗を置いた米国の行為は、「もし人々の関心を集めようとしているのならば、不真面目で、プロのやり方ではなく、アピール力もない。」と語った。

趙報道官はまた、「テーブルに置かれた国旗のデザインも不正確であった。」と指摘したうえで、「もう少し勉強して、笑いのタネにならないように一般常識を増やしてもらいたいものだ。」と語った。

トランプ政権は、中国が密かに資金をつぎ込んで核戦力を強化しており、今後の軍備管理協議には中国が参加しなくてはならないと主張している。

しかし、中国は、米ロ中の三国間協議にも、米中二国間協議にも参加を拒否している。

ビリングスリー特使は、ウィーン協議開始前の6月8日に中国を協議に招待したが、外交部の華春瑩報道官は次のように述べて、招待を断っていた。「中国は、米国・ロシアとのいわゆる三国間軍備管理協議に参加する意思はない。この立場は明確だ。」

ビリングスリー特使は中国政府に再考を促した。「強国の地位を得るためには、強国としての責任で行動すべきだ。」「中国は依然として、核増強を『秘密の万里の長城』の後ろに隠している。」と6月9日にツイートした。

マイク・ポンペオ米国務長官は6月18日、中国の楊潔篪外交部長とハワイで会談した。軍備管理がどの程度話題に上ったかは明らかにされていない。会談後、デイビッド・スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は記者団に、米国政府は「三国間協議への(中国の)積極的な参加を求めている…不幸な結果を防ぐためのこうした協議に参加してほしいと思っている。」と語った。

エスパー国防長官も、6月18日のNATO防衛閣僚会議で同様の見解を示した。米国防総省が読み上げた資料によると、エスパー長官は「ロシア・中国との意味のある三国間軍備管理協議に緊急に関与する件について触れた。」という。

ロシアは、米国からの圧力にも関わらず、中国の態度を変えさせて協議に参加させることを拒否している。

ロシアのアナトリー・アントノフ駐米大使は6月20日、「協議が国益にかなうものかどうかは、中国側の判断だ。」「ロシア政府は、中国の友人に無理強いすることはしない。」と語った。

アントノフ大使はまた、もし中国が協議に加わることがあれば、米国の同盟国であるフランスや英国も参加すべきだとの長年の見解を繰り返した。

ビリングスリー特使は、「『多国間主義』に関する米国の定義は異なっているかもしれないが、原理は同じことだ。」という認識を示したうえで、「中国の核軍拡は、フランスや英国の核戦力よりもはるかに大きな脅威である。」と主張した。

トランプ政権は、中国との軍備管理協議で何を目標とするのか、三国間協議でロシアと中国に対してどのような妥協案を提示するつもりなのかについて、具体的な内容を明らかにしていない。(原文へ

INPS Japan

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【ワシントンDC=ドリュー・クリスチャンセン】

長崎は日本のカトリック信仰の歴史において中心的な位置を占めている。イエズス会の伝道師フランシスコ・ザビエルが初めて日本を訪れた16世紀に始まって、長崎はキリスト教を日本に伝播させる上での中心地であった。

徳川幕府がキリスト教を禁止・迫害し始めた17世紀以来、長崎の「隠れキリシタン」は密かに信仰を守り、子を洗礼してカトリックの教義を与え、祈りを後世に伝えてきた。

19世紀後半にヨーロッパ人との接触が始まってキリスト教が合法化されると、信徒たちは隠れキリシタンたちが住んでいた地区に浦上天主堂を建設した。

1945年8月9日に長崎に原爆が投下された際、爆心地からわずか500メートルのところにあった浦上天主堂はほぼ原形を留めぬまでに破壊された。その日多数の信徒がミサに集っていたが、原爆による熱線や、崩れてきた瓦礫の下敷きとなり全員が死亡した。

爆撃された天主堂の遺物の一つが聖マリア像である。変形し、内部が空洞化し、眼が落ちくぼんで黒くなった像は、核のホロコーストの強烈な記憶を現在に伝えている。

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大する中、日本と米国のカトリック信徒らが被爆75周年を祈念する取り組みに加わった。8月3日、被爆者であるヨセフ高見三明大司教(現長崎大司教区大司教、日本カトリック司教協議会議長)は、イリノイ州ロックフォードの司教で「国際正義と平和に関する米司教協議会」の議長であるデイビッド・マロイ司教とともに発言をし、祈りを捧げた。

フランシスコ教皇は、昨年11月に長崎を訪問した際、「核兵器から解放された平和な世界。それは、あらゆる場所で、数え切れないほどの人が熱望していることです。この理想を実現するには、すべての人の参加が必要です」と述べて、核兵器廃絶を訴えた。

その2年前、ローマ教皇庁は国連の核兵器禁止条約に署名し、教皇がそれを批准した。条約が署名開放された会議においてフランシスコ教皇は、核兵器の保有と「使用の威嚇」を非難し、防衛政策としての核抑止の合法性を、事実上否定した。

高見大司教は「カトリック・ニュース・サービス」とのインタビューで「『声を上げ、大きくする必要があります』と訴えたフランシス教皇の呼びかけに応える必要があります。為政者たちをはじめ世界中のすべての人々に核兵器の存在は問題だと理解してもらわなくてはなりません。」と語った。

高見大司教はまた、「信仰者、とくにカトリック信者に向けて、まずキリストの教える平和について正しく知って理解してもらい、暴力のない世界は可能だということを分かってもらわなくてはならない。」と語った。

ロサンゼルスの大司教で米国司教協議会の議長であるホセ・ゴメス大司教は、来たる原爆忌を前に、「私の兄弟たる司教らと私は、奪われた無垢な命と、この悲劇的な攻撃が健康と環境にもたらした影響に苦しみ続けている世代のために、日本の方々と共に祈りたい」と綴った。

ゴメス大司教もまた、米国の司教らを代表して、フランシスコ教皇の核兵器廃絶の訴えに加わるよう呼びかけ、「人類と地球を脅かすこの大量破壊兵器を廃絶する取り組みにおいてたゆまぬ努力を続けるよう各国及び世界の指導者に求める」と述べた。

高見大司教とマロイ司教の8月3日の交流は、核廃絶に関するカトリック教会の教えを、カトリック信者と一般市民の双方に広めることを目指したものだ。同時に、ジョージタウン大学出版は、フランシスコ教皇が核廃絶の訴えを打ち出したシンポジウムでなされた証言をまとめた書籍『核兵器なき世界:バチカン軍縮会議』を出版した。

加えて、「カトリック平和構築ネットワーク」は、8月3日からの1週間で日米学生による太平洋横断対話を支援し、10月には、カトリック大学・ノートルダム大学・ジョージタウン大学の学生や大学関係者らと高見大司教の対話を支援する。

10月3日のオンライン対話は「核軍縮に関するカトリックの関与再活性化プロジェクト」によるものだ。同プロジェクトは、ジョージタウン大学バークレーセンター、ノートルダム大学クロック国際平和研究センター、米国カトリック大学政策・カトリック研究所が、ノースウェスタン大学の宮崎広和教授と協力して行うものである。

他に、パックス・クリスティ・インターナショナルや、国際カトリック大学連盟も共催者に名を連ねている。(07.14.2020) INPS Japan/ IDN-InDepth News

※著者のドリュー・クリスチャンセンは、ジョージタウン大学名誉教授(倫理・人間開発)で、バークリー宗教・平和・世界問題センター上級研究員。キャロル・サージェントとの共著に『核兵器なき世界:バチカン軍縮会議』(ジョージタウン大学出版、2020年)がある。(原文へ

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|視点|核兵器の脅威と闘うには「責任ある」メディアが必要(ジャルガルサイハン・エンクサイハン元モンゴル国連大使)

【ウランバートルIDN=J・エンクサイハン】

2020年の前半は、世界がますます緊密に繋がってきていること、そして、国境がない3つの生存上の脅威(①大量破壊兵器の存在、②気候変動、③新型コロナウィルス感染症のパンデミック)に対処するには、各国政府とあらゆるステークホールダーが協力し合うことが不可欠であるという現実を、私たちが改めて突き付けられた期間となった。

こうした脅威に対して何の対策も取らず、無視を決め込むことは、それ自体が第4の脅威となる。また、国際環境にマイナスの影響を及ぼす大国間の政治的・経済的角逐が強まりつつある。

パンデミック:上記の脅威の中で、とりわけ新型コロナウィルス感染症のパンデミックが、単独行動主義や保護主義、大国間の角逐ではなく、むしろ多国間主義と相互理解・協力こそが、共通の脅威と難題に実質的に対処するために必要であることを明示している。今日、「別々に行動するより団結する方が良い(死ぬも生きるも全員の意味)」という諺のとおり、狭隘なナショナリズムや大国間の角逐よりも広範な協力の重要性が増している。

パンデミックは、多くの国々における医療システムや公衆衛生を促進する国際協力が、今回の新型コロナウィルス感染症に対しては依然として脆弱なものであり、先進国ですら効果的な対応をとれなかったことを示した。適切な措置を取り、対応策に関する情報や経験を持ち寄る時間は失われた。効果的なワクチンの開発には、科学者や医者だけではなく、全世界の力が必要だ。願わくば、世界は、その他の生存上の脅威に対しても緊密に協力するようになってほしいものだ。

核兵器・生物・化学兵器を含む大量破壊兵器は、人類に対する明確な生存上の脅威である。新型コロナウィルスの感染拡大を念頭に置きつつ、パンデミックの兵器化を防ぐために、1972年の生物兵器禁止条約を再考する必要がある。

Image: Collage of images of biomasks and COVID-19 with graphics from Internet.

核兵器に関しては、その脅威は冷戦終結とともに除去されたわけではなかった。それどころか、核兵器保有国の数は増えてきた。冷戦終結後の30年、米国とロシアが保有する核兵器の数は減り続けているが、核兵器の脅威は低減されるどころか、むしろ増大している。

米ロ二国間の重要な核兵器全廃あるいは削減に関する協定は破棄され、その他の協定についても攻撃を受けている。超音速兵器、宇宙兵器、その他の先進兵器やシステムが開発される一方、核兵器が使用されるハードルは、核兵器低出力・小型化が進む中で下がってきている。

核実験の再開に関する議論さえ出てきているが、もし実施されれば広範囲な連鎖反応を生むことになるだろう。核不拡散体制は、「核軍備競争の停止および核軍縮に関する全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」という公約の履行をNPTの加盟国である核兵器国が拒んでいるために、弱体化している。

米国による、イラン核計画に関する多国間合意からの一方的な離脱は、合意を崩壊させるリスクを高めた。朝鮮半島における非核化協議は、重大な公約を実現しようという意思が当事国に欠けていたために停滞している。

こうした問題含みの動きが起こる一方で、核兵器が、故意、人間やシステム上のエラー、あるいは過失によって使用されることがあれば、その脅威は、現在の新型コロナウィルス感染症のパンデミックと違って、よく訓練を受けた献身的な医者でさえ実質的に役に立たなくなるぐらい大きな被害が瞬間的に生じるものとなる。

1945年に広島と長崎で核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の帰結と、被爆者の証言をよく知る各国の医師たちは1980年、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)を設立した。IPPNWは、核兵器が使用された環境下では、医師が犠牲者に適切な医療支援を行うことは不可能であり、最善の対応策は、そもそもそうした惨事を引き起こさないようにすることだと宣言した。

核兵器の使用がもたらす人道上の影響に関する最近の研究では、核兵器がわずか数発使用されるだけでも数十万人が即時に死亡し、その後にもっと多くの人々が苦しみながら亡くなったり、苦難を経験したりするとされている。また、いわゆる「核の飢餓」につながる、気候の壊滅的な崩壊を世界的に生み出すとされている。

メディアの役割:現在起こっているマスコミ革命は、一般の人々にとってメディアを最も直接的な情報源に押し上げた。今日、人々の意識を高め、その態度や意見を形成し、人々の行動を通じて、最終的な意思決定者、つまり各国の政府に影響を与えるうえで、メディアは重要な役割を果たすと期待されている。

しかし、メディアは、広範に利用できる情報の単なる伝達者であってはならない。なぜなら、そうした情報の中には、客観的な事実に基づいた情報もあるが、情報の利用者に影響を及ぼすような偏見を持ったものや、フェイクニュースも含まれるからだ。

Image credit: Pixabay

メディアは「良いニュースは悪いニュース」あるいは「悪いニュースは良いニュース」という論理に従ってはいけない。メディアがすべきことは、安全と平和、人々の相互理解を促進することだ。それは具体的には、客観的な情報を提供する、責任ある効果的な媒体として機能し、ニュースのより大きな背景や影響を示し、人びとが、問題の性格・課題・可能性がよく理解できるように問題の文脈を明確にし、人びとが直接、あるいは、同じような見方を共有する集団を通じて問題に積極的に関わっていけるようにすることを通じて、なされるべきだ。(原文へ

※著者は、モンゴルの元国連大使で、NGO「ブルーバナー」の代表。この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「Toward a Nuclear Free World」の最新レポートの序文として寄稿されたものである。

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【ナイロビIDN=シッダルタ・チャタジー】

17歳の女子高校生ダルネラ・フレイザーさんは、ジョージ・フロイド氏が白人警察官のデレク・チョービンに首を膝で押さえ付けられて死亡するまでの数分間を撮影した時、まさか自分の撮った映像が人種差別への世界的な抗議行動を再燃させ、警察改革を求める抗議の声が広がっていくとは、夢にも思わなかった。

この撮影行為は、メディアの力を世界的に実証することとなった。私たちは、同じようにアフリカにおいて緊急の行動を必要としている。持続可能な開発目標(SDGs)が達成され、全てのアフリカの人々に本来あるべき機会が与えられるよう、アフリカのメディアが貢献しなければならない。

Amina J. Mohammed/ UN Photo
Amina J. Mohammed/ UN Photo

「世界中で、SDGsの達成に成功することが、世界的な不安を和らげ、人々により良い生活を与え、あらゆる社会に安定と平和をもたらすための確固たる基盤を構築することになる。」とアミーナ・モハメッド国連副事務総長は述べている。

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)が引き起こされる前から、レバノンからチリ、イランからリベリアに至る世界各地で、民衆による抗議の波が広がっていた。これは、様々な進歩にもかかわらず、このグローバル化した社会は何かが壊れていることを明確に示している。

COVID-19のパンデミックは、あたかも根深い不平等の実態を白日の下に晒す稲妻のごとく、世界全体に広がった。メディアの報道が、密接に関連している不平等と健康の関係を解明する手助けとなった。つまり報道を通じて、貧困層ほど、圧倒的に多くがウィルスに感染・死亡し、深刻な被害を受けていることが明らかになったのである。

長年にわたる公民権の剥奪と人種差別に抗議する民衆の声が世界を席巻している現状は、あらゆる人々が平等に扱われるように世界が変わらなければならないことを示している。

メディアもまた、SDGsに関して同じことができる。SDGsを達成して数多くのアフリカの人々の生活を向上できるかどうかは、人々の意識向上と、そうした意識が加速させる焦点を絞った行動と資金調達にかかっている。

Photo: Woman on the streets of Minneapolis holds #BlackLivesMatter sign. Credit: Breakthrough News

開発の進展に関する大きな欠点のひとつは、SDGsと「2030アジェンダ」に関する知識が広範に広まっていないことだ。SDGsについて積極的に報道するメディアに関心を向けなくてはならない。何が報道され、どのように報道されるかは政策形成に影響を与え、生活に影響を受ける数多くの人々を左右することになるからだ。知識は力であり、市民が問題意識を持てるようになれば、国の対応を決める力を手にすることになる。

従来、開発の専門家らは、教育関係者や政治家、メディアといった影響力をもつ人々に対して、持続可能な開発という比較的新しい概念についてうまく説明することができていない。今後そうすることがカギを握る。なぜなら、SDGsを容易に理解できる工夫がなされれば、市民からの支持を集めることができるからだ。

私たちは、国連の193加盟国が公約した開発目標の期限である2030年に向けて既に3分の1程のところに来ている。しかし、COVID-19のパンデミックに関わらず、現在の変化のペースでは、保健・教育・雇用・エネルギー・インフラ・環境といった主要な領域において、アフリカは期限内に目標を達成できそうにない。

SDGsそのものや、その達成に必要な行動、そしてそうした行動に責任を持つ機関に関する市民の意識を高めることが肝要だ。メディアは、SDGsが示している社会正義と平等を実現するためのグローバルな取り組みに関する報道を強化することで、市民社会や経済界、国際機関、地域機関、諸個人に刺激を与えることができる。

知識を得た市民からの圧力が政治家らを行動に向かわせ、数多くの人々に希望を与えることになる。

アフリカでは、開発問題はメディアにとって決してかけ離れた問題ではない。従って、持続可能性に関する理解を構築する機会は既にそこにある。持続可能な開発に関する専門家は、なぜSDGsが重要であり、開発における「これまでのやり方」では、なぜ増大する人口や気候変動に対処できないのかを、説明しなくてはならない。そして、「持続可能な開発」の概念を誰もが理解できる説得力のある物語を制作できる報道機関は、人々のSDGsに関する注目を高め、それによって支持を獲得することができる。

私たちは「通説をひっくり返す」必要がある。

何がどのように報道され、そしてどのような媒体で報道されるかは、政策形成に役立つほか、生活が影響を受ける数多くの人々を左右することになる。

この目的のために、メディアは対話に参加し、大義に向かって自らが果たせる役割を理解するようにしなくてはならない。

SDGsは、「誰も置き去りにしない」、そして、「最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する」と約束している。これは実際には、極度の貧困を根絶し、不平等を緩和し、差別と対決し、最も放置された人々に進展をもたらす迅速な行動を取ることを意味している。

メディアは、例えば、SDG第3目標のテーマである「全ての人に健康と福祉を」という大きな問題を検討するために、COVID-19の例を持ち出しながら、最も放置されている人々に光を当てることができる。

SDGsfor All Media Project Annual Report

また、メディアは、2030アジェンダを各国政府に順守させる上で重要な役割を果たす。公約では、各国が報告や説明責任を果たすためのメカニズムを持たねばならないことになっているが、ほとんどの国が、特定の目標に向けた進展に関する信頼性のあるデータを提示していない。これが問題なのは、SDGsに向けた資金調達は、実際にどの開発領域で資金が必要とされるかを理解するためのデータを集積できて初めて可能となるからだ。国別の公約が十分な投資で裏付けられることがほとんどないアフリカの場合、この点は特に重要である。

携帯電話の急速な普及は、アフリカ大陸の人々に、フェイスブックやツイッター、ユーチューブ等のデジタルプラットフォームを通じてコンテンツを共有する比類のない絶好の機会を提供している。インターネットの接続環境や手頃な価格のプロバイダーが依然として不足している問題があるものの、モバイル技術は多くの部門で強力に可能性を押し広げている。

Siddharth Chatterjee
Siddharth Chatterjee

地球上の6人に1人がアフリカで暮らしている。つまり、アフリカの問題は世界の問題であり、これを解決することが世界の責任だということだ。もしアフリカがアジェンダ2030を達成することができなければ、その影響は、紛争や移民、人口増加、大きな気候災害という形で地球上を覆うことになる。

アフリカのメディアは、SDGsの達成に向けた責任を負っている。(原文へ

*この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「SDGs for All」の最新レポートの序文としてチャダジー氏から寄稿されたものである。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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国連、新型コロナ関連の情報汚染と闘うためのグローバルイニシアチブを始動

|UAE|世界の子どもに安全で清潔な水を提供するイニシアチブが始動

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は、UAE副大統領でドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下が、世界の子ども500万人を対象に清潔な水を提供する「UAE水援助プログラム」構想を発表した、と報じた。

「粗末な下水設備や適切な浄化装置の不足等が原因で、21秒毎に1人のペースで子どもが命を落としている現状を考えれば、この支援プログラムは実に意欲的な試みである。」とガルフ・ニュース紙は6月30日付の論説の中で報じた。

実施を監督するのはエミレーツ赤新月社で、具体的には井戸の掘削、適切な水配給システムの構築、安全な水を提供するための効果的な浄水装置の設置等に対する支援を行う予定である。

UAE Water Aid/ Gulf News

これまでのところ、この支援構想に対する反応は上々で、発表から24時間が経過した時点で3200万ドゥルハム(約9億1600万円)の寄付金が寄せられた。

今回の発表はイスラム教徒が断食という修行を通じて貧しい人々の心情を身をもって経験・内省し、喜捨を通じて神への信仰を捧げるラマダン開始日(6月29日)に行われた。

子どもたちが最も病気や細菌、寄生虫に侵される危険性が高いことを考えれば、清潔で安全な飲料水は、かけがえのない(ラマダンの)贈り物となるだろう。これらの病原菌は、水が乏しく、飲料水の供給体制を向上させるための資金がないか、或いは他の問題に対処するために(飲料水対策に)資金を回す余裕がない地域で活発に繁殖する傾向にある。

「今後この支援プログラムは、ソマリアの平原地帯や、アフガニスタンの丘陵地帯、或いはスーダンの乾燥地帯にある村々、さらには紛争で分断されたパキスタンの部族地域において、村の井戸や水道の蛇口から清潔な水を常に確保できるよう支援の手を差し伸べていく予定である。」とドバイに拠点を置くガルフ・ニュース紙が報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|視点|新型コロナウィルス感染症がもたらす食料危機に立ち向かうアフリカの女性たち(リンダ・エッカーボム・コールAWR代表)

【サンタバーバラ(米カリフォルニア)IDN=リンダ・エッカーボム・コール】

立ち上がるアフリカの女性たち」(African Women Rising, AWR)が2000カ所にパーマガーデンを新たに作るキャンペーンを開始した。新型コロナウィルス感染症によって食料不足に直面している1万5000人に、食べ物の確保を支援しようとする試みである。パーマガーデンは、地域コミュニティーが自らの食料ニーズを満たすのを可能にし、飢餓に対する長期的な解決策となる。

マーガレットは、地元の市場でもう2カ月も魚を売ることができていない。ウガンダ北部で新型コロナウィルスの感染拡大予防のために実施されている制限は、彼女の世帯にも甚大な影響を及ぼしている。家族に他の収入源がなく、苦しんでいる。

高齢のマーガレットは農場に通って働くことができない。盲目の夫は健康を崩しており、8人の孫にとってはマーガレットが主な世話係であり、稼ぎ手だ。マーガレットの家庭では、これまでに食事を1日1回に減らしてきた。

SDGs Goal No. 2

これが、「立ち上がるアフリカの女性たち」が活動する地域における女性の多くが直面している現状である。

行動制限によって、この地域にいる140万人の南スーダンからの難民も影響を受けている。彼らには、市場や農場で働く道が閉ざされており、その他の収入減もない。さらに、世界食糧計画(WFP)が資金不足により食糧支援を減らしていることが、状況を悪化させている。難民は食料を月に1度しか受け取れないが、1回で半月分にしかならない。

「立ち上がるアフリカの女性たち」はこれに対応して、難民キャンプと(難民を受け入れている)地域コミュニティーの双方において、最も脆弱で最も食料に困っている人々を支援するパーマガーデン構築計画を急速に強化している。パーマガーデンは、食料の生産を2週間以内に可能にし、以後数年にわたって家族を支えることのできる、すでに実績のある再生可能なアプローチである。

「立ち上がるアフリカの女性たち」の「強化デザイン作物・パーマガーデン」事業は、単に技術を教えるだけではなく、水管理・土壌管理の背景にある原則を共有し、システムをできるだけ生産的・再生的にデザインするような背景理解を育てるためのものである。AWRのプログラムは農業生態学的な観点からの24の評価指標を持っている。

パーマガーデン計画の全体的目標は、多様な栄養源や適切な量の野菜・果物を、年間を通じて入手できるようにすることである。農民はこれを、家屋周辺の小規模なパーマガーデンの設計と構築を通じて行うことになる。

パーマガーデン法は、パーマカルチャー(自然のシステムを利用して生産に活かす設計原則である農業アプローチ)と生物集約的農業(生物多様性を強化する持続可能性のある取り組みによって作物生産を最大化する農業アプローチ)を組み合わせて、高度に生産的な庭と家庭菜園を作り上げるものだ。

雨季・乾季の両方で機能するように設計され、栄養のある作物を生産するために土壌の肥沃性と水管理を改善するような全体的なアプローチが特徴である。この方法は、小規模な土地しか持たない農民がいかにして年間を通じて食料を生産することができるかを証明している。それは、適切な庭の管理と資源運用の背景にある原則を学び、これらの原則を基本に忠実に実践することによってなされる。

このアプローチは、長期的な能力の強化を図りつつも、参加する農民の短期的な食料需要にも応える。農民たちは、家庭菜園の設計を通じて天然資源を管理することを学ぶ。農地の肥沃さと生産性を向上させるために、水を集め、廃棄物を再利用する。

既存の木々を管理し、果実や多目的樹木、生垣、その他のバイオマス植物を植樹することにより、建築資材や病害虫対策や医薬品の原料、そして乾季の栄養源が確保できる。またこれによって、薪集めや野生生物の採取、炭の燃焼などによってますます悪化している環境への負荷を削減できる。

最も脆弱な2000世帯(約1万5000人に相当)に対応するには20万ドルが必要だ。

一つの庭あたりの維持コストはわずか100ドル。これには次のものが含まれる。

・訓練3回分(1回の訓練期間は3日間)

・種と果実の木

・ひと月ごとの訪問と、1年間に及ぶ技術支援

多くの人々が2014年にパーマガーデンを始めている。土地なしの未亡人が4人の孫の面倒を見るのは大変なことだ。彼女のパーマガーデンは家のすぐ横にあり、年間を通じてかなり多くの作物が採れる。育てているのは、パパイヤ、トマト、カボチャ、4種類の葉物野菜、玉ねぎ、ヤム芋、コショウ、オクラ、パッションフルーツ、シトラスである。

15メートル四方の畑で、食べ物は十分に採れる。市場やご近所さんに売れるだけの余分の作物もある。その毎週の収入によって、塩や石けん、学用品といった基本的な品を買うことができる。菜園からの収益を元手に今では、鶏や山羊も飼っている。

メアリーの成功は例外的なものではない。こうした結果は、パーマガーデン事業では普通のことで、それを証明するデータもある。各世帯は、安全に食料と新たな収入を手に入れ、資産投資が可能になり、子どもを学校に通わせたり、医療にお金がかけられるようになる。パーマガーデンは不安定な時を支えてくれる。ただの応急措置ではなく、長期的な解決策を与えてくれるのである。

Map of Uganda

AWRではメアリーの成功を、それを最も必要とする人々に広めるために幅広く支援を求めている。有志の支援が、マーガレットのような女性が今そして将来にわたって家族を助けるのに必要な道具と技術を与えることになる。

新型コロナウィルスの感染拡大のために、ウガンダは事実上閉鎖状態にある。私たちは、対象を絞り込んだ、人々が食べ物を手に入れるのに必要な再生的農業を除いて、一時的に事業を停止している。

私たちのスタッフは、とりわけ難民キャンプにおける新型コロナウィルス対策に向かっている。ウガンダ北部には11カ所のキャンプに140万人の難民がいる。難民キャンプで爆発的感染が起これば、人道的な危機になる。AWRは、パーマガーデン事業以外に、石けんを配布し、手洗い場を提供し、ウィルスの感染拡大を防ぐ情報を拡散している。緊急を要する事態である。(原文へ

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第二次世界大戦終結75周年:大戦の起源を巡る諸議論

連合国による対独戦争終結75周年に際して、多角的な視点から第二次世界大戦の起源を振り返るシリーズの第4弾。英国の著名な歴史家や戦後まもなく米国総省のシンクタンクが分析を加えたレポート等をもとに、戦争に至るまでのナチス政権の経済政策と英独関係を中心とした外交関係の系譜を解説したジョナサン・パワー氏(INPコラムニスト)による視点。歴史家による学問的な研究も例外とは言えないが、特に戦争が関わる歴史認識は当事国の政治的な思惑等による様々な見方がある。そうした異なる見方が少なからず現在の国際関係に影響している観点から、時折、あえて多角的な視点から振り返る記事を取り上げている。(原文へ

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INPS-IDNが加盟する「国連SDGsメディア・コンパクト」、新型コロナ危機の社会経済的影響を20億人超の視聴者・読者に向けて発信

国連SDGsメディア・コンパクトは、「報道機関とエンターテインメント企業の拡大するアライアンスが、新型コロナ感染症(COVID-19)危機の社会経済的影響を20億人超の視聴者・読者に向けて発信している。」と指摘したうえで、メディアパートナーの好例として、生態系と人の健康がいかに交差しているかを報じたIDN(In-Depth News)を挙げている。

【UN Sustainable Development Blog】

2020年5月18日、 持続可能な開発目標(SDGs)に関する報道を充実させ、その達成に向けた行動を活性化させることを目的に、報道機関とエンターテインメント企業のアライアンスとして発足した「SDGメディア・コンパクト」の参加企業が100社に達した。

大手放送局から定評ある活字メディア、通信社(IDN-InDepthNews , Flagship Agency of the International Press Syndicate Groupを含む)やラジオ局、さらには台頭著しいデジタル出版社に至るまで、幅広い企業が参加するSDGメディア・コンパクトは、5大陸の160カ国をカバーし、参加企業の100を大きく上回る媒体を通じて、合計で約20億人にコンテンツを届けている。

Secretary-General Antonio Guterres swears in Ms. Melissa Fleming, Under-Secretary-General for Global Communications.

「科学と連帯、そして私たちに共通のロードマップであるSDGsに基づき、デマに対処するとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機からの持続可能な復興に向けた行動に勢いをつけるうえで、メディアは重要な役割を果たします。」「私たちは、全世界からのSDGメディア・コンパクト参加企業100社が、現代の重大な課題について報道し、より健全で平和な世界に向けた前進の原動力となる決意を示していることを誇りに思います。」と、グローバル・コミュニケーション担当のメリッサ・フレミング国連事務次長は語った。

SDGsは世界のリーダーたちが2015年に採択した世界共通目標で、2030年までに貧困に終止符を打ち、地球を守り、あらゆる人の生活と将来の見通しを改善するよう、全世界に行動を呼びかけている。国連の専門家による発言やデータ、報告書、ストーリーはSDGメディア・コンパクト参加企業と定期的に共有され、各社の編集の独立に干渉することなく、SDGsに関する記事に着想を与えています。コンパクト参加企業はまた、国連の新たな「Verified(ベリファイド/検証済み)」イニシアティブの一環として、デマに対抗し、インターネットや放送電波を科学や解決策、連帯に関するコンテンツで満たすため、 信頼できる正確な素材も受け取ることになっている。

メディアとエンターテインメントの業界で欧州最大の企業Sky Groupにとって、SDGメディア・コンパクトへの参加は、地球規模の大きな課題に取り組むことを意味している。「当社が戦略をSDGsと整合させているのは、私たちの世界をより良くするために欠かせない変革を企業が推進できるよう、SDGsが明確な目的を提示しているからです。」と、Sky GroupのCEOジェレミー・ダロック氏は語った。

SDGs logo
SDGs logo

最近の参加企業の一つShanghai Media Groupは、共通の目標に向けて取り組む地球規模のアライアンスの一員となる目的で、コンパクトに加わった。「グローバル・メディア組織と密接に連携し、人類が共有する未来のコミュニティーを共につくっていけることを真摯に望んでいます。」と、王建軍会長は語った。

また、米国に本社を置くデジタル出版社ATTNの上級ストラテジスト、チャーリー・ゴールデンソン氏は、「国連と連携し、その専門家の声やデータを活用できることは、私たちがストーリーで語る素材や情報を豊富にし、人間の感情に訴えるストーリーが実質的なインパクトを与えることに役立っています。」と語った。

「デマやフェイクニュースが多く飛び交うデジタルの世界では、信頼性が極めて重要です。SDGメディア・コンパクトとの連携と豊富な編集向けコンテンツの共有で、私たちは大きな信頼を獲得できました。COVID-19をはじめ、時事問題に関する自由な情報の流れは、コミュニティーが新型コロナウイルスへの対策をどう改善できるかに関するストーリー作りに役立ちました。」と、カメルーンのラジオ局Ndefcamのマイケム・エマヌエラ・マンジー氏は語った。

既に多くの参加企業がデマに対処し、科学に基づくウイルス対策情報を発信するとともに、さらに幅広い持続可能な開発アジェンダとの関連で、COVID-19の社会経済的影響を伝えるために、不可欠な役割を演じている。

SBS Australiaは、コロナウイルスをめぐる陰謀論が急速に広がっている様子と、その理由について検討した。Sky Newsは、5G無線アンテナとコロナウイルスの関連性をでっち上げた陰謀論の嘘を暴いた。Noticias Positivasは、今回のパンデミックに関連するフェイクニュースの問題について報道し。ATTN は、若者がCOVID-19関連コンテンツの事実と作り話を見分けられるよう、デジタル・リテラシー特集を立ち上げた。そして朝日新聞は、世界保健機関を悪者にしても、世界がウイルスを封じ込めるための役には立たない理由を説明した。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

社会経済分野では、Euronewsがアントニオ・グテーレス国連事務総長とのインタビューで、世界がこの危機からさらに強くなって立ち直るためには、グローバルな連帯が必要であることを訴えた。CGTNは、最貧国の債務救済を求める動画を多く発表した。日本経済新聞は、COVID-19対策に不可欠な要素として、メンタルヘルスのサービスの必要性に関する記事を掲載した。そしてPrensa Latinaは、子どもの福祉を守るよう訴える事務総長の要請を広く伝えている。

環境問題に関し、Jakarta Postは、パンデミック(世界的大流行)からの環境に優しい復興(グリーン・リカバリー)を求める事務総長の声を大きく伝え、SBSは、COVID-19が私たちの経済を「緑化」する可能性について報じ、In Depth Newsは、生態系と人間の健康がどのように絡み合っているのかを説明したほか、Scientific Americanは、コロナ危機のCO2排出量に対する影響と、そのグリーン・リカバリーに対する意味合いについて報じている。

ジェンダーの側面について、毎日新聞は、女性と女児に対するパンデミックの影響に取り組むよう求める国連事務総長の声を、大きく伝えた。DevexはUNウィメンとのインタビューで、危機が女性の仕事、健康、暮らしに与える不当に大きな影響を明らかにした。そしてSkyは、COVID-19対応計画で女性に対する暴力の予防と救済を優先するよう各国政府に強く訴える国連事務総長のメッセージを放映した。

Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
SDGs Media Compact

SDGメディア・コンパクトについて

2018年9月、国連事務総長が31社の創設メンバーとともに立ち上げた「SDGメディア・コンパクト」は、世界中の報道機関とエンターテインメント企業に対し、その資源と創造的才能をSDGs達成のために活用するよう促すことを目的としている。現時点でアフリカ、アジア、米州、オーストラリア、欧州、中東から100社がSDGメディア・コンパクトに加わっている。事実やヒューマンストーリー、解決策を発信することにより、同コンパクトはSDGsに関するアドボカシーと行動、説明責任の強力な原動力となっている。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

今年は、第二次世界大戦における連合軍の対独勝利75周年にあたるが、ロシアと当時の西側同盟国(英国・フランス・米国)において必ずしも一般に認識されていない第二次大戦勃発に至った経緯について、英国を代表する当時の戦略家と歴史家(リデル=ハート、A.J.Pテイラー)の文献をもとに改めて振り返った、ジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。(原文へ

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|新型コロナウィルス|感染リスク予防接種の中断で8000万人の乳児が危機に晒される

【ジュネーブ/ニューヨーク=ジャヤ・ラマチャンドラン】

6月4日にロンドンで開催される「世界ワクチンサミット」に先立ち、世界保健機関(WHO)、国連児童基金(ユニセフ)、そして、貧困国へのワクチン供与を行っている国際機関「GAVIワクチンアライアンス」は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、命を守る予防接種サービスが中断に追い込まれ、富裕国、貧困国を問わず世界の何百万人もの子どもたちがジフテリア、はしか、ポリオなどに罹るリスクに晒されている、と警鐘した。

WHO、ユニセフ、GAVI、サビン・ワクチン・インスティテュートが収集したデータによると、少なくとも68カ国において、定期的な予防接種が行えず、1歳未満の乳児8000万人に影響がでている。

Tedros Adhanom Ghebreyesus, Director General, World Health Organization at the AI for Good Global Summit 2018/ By ITU Pictures from Geneva, Switzerland, CC BY 2.0

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「予防接種は、公衆衛生の歴史で最も効果的かつ基本的な疾病予防の手段の一つです。」「COVID-19の感染拡大により予防接種プログラムが中断してしまえば、はしかのような予防接種で感染を防ぐことができる病気を封じ込めるためにこれまで数十年に亘って積み重ねてきた進歩を台無しにしてしまう恐れがあります。」と語った。

WHOによると、子どもの定期予防接種は、予防接種拡大計画が1970年代に開始されて以来、前例のない世界的規模で中断されている。データが利用可能な129カ国の半数以上(53%)において、中程度から大規模の中断、または2020年3月から4月の間の予防接種サービスの完全な停止が報告されている。

予防接種が中断される理由は様々である。移動制限、情報不足、またはCOVID-19への感染を恐れて、外出に消極的な保護者もいる。また、往来の制限やCOVID-19への対応、防護具がないといった理由から、医療従事者の人手が不足している。

Gaviワクチンアライアンスのセス・バークレー事務局長は、「今日、歴史上かつてないほど、ますます多くの国々で、ワクチンで感染予防が可能な病気からより多くの子どもたちを守れるようになりました。しかしこうした大きな進歩も、COVID-19の感染拡大により、予防接種の実施が危うくなっており、はしかやポリオといった感染症が再び流行するリスクが高まっています。」と語った。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

さらに、ワクチン輸送の遅延が状況を悪化させている。ユニセフは、都市封鎖の措置や、その後の民間航空便の減少と限られたチャーター便の運航のため、計画されていたワクチン供給が大幅に遅れていることを報告した。これを緩和するために、ユニセフは政府、企業、航空業界などに対し、命を守るワクチンのために良心的な価格で貨物スペースを解放するよう求めている。GAVIは先日、輸送に利用できる民間航空便の数が減ったことを考慮し、ワクチンの輸送にかかる費用の増加を補うための事前資金を提供すると、ユニセフと合意した。

ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は、「一つの感染症と闘うために、他の感染症との戦いで得た長期的な進展を犠牲にするわけにはいきません。ポリオ、コレラの感染予防に効果的なワクチンがあります。状況によっては予防接種を一時的に中断する必要があるかもしれませんが、これらの予防接種はできるだけ早く再開しなければなりません。そうでなければ、感染症を一つ防ぐ代わりに別の感染症を流行させてしまう恐れがあるからです。」と、語った。

大規模な予防接種キャンペーンが相次いで一時中断

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

一方、WHOは、多くの国は、COVID-19パンデミックの初期段階から感染リスクを低減させ物理的な距離を保つ必要性から、コレラ、はしか、髄膜炎、ポリオ、破傷風、腸チフス、黄熱病などの感染症における大規模な予防接種キャンペーンを中断した、と発表した。

とりわけ、はしかとポリオの予防接種キャンペーンは大きな影響を受けており、はしかキャンペーンは27カ国で、ポリオキャンペーンは38カ国で中断している。GAVIの支援する低所得国21カ国において少なくとも2400万人が、キャンペーンの延期により、ポリオ、はしか、腸チフス、黄熱病、コレラ、ロタウイルス、HPV(ヒトパピローマウイルス)、髄膜炎および風疹の予防接種を受けられないおそれがある。

WHOは3月下旬、予防接種キャンペーンで多くの人が集まることでCOVID-19の感染を助長すると懸念し、リスク評価と新型コロナウィルスの効果的な感染対策が確立されるまでの間、予防接種を一時中断することを各国に推奨した

その後、WHOは状況を監視し、各国が予防接種キャンペーンを再開する方法と時期を決定するために役立つガイドラインを発行した。ガイドラインでは、各国がCOVID-19感染のダイナミクス、医療体制のキャパシティ、および予防や流行への対応として予防接種キャンペーンを実施することによる公衆衛生上の利益に基づいて、特定のリスク評価を行う必要があると述べている。

このガイドラインに基づき、そしてポリオの感染拡大における懸念の高まりを受けて、世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)は、各国に向けて、とりわけポリオの感染リスクの高い国での予防接種キャンペーンの安全な再開を計画し始めるよう求めている。

このような課題があるにもかかわらず、予防接種を継続するために取り組んでいる国々もある。ウガンダでは、予防接種サービスが他の重要な医療サービスとともに継続できるよう取り組むとともに、アウトリーチ活動のための移動資金を確保している。また、ラオスでは3月の全国封鎖にもかかわらず、特定の場所での定期予防接種は物理的な距離をとる措置を講じた上で継続された。(原文へ

Photo credit: Physicians Committee for Responsible Medicine
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